ゆっくりSS

 4月19日 PM2:15 


 ゆっくりれいむと、ゆっくりまりさ、この2匹を飼うことにした私がまずやったのは、こいつらの巣を庭に作ることだった。 
 安く買い叩いた我が家は古い日本家屋だ。 
 手入れもせずに放置気味の庭なら、ゆっくりを飼うのに充分な広さがある。 

「ゆっ♪ゆっ♪ゆっ」「ゆっ♪ゆっ♪ゆっ♪」 

 ぽいんぽいんと音を立てて庭の真ん中を横切るように跳ねる当のゆっくりたち。 
 番という訳ではないらしいが、何とも仲がいい。 

*出遭った話からの続きです 
*この作品の舞台は愛で特化されています 
*ゆっくりが漢字を使って話します 
*今回もゆっくり達はちょっと痛い目にあってます 
*幻想郷との関係は……未定です 



 一方の私はというと、そんな2匹を横目に、庭に持った小さな土山の上へとプラスチックの衣装ケースを横にして置き、針金と杭で固定している最中だ。 
 まぁ、入り口が全開のテントやプレハブ小屋みたいなものを想像してくれればいい。 

「ゆっくり~のひ~♪」「まったり~のひ~♪」 

 庭の端まで到達した2匹がクルリと180度方向転換し、今度は反対の端へと跳ねていく。 
 ターンのタイミングもピッタリだ。 
 こちらはケースの蓋を3分の2に切って、ケースの入り口を塞ぐ。 
 出入口に必要なところ以外は塞いでおけば雨風を防ぎやすいからだ。 

「すっきり~のひ~♪」「ゆ~ゆゆゆゆ~♪」 

 また反対の端に到達した2匹が同じようにターンする。 
 しかし、何故にこいつらは普段から表情が無駄に不敵なのか。 
 人によってはニヤついてると評されるのも分かる。 
 まぁ、そんな事はどうでもいい。 
 とりあえず、半透明のケースの周囲を固定の針金ごと黒いビニールと緩衝材(いわゆるプチプチ)で覆う。 
 更にその上から土を被せてドーム状にした。 
 防寒対策とプライバシー(笑)保護の為だ。 
 ただ、明かりは欲しいだろうから、ケースの蓋の側はそのままにした。ちなみに南東向きである。 

「ゆっくり~したい♪」「ゆっくり~したい♪」 

 しかし、さっきからなんか歌ってるな、こいつら。 
 歌と呼ぶには調子外れなんで最初は分からなかったが、2匹の間の音程だけは合ってたんで歌らしいと判断する。 
 とりあえず、作業の邪魔にはならないんで放っておくとして…… 
 最後に、巣の横のスペースに浅く穴を掘って、砂を流し込む。これでトイレも完成だ。 
 と、ちょうどそのタイミングで庭の中央に帰ってきた2匹が揃ってこっちに向き直った。 

「「ゆっくりしていってね!!!」」 

 キリッと眉毛をいからせて、いかにも「やり遂げたよ」という表情のゆっくり饅頭ども。 
 いやいや、お前ら歌ってただけだろう。 

「ゆっ?!なんだか、ゆっくり出来ない感想を抱かれた気がするよ?」 

 ゆっくりれいむが、ちょっと眉をひそめて独り言(?)を言う。……鋭いな、おい。 

「ゆゆっ、そんな事はないよ!きっとおねえさんも、まりさたちのお歌と踊りでゆっくり作業が出来たはずだよ!」 

 あぁ、踊ってたのか、アレ。 
 確かに、変にジャンプの高さやタイミングが合ってたとは思ったけどさ。 
 正直な話、ゆっくりの芸能スキルなんて分からないんだが、アレはレベルとしてはどうだったんだろうな? 
 心底どうでもいい話だが。 

「あー、れいむにまりさ。ちょっとこっち来い」 
「ゆっ!おうち出来たの?」 
「おお、雨にも負けず風にも負けないゆっくり出来るコンポス……げふんげふん。ゆっくりハウスの完成だ」 
「ゆわああああああっ!すごいよぉっ!こんなゆっくりできるおうち、れいむ初めて見たよぉ!」 
「まりさも始めてだよ!おうちの外に砂場さんもあるよ!」 

 目をキラキラさせて喜ぶ2匹。ちょっと泣いてすらいる。 
 ここまで喜ばれると苦労した甲斐があるというものだ。 

「そこの砂場はトイレだから。基本的に排泄はここでするように」 
「「ゆっくり理解したよ!!」」 
「このブロック塀で囲まれた中が私の家の庭だ。ここから外には出るなよ?あと、庭の中に生えてる草や虫は全部食べてもいいから」 
「「ゆっくり理解したよ!!」」 

