「おでがいじまず!おちびじゃんをぺっどにじでぐだざい!」

・・・

長かった冬も終わり、春がやってきた。 
昨日までの雨や寒さが嘘のような暖かさと春一番。そんな陽気に誘われて散歩にくりだした。 
見れば桜の木に花が咲き始めている。今日はいい天気だ。 
いつもの散歩コースはゆっくりたちと公園に行き、そして帰る。今日も公園に足を運んでいた。 
公園の入り口に入ると草むらから一匹のゆっくりまりさが飛び出してきた。 
そして冒頭の台詞と繋がる。



※M1氏のイラストを基に書いています。 
 台詞丸々パクリ、原作レイプ注意


当然と言えば当然だが、まりさは薄汚れている。 
左頬の辺りに猫のものであろう引っかき傷がついており帽子は傷だらけ、歯も何本か抜け落ちている。 
野良ゆっくりはこうした状態のものが多い。 
町に棲むゆっくりは体を洗う手段どころか、その日の糧にすらありつけない事が多いからだ。 
人間の町と言うコンクリートの牢獄に囚われた哀れな生ゴミ。 
昼夜を問わず走り回る車は、身を八つ裂きにする処刑器具であり、 
人々は彼らを喋る生ゴミとして気まぐれに殺戮していく。 
たまにありつける食べ物も、たっぷりと排ガスを吸った雑草かビニール袋に入った人間の残飯。 
風雨をしのぐ寝床など無い。この町には木のウロも洞窟も穴を掘れる柔らかい土も存在しない。 
路地裏や自動販売機の裏に潜み、ダンボールやビニールシートで体を覆い震えながら雨をしのぐ。 
なけなしの食べ物を保管することすら出来ない。 
保健所やカラス、野良犬に見つかればそこで全てが終わってしまう。 
この世界の全てが敵だ。 
この町のありとあらゆるものが彼らをゆっくりさせない。 
何故ゆっくりできないのか、何のために生きているのか、一体何が自分達をここまで苦しませるのか。 
そんなことを考える余裕は彼らには無い。 
最後にゆっくりしたのはいつだっただろう? 
思い出せるはずが無い。野良に生まれたならばただの一度たりともゆっくりすることなど出来ない。





「おでがいじばず!おちびじゃんをかいゆっぐりにじであげでぐだざい!おでがいじばずぅ!」

涙を流しながら同じ事を叫ぶまりさ。ずいぶんと必死なようだが、ひとつ気にかかることがある。 
まりさの言うおちびちゃんとやらの姿が見当たらない。

「・・・そのおちびちゃんはどこにいるんだ?ここからじゃお前以外のゆっくりはいないように見えるんだが」 
「ゆ"っ!ごっぢでず!ついできでぐだざい!」

そう言いながら公園の奥へと跳ねていくまりさ。案内しようというのだろう。 
丁度暇をもてあましていたところだ。暇つぶしにはなるかもしれない。 
のろのろと跳ねる饅頭の後ろをゆっくりと歩いてついていく。





公園の奥の茂みに隠されるように置かれたダンボールの箱。あれがまりさのおうちなのだろう。 
ダンボールの中には子まりさが横たわっていた。開かれた眼からは生気を感じられない。帽子も脱げている。

「つめたいあめざんとかぜさんがゆっぐりしなかったからおぢびじゃんがびょうぎになっちゃっだんでず!」

まりさが足元で泣きながら説明する。 
確かに、昨日までの寒さは尋常ではなかった。 
真夜中まで雨が降り続いたし、そのときの気温は零下までいったのではないだろうか。 
そのせいで子まりさは風邪にかかったのだろう。

「ばでぃざはだめなおがーざんだがらおちびじゃんをゆっぐりさせであげられまぜん!」 
「ふ~ん」

適当に相槌を打つ。野良ゆっくりの中に駄目じゃない母親がいたらむしろ見てみたい。

「あ~あ、不出来なお母さんを持って子供も可哀想だね」 
「ばでぃざはどうなっでもいいでずがらおちびじゃんだけでもたずけでくだざい!おでがいじばず!」

まりさ種にしては殊勝な心がけだ。 
だがひとつ重要なことを忘れている。

「なぁまりさ?おちびちゃんを助けても俺には何一つメリットが無いんだが。ああ、可愛いって言うのは却下な」

野良のゆっくりは「可愛い自分をペットにして」と人間に媚を売ってくることがある。 
大抵の場合は追い払われるか、ありったけの暴行を加えられるか、殺されることになる。 
どうやったら薄汚い饅頭を可愛いと言えるのだろうか。

