とある一匹の鴉が死んだ。

それだけならば、よくある話だっただろう。だが彼の場合は、少し事情が違っていた。

いつも通りの朝のはずだった。 
早朝、彼は餌を探しに狩りへと出掛ける。目的地は、人間のゴミ置き場。

彼の餌は、人間が捨てていく生ゴミとそれに群がる饅頭ども。



※街ゆあき氏のイラストを基に書いています。 
 台詞いろいろパクリ、原作レイプ注意。



ゆっくり。 
いつごろから現れたのかは知らないが、そいつらは彼にとって重要な餌となっていた。 
たいした抵抗も出来ずに、ただ狩られるだけの存在。しかも中身はとても甘い。 
餌としてみればこれほど好都合なものは無かった。

常日頃利用しているゴミ置き場に向かった彼も、そんな餌どもを見つけた。 
1、2、3、4。 
親と思われるデカ饅頭1つに、その子だろうチビ饅頭3つ。 
生意気にもゴミ袋を破き、彼の食事である生ゴミを分け合っている。

「むーしゃ、むーしゃ!!しあわせー!!!」

よくわからない鳴き声を発する饅頭ども。 
彼はそんなことには興味が無い。今の興味は4つの餌のうち、どれから頂こうかということだけだ。 
適当に目当てをつける。

大きい紅白饅頭は・・・駄目だ。あれは最後にしよう。でかい饅頭は不味い。 
小さいうちの、紅白一個に黒白二個。どれから先に食べようか。 
どうせ2個あるのなら、黒白から先に頂こうか。それが良い。そうしよう。

翼を傾け、急降下する彼。 
狙いは黒白饅頭。その内の一個に襲い掛かる。

「ゆぎぃいい!!いちゃいいい!!!」

噛り付いた。 
口の中に広がる甘み。ふっくらとした食感。そしてついでと言うような悲鳴。 
やはりこいつらは美味い。素晴らしいね。 
そう思いながら彼は黒白饅頭を解体する。

「おちびちゃああああああん!!!」

デカ饅頭が突っ込んできた。 
しかし彼は慌てない。ふわりと飛び立ち、華麗に避ける。 
餌の中には時々こうやって攻撃を仕掛けてくる者がいる。全く無駄なことだ。

反撃とばかりに、彼は饅頭の身体を啄ばんでいく。徐々に削り取られていく身体。 
右半分の顔の皮を剥ぎ取った。奴が動くたび、中から何かが零れ落ちる。 
唇を削いだ。歯と歯茎がむき出しになり、だらだらと唾液が垂れた。

徐々に動きが鈍くなっていく饅頭。 
餌の分際で、この俺に歯向かうからだ。大人しく食われていればいいものを。 
少々順序が狂ったがまぁいい、このデカ饅頭から食ってやろう。 
デカ饅頭の顔面を啄ばむべく嘴を突き出す彼。