 うむ。返事だけはいいな、こいつら(笑) 



 とまぁ、私を含めた1人と2匹が庭でじゃれていると、来客があった。 

「あららら、本当にゆっくりを飼い始めたの?」 

 庭を覗き込んで驚いた顔をしている人がいた。 
 色素の薄めな長い髪と、紺色の女性用スーツの上から羽織った白衣が特徴の美しい女性だ。 
 手には女性用にしてはかなり大きめのカバンを持っており、カバンの中央には赤十字とウサギを組み合わせたマークが付いている。 
 まぁ、ぶっちゃければ私の仕事場での知り合いだ。 

「あー、すんませんね。わざわざこんな所まで来てもらって」 
「いえいえ。こっちも商売ですから。毎度ご贔屓にしていただいてありがとうございます」 

 突然に現われた新しい人間に、ゆっくり2匹はちょっと警戒するように身を寄せ合っている。 
 そんな様子に気づいた女性が、にこやかに笑って2匹に手を振ってみせる。 
 ちょっと驚いてビクッと震える饅頭たち。 

「ゆぅ……おねえさんのお友達?」 
「ゆっくりできる人?」 

 恐る恐る聞いてくる。そんなに人間が信用できんのだろうか? 
 今までどんな生活してたのかマジで気になるぞ。 

「ええ。私は霊夢おねえさんのお友達だよ。ゆっくりしていってね」 
「「ゆっくりしていってね!!!」」 

 満面の微笑みに、全力全開の笑顔で挨拶を返すゆっくりたち。 
 ……な、なんか周囲に少女漫画みたいなキラキラした空気が見える、ぞ? 
 私が主にゆっくりできん(汗) 
 後で聞いた話だと、ゆっくりというやつは「ゆっくりしていってね」という言葉を聴くと条件反射で同じ台詞を返してしまうらしい。 
 例え、それが捕食者から逃げてる最中でも、熟睡中でも、止まって、振り向いて、笑顔&大声で返す。実に難儀な習性である。 



 ま、とりあえず立ち話もなんだし、饅頭共の巣も完成したので、私達人間は家の中で話をする事にした。主にビジネスの話を。 
 この人……ウサミミお姉さんと呼ぼうか。 
 何故そう呼ぶかというと、このお姉さんは私の職場によくやってくるウサミミ薬局という薬屋さんだからだ。 
 サプリメントからタミフルまで、ありとあらゆる薬を販売するというのがウリで、ヘタな薬局・病院よりも重宝している。 
 そして、実はゆっくりブリーダーでも有名らしい。 
 聞いた話だと、基本種・希少種・レアまで含めて12匹も飼っているという。 
 当然、販売物には、ゆっくり関連の商品もある。 
 ゆっくりについて初心者の私は、彼女に事情を説明して、指導をしてもらう事にしたのだ。 
 我ながら賢明だと思う。 
 何せ、ゆっくりというナマモノは饅頭ゆえに脆弱で、ギャグみたいな理由で死んだりするらしいし。 
 素人考えで適当な飼育をするのは拙かろう。 

「えーと、とりあえずは、ゆっくりの飼い方の説明からしましょうか?」 
「頼みます。私はサッパリ分からないんで」 

 とりあえず、庭に作ったおうちはインターネットで検索して手ごろなものを参考にしている。 
 お姉さん曰く「完璧」だそうだ。良かった良かった。 

「エサは……野草や虫をベースに自活させるのね? 
 それなら、ゆっくりフードは……この甘さ控え目タイプを1日に1回でいいわね」 

 大き目のカバンから、1kg入りの「ゆっくりフード」を取り出すお姉さん。 
 表にはイラストの“ゆっくりありす”が『む~しゃ、む~しゃ、しあわせー!』と叫んでる絵が描かれてる。 
 あと「都会派な甘さ控え目!」というのがキャッチコピーらしい。 

「あんまり大量にあげすぎたり、エサの質を上げちゃうと、もうそれ以下のグレードのエサが食べられなくなるから注意してね。 
 あと冬になって自然の食料が足りなくなったら1日2回にしてもいいわ。それと……」 

 実にテキパキと説明をしてくれるお姉さん。 
 そして、説明の度に様々なゆっくりグッズがカバンから出てくる。 
 エサ、ハエタタキ、ミニ箒、ミニ御幣、ガラスのゆっくり人形、透明な箱、プラスチックのボール、業務用オレンジジュース、 
 小麦粉ペースト、餃子の皮、徳用小倉餡、携帯マッサージ機……etc. 
 一体、あのカバンのどこにこれだけ入ってたんだ? 
 というか、明らかにカバンの容積以上の物体が出てきてる。 

「……で、子供は基本的に作らせちゃ駄目よ? 
 子供を重視するあまりに、飼い主を疎かにする事があるから。 
 逆に自分自身を蔑ろにして死んでしまう親もいるわね」 
「面倒くさいっすね」 

 思わず嘆息すると、お姉さんがニヤリと怪しい笑みを浮かべた。 

「……なんなら、今から去勢、する?」 

 ……お姉さん、その目は怖いです。 
 怖いですから、止めてください。ゆっくりできませんから! 
 ハサミとか五寸釘とか出さなくていいです! 
 やべでぇ~!!どぼじでぞんだごどずるのぉ~!? 