「おちびじゃんはとっでもいいこでず!にんげんざんのいうこどもぢゃんときぎまず!」 
「嘘付け」

何一つ信じられない。 
野良ゆっくり一匹で育てた子が、どうして人間の言うことを聞くのだ。

「ばでぃざはがいゆっくりでじだ!!!けどおねーざんとまいごになっぢゃっだんでず!」

がいゆっくり・・・害ゆっくり?なんだ、普通の野良ではないか。 
と思ったが違う。飼いゆっくりか。濁点のせいで間違ってしまった。 
このまりさは元飼いゆっくりで、迷子になった・・・つまりは捨てられたということか。 
それならば人間と暮らすためのそれなりの知識と礼儀は知っているのだろう。

「おちびじゃんにもうんうんやごはんのたべがだもおじえであげまじだ!」 
「決まった場所で排出したり、静かに綺麗に食事をすると」

真っ先に教えられるであろう躾の内容を知っている。 
どうやら本当に元飼いゆっくりのようだ。

「ばでぃざがおどもだったどぎにぺっどしょっぷというおうちでならいまじだ!」 
「え?お前、ペットショップ出身だったのか?」

てっきり野良を適当に飼って捨てたのだと思っていたが、このまりさは愛玩用に教育された個体だったのか。 
しかも売られる前に教育を受けている。結構な値段がしたはずだ。すてるなんてとんでもない。 
こいつを捨てた飼い主も酷い事をする。 
生まれてから室内で生きるように仕込まれた飼いゆっくりを、都会で野良させるなぞ死ねと言っているようなものだ。 
幸い知能が高いせいか、駆除されたり食い物にされないで生きてきたのか。

「・・・あれ?まりさ、なんでお前に子供がいるんだ?」

まさか捨てられてから作ったというわけでもあるまい。 
野良ゆっくりに子供を作る余裕など無い。 
あったとしても生まれる子供の半分が食料として、もう半分が物乞いのために利用される。

「おどもだちのありずあぞんでいだらだめっでいっだのに・・・ばでぃざはだめっでいっだのに・・・ゆああああぁぁぁ!!!」

元から垂れ流していた涙の量をさらに増やし、まりさは泣き叫ぶ。 
成る程。孕まされたのか。

「おねえざんはばでぃざのあがぢゃんをよろこんでくれるどおもっだのに・・・おねーざんは・・・」 
「飯代かかるからおん出されたのか?」

ゆっくりが勝手につがいを作り、子を産んでしまうということは良くある。 
生れ落ちた子供達は、餌を親に要求する。もちろんその負担は飼い主にかかってくる。 
飼い主からすればたまったものではない。いきなり食い扶持を増やされることに喜ぶものはいない。 
だが親ゆっくりは反省しない。あかちゃんがこんなにかわいいんだからごはんちょうだいね!と。自分がした事の愚かさに気づかない。 
結果、飼い主はゆっくりへの愛情を無くす。 
赤ゆっくりそのものに幻滅し、その親ごと捨ててしまうのだ。 
このまりさもその手合いだろうか。

「きたならじいって・・・こどもがでぎるなんてにんげんみたいだって!」

・・・・・・・・・。

「ただわらっでいればいいのになんでよげいなごとをずるのだっで!」

『ゆっくりは饅頭であって動物ではない。ゆえに繁殖もしない』と思っている人は存在する。 
ゆっくりは不思議饅頭なのでどこからか勝手に現れる、ゆっくりの生態を知らない人の一部はそう考えている。 
半分あたりで、半分はずれだ。確かにゆっくりはどこからか勝手に現れてきている。 
明らかに死ぬ数が生まれる数より多いゆっくりが今も存在しているのは、この理由が大きい。 
だが一方で、ゆっくりは生殖も行う。それこそ普通の動物のように。

「ばでぃざはいつもひどりでせまいはこのおうちにいるのに!ひどりじゃないどだめなんだっで!」

まりさの飼い主もそんな人だったのだろう。ゆっくりのことを良く知らずにゆっくりを飼い始めた。 
幻想のお饅頭だったはずなのに、いつの間にか子を孕み、産む動物のようなものだと気づいた。 
お饅頭が子供を産むなんて。気味が悪くなったのだろう。

「ばでぃざはおねーざんとおなじじゃなきゃいけないんだっで!ずっとひどりじゃないどいげないんだっで!」

加えて飼い主本人の境遇がまりさに更なる不幸を呼んだ。 
独身の女性がまりさに求めたものは何か。 
癒しではなく、同じ境遇に身をおく仲間。一人ぼっちだからまりさをひとりぼっちにする。歪んだ独占欲。 
しかしまりさは子供に恵まれた。ひとりではない。彼女は一体何を思ったのだろうか。