あるいはそんな油断がいけなかったのか。 
思いもよらぬ事が起きた。

饅頭が動いた。 
彼の動きに合わせるように、口を開く。 
彼の頭は饅頭の口内に吸い込まれ、饅頭の歯が首に食い込んだ。

馬鹿な。

驚きと共に、あらん限りの力を使い暴れる。 
だが外れない。饅頭の歯は、ガッチリと彼の首に食い込んでいる。 
饅頭もこのチャンスを逃さんと必死で彼に喰らい付く。

徐々に意識が遠のいてくる。

馬鹿な。馬鹿な。この俺が。この俺が、饅頭なんかに。 
殺される?殺されるというのか、この俺が。この俺が・・・

「おちびちゃん、かたきはとったよ!!」

その言葉を最後に、彼の意識は闇に沈んでいった。 
次第に彼の動きは鈍くなり、やがて彼は動かなくなった。



一匹の鴉がゆっくりに殺された。 
結果を見れば笑い話にしかならないだろう。

空を飛び、嘴と爪を持つ者がそうではない者に殺される。 
相手は考えられる限り最弱の生物。餌に殺される者がいるなど滑稽でしかない。



だが、それを見ていた彼の同胞達はそうは思わなかった。

同胞が饅頭に殺された。 
地を這い、牙も爪も持たぬ者が我々を殺したのだ。

許すまじ。饅頭ども、許すまじ。

この日から鴉達はゆっくりのことを餌ではなく、敵として見るようになった。 
そう、ただ単に居れば狩り立てる餌から、見つけ出して殲滅すべき敵へと。



彼らは同胞の仇をとった。 
同胞を殺した饅頭、その子供も残らず血祭りに上げたのだ。

だが、これで終わりではない。 
この街にはこの饅頭どもが、それこそ無数に生息している。

復讐を。一心不乱の復讐を。 
彼らはそう心に決め、飛び立っていく。

殺してやる。 
同胞をこのような目に合わせた饅頭どもを、一匹残らず殺してやる。

飛んでいく。 
この決意を街中の同胞に伝えるために、飛んでいくのだ。



この日、この街に住む全てのゆっくり達の死が決まった。 
だが、それをまだ知るものは居ない。







ちょっと鴉が多い街のお話










いつも通りの朝のはずだった。 
早朝、人がまだ少ないうちに、親れいむは子供達を連れて狩りへと出掛ける。 
彼らの食料源は人間の残した残飯や生ゴミ。今日もそれを目当てにゴミ置き場へと向かっていた。

今日は少しツイていた。 
捨てられていた生ゴミの袋を噛み千切り、中身を引きずり出す。なんとコンビニ弁当の残りが入っていた。 
いつもならばもっと粗末なゴミを貪っている親れいむたちにとって、それはご馳走だった。

「おちびちゃんたち、きょうはごちそうだよ!」 
「ゆぅぅ、ごちちょう!」 
「やっちゃー!」 
「れいみゅこのおきょめしゃんたべりゅー!」 
「まりしゃはこのたまぎょやきしゃん!」

そう言ってコンビニ弁当をひっくり返す親れいむ。 
子れいむ2、子まりさ2の子供達は我先にと残飯に喰らいついてゆく。 
彼女たちに父は居ない。とっくの昔に親まりさは死んでいた。

「ゆうう!おいちいー!たまぎょやきしゃんあまーい!」

齧りかけの卵焼きに食いつく姉まりさ。 
黒ずみ汚れたそれも、姉まりさにとっては貴重なあまあまである。

「すぱげっちいさん、おいちい!」 
「むーしゃむーしゃ、しあわせー!」

スパゲッティの残骸を頬張る妹まりさと姉れいむ。 
ただの残飯をここまで幸せそうに食べることからも、彼女達の今までが想像できる。

「ゆゆ!おねぇちゃんたち、じゅるい!れいむもむーしゃむーしゃす―――」

そう妹れいむが言いかけたとき、何かが彼女の頭を掴んだ。 
ふわりと浮遊感。そして徐々に離れ、遠ざかる地面。

妹れいむの頭を掴んだものは鴉の鉤爪であった。 
急降下し、捕まえ、飛び立つ。ただそれだけを鴉は行なった。

ぐんぐんと上昇してゆく鴉。 
あまりの早業に、妹れいむの家族はまだ誰も気付いていない。 
当の本人さえ「おそらをとんでるみたい!」と思っているだけだ。 
それがどうなるかとは気付きもしないで。