「うふふ。いやぁね、冗談よ。あの子たちは賢そうだから、ちゃんと言い聞かせてあげれば大丈夫でしょ。 
 霊夢ちゃんたら、子供の頃から泣き虫ねぇ」 
「こ、子供の頃の話はどうでもいいでしょ」 

 昔からの知人というのは、どうしてこう、苦手な事してくる人ばっかりかな。 
 四捨五入で三十路な大人なのに子供扱いされても困る。 

「と、ところで!ひとつ質問いいですか?」 
「なにかしら?」 
「……なんで、ゆっくりって饅頭なんですか?」 
「…………いまさら、それを聞くの?」 

 呆れられた。まぁ、確かに今さらな話だ。 
 というか、未だに解明されていない謎である。 
 生物の進化とか食物連鎖とかを一切無視して出現した喋る饅頭。 
 何で生首なんだとか、あんな貧弱さで野生生活ってどうやってんだとか、中身は餡子だけなのかとか、 
 とにかく様々な謎で構成された謎ナマモノ。 
 出現から今まで続けられている研究でも答えは出ず、とりあえず、簡単な生態とメカニズムが解明されただけで、学者達は頭を抱えているらしい。 

「難しい事は私にも分からないけど、確実に言える事はひとつだけね」 
「というと?」 
「細けぇこたぁいいんだよ!って事よ。考えて分からないなら、考えるだけ無駄。私達一般人は普通に愛でていればいいの」 
「そんなもんですかね?」 

 アナタは少なくとも一般人じゃないでしょ、と心で思ったが言葉にはしない。 
 私だって自分の死亡フラグなんて立てる気はしないし。 
 と、その時である。 

「「ゆんやぁああああああああ!!!」」 

 庭の方から饅頭たちの悲鳴が聞こえてきた! 



 慌てて庭へと飛び出した私が見たものは、なんとも珍妙な風景であった。 
 新居の前で泣き喚くゆっくりたち。 
 そして、そのゆっくりに抱きついてる野良猫たちであった。 

「ゆがああああ!!舌がザラザラじででいだいぃいい!ゆっぐりでぎないぃぃ!!」 

 ゆっくりまりさの両サイドに猫が1匹づつおり、ペロペロとその頬を舐めている。 
 やられた事のある人でないと分からないだろうが、あれはかなり痛い。 
 人間と違ってヤスリみたいな触感の舌で舐められるのは結構キツイのだ。 
 しかし、猫の方は敵意とかがあるのではなく、むしろじゃれているのだろう。 
 まりさの流す涙を舐め取るようにしている。後で聞いた話だが、ゆっくりの涙やヨダレというやつは砂糖水らしい。 
 だから、猫たちは甘味を満喫しているのかもしれない。 
 まぁ、こっちはどうでもいいとして、問題は…… 

「ゆぐぐぐぐぐ……ねござん、はなれでねっ!いだいよぉっ!!」 

 ゆっくりれいむの方が奇妙だった。 
 まず、猫に抱きかかえられるようにして横倒しにされている。 
 口で思い切り片方のモミアゲに噛み付き、両の前足はガッチリとれいむの頬を押さえている。 
 更に後ろ足が反対側の頬をゲシゲシと蹴っていた。 
 いわゆる、猫キック。興奮した猫がじゃれる時にやる、独特のアクションだ。 
 人間なんかも腕をホールドされたりする事がある。 
 キックはともかく、噛み付きと前足の爪が痛い。 

「……何を遊んでるんだ、お前ら」 
「「あぞんでないぃいいいいいいっ!!!ゆっぐりだずげでぇえええええ!!!」」 

 ユニゾンで悲鳴を上げるゆっくりたち。まだ余裕あるんじゃね? 
 とりあえず、嫌がってるから助けてやるか。 
 まりさを舐めてる猫たちの首根っこを掴んで持ち上げる。 
 全く人間に気づいてなかったのか、ギョッとしてバタバタ暴れるが、私が「おとなしくしろ!」と一喝したらおとなしくなった。 
 うむ、やはりこいつらは頭がいい。 
 で、その2匹を少し離れた所に置いて、今度はれいむの方に行く。 
 そしたら、 