「ばでぃざはおねーざんがいづもさみじぞうだっだがらがわいいあがちゃんをみぜであげようど・・・」 
「もういい、分かった」

まりさを止める。 
こいつの飼い主がどんな人間だろうと、こいつがどれだけ辛い思いをしてきたのだろうと俺には関係ない。 
そんな事よりも・・・

「まりさ、お前の子供もうちょっと見せてもらっていいか?」 
「ゆっ!?」

まりさが驚く。ここまで子まりさに興味を持ってもらったのは初めてなのだろう。

「どっどうぞ、ゆっぐりみでいっでぐだざいぃ!!!」

ここでチャンスを逃してなるものか。 
そう思ったのだろうか。まりさは叫ぶように返事をする。

しゃがみながら、ダンボールの中を覗き込む。 
野良生活のため、子まりさの体は薄汚れている。触る必要はない。 
子まりさを観察する。子まりさは動かない。 
ああ、やっぱり。

「まりさ、確かおちびちゃんをペットにして欲しいっていってたよな」 
「はいぃ!!ぞうでずぅ!!」

まりさの方に振り向きながら訊ねる。 
まりさが返事をする。眼の中に希望の光が見えた。

「ちゃんと躾は出来てるんだよな?うんうんとか食事とか。それ以外には?」 
「はい゛!でぎでまず!!おちびじゃんはおうだもうだえまずじ、みずさんのうえをおぼうじでわだれまず!!」

躾の内容を確認する。 
まりさの中の希望がどんどん大きくなっていくのが分かる。

「うちには結構な数のゆっくりがいるからなぁ。ちゃんと仲良くやっていけるよな?」 
「はい゛!!だいじょうぶでず!!おちびじゃんはだれとでもながよぐなれまず!!」

まりさが泣きながら返事をする。 
今流れている涙は感涙なのだろうか。

「ペットにするのはおちびちゃんだけで、お前はペットにしないぞ?いいのか、まりさ?」 
「はい゛!!!ばでぃざはどうなっでもいいがらおちびじゃんをじあわぜにじであげでくだざい!!!」

即答するまりさ。 
本当に自分より子供の幸せを願っている。

「・・・・・・良し、分かったよ、まりさ。おちびちゃんをペットにしてやる」 
「・・・ゆ゛うううぅぅぅぅぅぅ!!!あ゛りがっ、あ゛りがどうございばずぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

まりさは泣き崩れる。よっぽど嬉しいのだろう。

「おでがいじばず、どうがおちびじゃんをじあわぜにじであげでぐだざいぃぃぃぃぃ!!! 
 おでがいじばず、どうがおちびじゃんにおいじいごはんをたべざぜであげでぐだざいぃぃぃぃ!!! 
 おでがいじばず、どうがおちびじゃんにゆっぐりでぎるおどもだぢをみづけであげでくだざいぃぃぃぃ!!! 
 ありがどうございばず、ありがどうございばず、ありがどうございばず、ありがどうございばず・・・・・・」

まりさが泣きながら額を地面にこすり付けている。たぶん土下座のつもりなのだろう。 
ようやく幸せになれる我が子に涙を流すまりさ。

今まで捨てられてから何一つ幸せではなかった。 
泥の味がする雑草を食み、吹き付ける風や雨に耐え、人間から隠れてきた。 
時には同属に騙され、食われそうにすらなってきた。 
そんな自分が頑張れたのは全て自分のおちびちゃんのため。 
おちびちゃんのためなら、どれだけ苦しい目にあっても耐えられる。耐えていける。

そんなときに、おちびちゃんが病気になってしまった。自分ではどうすることも出来ない。 
自分ではどうすることも出来ないが、あるいは人間さんなら。人間さんならどうにかできるのではないか。 
そうおもって恐怖を飲み込んで人間さんに声をかけ続けた。蹴られ、踏まれても人間さんに声をかけ続けた。

そして遂に、おちびちゃんを拾ってくれる人間さんを探し出した。 
これからおちびちゃんはしあわせに生きるのだろう。 
暖かいおうちでおいしいたべものをむーしゃむーしゃするのだろう。 
人間さんのおうちにはたくさんゆっくりがいるらしい。 
きっと仲良くなれる。おちびちゃんにはおともだちが一杯できるのだろう。 
そんなおちびちゃんのしあわせのためならば、自分のゆん生などどうでもいい。 
おちびちゃんがしあわせに生きられるならば、自分は一生野良でもいい。