そのまま空の彼方へと消えてゆく影。 
暫く後、妹れいむの絶叫が聞こえてくることになるのを家族達は知る由もない。

「ゆー♪おちびちゃんたちゆっくりしてるよぉ♪」

だが、これで終わりではない。 
のんきに残飯を貪る親れいむ達の上空では、黒い影が大量に、それこそ無数に控えている。

その影の正体は鴉。 
同胞のために、饅頭どもを殺し尽くすと殺意に凝る殺戮者たち。 
彼らはまず手始めに、のこのこと出てきたこの饅頭どもを殺そうとしている。

今もこの街のどこかで同じような光景が広がっているはずだ。 
彼らによって裂かれ、抉られ、無残にも息絶えようとするゆっくりの姿が。

いつも通りのはずがなかった。 
今日この街のゆっくりの数が半減するのを、彼らは知らない。 
一体誰によってそれが成されたことを知るのかは、もう少し後の話になる。

ようやく妹れいむが居ないということに親れいむが気付いたのと、殺戮者たちが襲ってくるのは同時だった。








鴉達は頭が良かった。少なくとも、襲うべき対象を見分けられる程度には。

訂正しよう。 
この街に住む『全ての』ゆっくり達が死ぬというのは間違いだ。 
正確には、『全ての野良である』ゆっくり達が死ぬ。

人間達に飼われているゆっくりが存在する。

鴉達は、人間たちを無駄に敵に回すことを是としなかった。 
少なくとも、人間の愛玩動物を殺して駆除対象になるのは避けたかった。

飼いゆっくりはバッジと言う物をつけている。 
人間に飼われているということの証明であり、また同時にそのゆっくりがどの程度躾けられているかをも表す。

バッジは大別してゴールド、シルバー、ブロンズの三種類に分けられる。 
正確にはもう少し種類があるのだが、ここでは関係ない。

ゴールドバッジは厳しい試験をパスした者だけが身につけることを許される最高ランクの証明だ。 
試験をパスするゆっくりの大半はコールバーグ理論の第三~第五段階までに到達していると判明している。 
日本愛玩ゆっくり指導管理協会、通称「ゆ協」は第六段階に到達した者のためにプラチナバッジを用意しているという噂があるが、 
生憎その段階に達したゆっくりは確認されていない。

シルバーバッジは試験などは必要なく、ただ単に飼い主が裕福であることを表す。 
このバッジを取得するにはそれなりの金額が必要であり、飼い主がそのゆっくりにある程度金をかけているとわかる。 
このグループの中にはゴールド予備軍の良いゆっくりもいれば、ただ金をかけられただけの野良と変わらないゆっくりもいる。 
以上のこともあって、最も扱いの難しいバッジなのだ。近年、簡単な試験を設けようという声も出ている。

ブロンズバッジは「このゆっくりは野良ではない」と主張する程度の効果しかない。 
目の前で踏み潰されても文句は言えず、雀の涙ほどの賠償金が支払われる事となる。 
ブロンズバッジをつけられるゆっくりも、大抵はゲスである。善良なものなどほんの一握りしかいない。 
これより更に下のランクである虐待用ブラックバッジなどもあるが関係ないので省く。

この三つのバッジによって、人々はそのゆっくりへの態度を決める。 
即ち、普通に接するか、邪険に接するか、潰すかだ。

鴉達も、そんなバッジの性質を理解していた。 
バッジによって人間に愛される饅頭どもと、そうでない饅頭どもを見分けているのだ。

金色のバッジをつけた饅頭には攻撃するな。 
もし攻撃すれば、街の人間たちは我々を駆除しようと動くだろう。

銀色のバッジをつけた饅頭は、そのときの判断に任せよう。 
人間が近くに居るようなら見逃し、そうでないならば殺す。

銅色のバッジをつけた饅頭は必ず殺せ。 
例え人間が近くに居ようとも殺して問題ない。どうせこいつらに人間は味方しないのだ。

この認識は成功していた。 
銅や銀のバッジ付きを殺されたぐらいでは、人間達はそう動かなかったのだ。 
あくまで人々が愛しているのは金の、優秀で愛嬌のあるゆっくり達だけ。 
野良を進んで駆除してくれ、金バッジには手を出さないのだから駆除する理由はない。

もちろん個人で鴉達を駆除しようとする者は増えた。 
だが無意味。いくら人間でもたった一人では彼らを狩り切れない。数の優位というものはそれほどまでに大きい。

つまり人間達はこの復讐を見過ごすことにしたのだ。

そのお陰で奇妙な光景が増え始めた。 
公園の草むらで身体を啄ばまれる野良ゆっくりを尻目に、広場で遊ぶ金バッジゆっくり達。 
野良ゆっくりの悲鳴をBGMに、彼らは楽しくお遊戯をする。

飼いゆっくりに保護を求める野良もいた。 
飼いゆっくりにしてみれば、普段は自分達を妬み、襲ってくる悪いゆっくりを何故自分が助けなくてはならないのかと思うだろう。 
結果、保護される者など一握りだった。あとは放置され、鴉達に殺された。

銀や銅バッジのゆっくり達も、このままでは殺されると気付き金バッジ取得に躍起になった。 
そのためこの街の飼いゆっくりの金バッジ保有率はうなぎ上りとなってゆくのだが、それはまた別の話。