「ゆぴぃいいいいっ!回さないでね!止めてね!れいむ痛いよ!」 

 今度はれいむが回転していた。 
 つまり、猫キックで回転を加えられたれいむが、パンダの玉回しの芸を横から見たようにクルクルと回されていたのだ。 
 器用だなー、この猫。 
 ぶっちゃけ、もっと見ていたかったが、まりさの「助けてあげてね!」の声で我に返って猫を引っぺがした。 

「よーしよしよし、何で興奮してんだお前は」 
「ゆうううううっ!いだがっだよぉおおお!」 

 ゆんゆんと泣きながらモミアゲをピコピコと振り回すれいむ。 
 私に首根っこを掴まれているのに、じっとそのモミアゲを凝視してバタバタする猫。 
 ……あ、ひょっとして、これか? 

「れいむ、モミアゲ止めてみろ」 
「ゆっ?」 
「猫ってのはピコピコ動くものに襲い掛かる習性があるんだよ。 
 お前、こいつの前でそれをピコピコさせてるから襲われたんだ」 

 そういやぁ、先日も猫はれいむを襲ってたな。これが原因だったか。 



 で、双方が落ち着くまで色々手間がかかったが、なんとか宥めた。 
 ゆっくりたちの方は完全に怯えてしまっていたので、特に大変だった。 

「……えー、とりあえず、この庭でゆっくりするモノ同士なんで、今後はあんまり揉め事は起こさないように。 
 ここで手打ち式、というか仲直りをしましょう」 

 庭の中央で向かいあう猫3匹とゆっくり2匹。 
 猫の方はなんとも能天気そうにフニャ~ンと鳴いて同意を示した。 

「ゆ、ゆっくりしていってね?」 
「ゆっくりしてね?痛いのはやめてね?理解できる?」 

 一方のゆっくり側はまだビビッてる。まぁ、無理もないか。 
 それでも猫の方は納得したのか、それぞれ思い思いの方向に移動すると、日当たりのよさそうな場所で丸くなってまったりしだした。 

「まぁ、あいつらも頭はいいから、今後はお前たちに害は加えないだろ……れいむがピコピコしない限り」 
「ゆゆっ!ゆっくり理解したよ!猫さんの前ではモミアゲさんは動かさないよ!」 

 そう言いながら、既にピコピコしてるれいむのモミアゲ。 
 ……もう無意識なんだな。 

「しかし、お前ら、家の中に逃げ込めば良かったのに、何で外にいたんだよ?」 

 猫が近づいてくるのは分かってただろうに、こいつらときたら恐怖に固まってジッとしていたらしい。 
 つくづく野生生活なんて無理な連中だ。 

「ゆぅ~、だって、まだお姉さんから入っていいって言われてなかったんだもの」 
「は?」 
「勝手に“おうち宣言”するのはいけない事なんだよ。 
 それをすると、人間さんは怒ってゆっくりをゆっくりさせなくしちゃうんだよ」 

 え?私はそんな事するつもりはないんだけど?と戸惑っていたら、後ろからウサミミお姉さんがやってきた。 

「ゆっくりの“おうち宣言”とか“ゆっくりぷれいす宣言”というのは、人間でいう住民票登録みたいなものなのよ。 
 ちゃんとした手順を踏まないと違法になるのね。 
 この場合は、霊夢ちゃんからの許可がないといけないって事かしら」 
「そ、そんなもんなんですか?」 
「もちろん、勝手に宣言をするゆっくりもいるのだけど……この子たちは本当に賢くていい子たちなのね」 

 うーむ、ゆっくりの世界も奥が深い。生態とか謎すぎるな。 
 まぁ、とりあえず、私の許可がないと始まらないというのなら、許可しないとな。 
 私は、家から持ってきた古い毛布を巣の中に入れてやると、れいむたちに大きく頷いて見せた。 

「さぁ、今からここがお前たちの巣だ。入って存分にゆっくりするがいい」 
「「ゆわーい!!!」」 

 ピョンコピョンコ跳ねて2匹が巣の中に入っていく。本当に嬉しそうで微笑ましい。 

「とってもゆっくりしたお家だね!」 
「ゆっくりできるね!」 
「これなら雨さんも入ってこれないね!お布団さんもあるよ!」 

 ひとしきりキャッキャと騒いでから2匹がまた外に出てきた。 

「どーだ?ゆっくりできるか?」 
「おねーさん、とってもゆっくりできるよ!」 
「おねーさん、ゆっくりありがとう!」 

 2匹は嬉しそうにこちらにお礼を言うと、キリッと眉を釣り上げて、あらぬ方向を揃って見て、高らかに宣言した。 

「「ここをれいむとまりさのゆっくりぷれいすにするよっ!!!」」 

【続編→バッチの話(03)】