・・・・・・なんてことを思っているに違いない。

「まりさ、もう顔を上げろ。涙と土でぐしゃぐしゃじゃないか」 
「ゆっ・・・ゆぐっ・・・ありがとうおにいさん・・・」

しかしながら現実は思ったほど甘くない。

「まりさはどうするんだ・・・?これから野良を続けるのか?」 
「・・・うん。まりさはこれからものらゆっくりとしていきるよ」

野良ゆっくりに話しかけられてきたときに潰さなかったその理由は。

「おにいさんにめいわくはかけられないよ。おちびちゃんをしあわせにしてあげてね・・・」 
「ああ、わかってる。約束するよ、まりさ。ところで・・・」

捨てられたゆっくりの子供を拾ってやると言ったその理由は。

「そのおちびちゃんさ、死んでると思うんだけど」

つまりはただの、暇潰しなのだ。








「      ゆ       ?       」









「いや、ゆ?じゃなくて。おちびちゃん死んでると思うんだけど」 
「ゆああ゛ああああああああ゛ああああぁぁぁぁああああ゛ああああぁぁぁ!!!!?」

弾かれる様にダンボールの中へと飛び込むまりさ。 
ダンボールの中の子まりさは動かない。

「おちびじゃん!おちびじゃん!!おぎで!!おちびじゃんっだら!!!ほら、ず~りず~りじであげるがら!!!ず~りず~り!!!」

そう言いつつ子まりさへとすりすりするまりさ。だが起きない。子まりさは動かない。 
なぜならそれは、子まりさはすでに死んでいるから。

「な?まりさ。おちびちゃんもう死んでるだろ?」 
「ぢがうよ!!!おぢびじゃんはす~やす~やじでるだけなんだよ!!!おら、おぎで!!ちびじゃん!!ず~りず~り!!!」

いつ死んでいたのかは分からない。 
少なくとも子まりさを観察していたときには死んでいた。 
あるいはもっと早く、子まりさが入ったダンボールを見つけたとき、いや、それ以前だろうか。 
とにかくもう子まりさは動かない。

「なぁ、まりさ。俺はおちびちゃんを飼うとは言ったけどさ、死体を引き取るのはちょっと・・・」 
「ちがうよ!!!おちびじゃんはいぎでるよ!!!ほら、おちびじゃん!はやぐおぎないどおにいざんがかんぢがいしぢゃうよ!!!」

まりさは諦めずに子まりさにすりすりする。無駄なことだと分かっているだろうに。 
そもそも死んでいるのを確認して飼うなんて言ったのだ。生きているはずが無い。

「まりさ、おちびちゃんは死んだのでこの話は無かったことに・・・」 
「ゆ゛わ゛あああ゛あああ゛あ゛あああ゛あああ!!!いぎでまずぅ!!いまおごじまずがらまっでぐだざいぃ!!!」

希望は絶望を二乗させる。 
子まりさの幸せという希望を抱いていたまりさにとって、今の絶望はどれほどのものなのだろうか。 
哀れを通り越して滑稽だな。

「まりさ。もう、いいんだ。いいんだよ・・・」 
「ちがうのおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!おちびじゃんはいぎでまずぅぅ!!!いぎでいまずがら、どうかああああぁぁ゛ぁぁ゛ぁ!!!!」

出来るだけ優しい笑みを浮かべる。 
まるでまりさを慰めるように。 
まりさを安心させるように。 
慰める気も、安心させる気もないのに。

「いいんだよ、まりさ。いいから、いいからさ―――――」 
「ゆっ・・・?お、おにいざん・・・?」

まりさが少しだけ安心したような顔になる。何を安心しているんだ。 
今から言う言葉に縋り付こうとでもしているのだろうか。 
きっと優しい言葉をかけてくれると。おちびちゃんを何とかすると言ってくれると。 
そんなわけないのに。





「まりさ。その小汚いゴミクズ、ちゃんと片づけておけよ?」





まりさは何も言い返さなかった。 
もうまりさの瞳に光は無い。あるのは絶望だけ。 
何も言わずに元子まりさであった死体を見続けるまりさ。 
そうだよ。その顔が見たかったんだよ、まりさ。





いい暇つぶしになった。そろそろ帰ろう 
背を向け、歩き出す。まりさたちを置いて。 
やはりこんな日は外に出かけるに限る。おかげで面白い物が見れた。 
今も公園の奥では身じろぎひとつしないまりさが”おちびちゃん”を見つめ続けている。 
あの様子ではすぐに死ぬだろう。

それにしても、酷い飼い主もいたものだ。 
ゆっくりを捨てるときは、ちゃんとつぶしてゆっくりゴミの日に出す。それがルールだ。 
このルールを守れていないおかげで野良ゆっくりの数は増え続けている。 
もっとも、俺も野良ゆっくりを潰さずに放置するあたり、マナーがなっていない。反省しなくては。

公園の入り口にきたところで振り返る。 
やはり、まりさは動かない。 
ゆっくりゴミの日は毎週金曜日。今日は土曜日だ。 
もし6日後まであのまりさが生きていたら、公園の清掃ボランティアでもしようか。 
そう思いながら、俺は散歩を続けることにした。


【おわり】

25dfd9d7

元ネタ:M1