「ゆっぐ・・・・・・ゆっ、ぐ・・・・・・」

人気のない薄暗い路地裏に向かって、れいむ達は這い進む。 
口には小さな子れいむを抱え、後ろ髪を咥えて進むのは、れいむの夫であるまりさだ。

見れば彼らの全身は傷だらけ。 
まりさの帽子は破け、両目は抉られている。子れいむに至っては、生きてさえいるかどうか。

「ゆぎっ・・・・・・ゆぐぐ・・・・・・」

満身創痍となりつつも、れいむ達は前進するのをやめない。 
何故ならそれは、そうしなければ殺されてしまうから。

野良ゆっくりが殺されている。それも、今までにないスピードで。 
ようやく彼らがそのことに気付いたときには、街に残された野良ゆっくりはほんの一握りしか居なかった。

この街に流れ着くような者はいち早く殺され、街の外に逃げることも叶わない。 
既に目立つ場所に居たゆっくり達は殺し尽くされ、彼らは隠れ住む生活を余儀なくされている。

自然と餌を狩る機会が減り、彼らの数はますます減っていく。最悪の悪循環。 
夜の闇に紛れようとも、殺戮者達の目は饅頭どもを逃がさない。 
日夜繰り返される殺戮者達の追及は、徐々にゆっくり達の心を蝕んでいった。

逃げなければ殺される。 
隠れなければ殺される。

今やこの街の野良ゆっくりの恐怖の対象は、人間から鴉に移っていた。 
そして今日、れいむ達は彼らに見つかった。それだけの話だ。

「れいむ・・・・・・もう、おちびちゃんはむりだよ・・・・・・あきらめようよ・・・・・・」

空洞の眼窩から涙を流し、まりさはれいむにそう呟いた。 
光を失う前、おちびちゃんに何が起こったか。その光景は今も忘れていない。

「ぢがうよ!!おぢびぢゃんはいぎでるよ!!ばがなごどいわないでねばりざ!!」

そんなまりさを一喝するれいむ。 
だが気付いている。そうでなければ何故こんなに涙が止まらないのだ。 
おちびちゃんが、もう目を開けることは無いだろう、なんて。

(どぼじで・・・・・・どぼじでごんなごどに・・・・・・)

れいむは自問する。 
何故自分達がこのような仕打ちを受けねばならないのかと。

彼女達の後ろ、人々が行き交う通りでは金色のバッジを飾りにつけたゆっくりが楽しそうに跳ねている。 
他にも飼い主と思われる人に抱かれたゆっくり、飼い主に寄り添い一緒に歩くゆっくり。

何故だ。 
何故自分達だけこんな仕打ちを受けねばならないのだ。

れいむは知らない。 
過去に同属が取り返しの付かない過ちを犯したことを。 
敵に回してはいけないものを敵に回してしまったことを。

自分達とあのゆっくり達になんの差がある? 
なぜあのゆっくり達はあんなにも、嬉しそうに生きていられるのだ。

れいむは知らない。 
れいむと彼らを隔てるものはたった一つ。それは小さな金色のバッジだけ。 
たったそれだけの小さなバッジが、今れいむ達をどうしようもない苦境に立たせている。

一体自分達が何をした? 
何もしていないはずだ。一体奴ら、殺戮者たちは何故こんなことをする。

れいむは知らない。 
罪の有る無しなど関係ない。ただゆっくりに生まれたから、ただそれだけでこんな地獄を見ていることを。 
殺戮者にとってれいむもまた、殺すべき饅頭の一つに過ぎない。

何故、何故だ。一体何故・・・・・・

れいむの自問は尽きることはない。 
この世のあらゆる理不尽を、一体何故とれいむは嘆いてゆく。

だが、そんなれいむに救いの手は伸びはしない。 
結末は決まっているのだ。この町に居る野良ゆっくりは、すべて死ぬ。 
このれいむもまりさも他のゆっくり達も、抗いきれない運命に抗い、流されてゆくだけ。

ずりずりとれいむ達の這う音が路地裏に響き渡る。

(どぼじで・・・・・・どぼじで・・・・・・どぼじで・・・・・・おぢびぢゃん・・・・・・)

れいむとまりさは、路地裏の深い闇の中に消えてゆく。 
最早動かない子れいむは、捨て置かれたままになっていた。


そんな彼らを追うように、ギャアギャアと歪な鳴き声と羽音が聞こえてくる。 
見れば、空から黒い羽がひらりひらりと舞い落ちてきていた。



 
この街に住む全ての野良ゆっくり。かれらの未来は、暗い。

【おわり】

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元ネタ:街ゆあき