ゆっくりれいむはゆっくりできなかった。 
「ねんがんの するどいきのえださんをてにいれたよ!!」 
 人が入ってこないような山奥に、基本種のみが集まったコロニーがある。その中のまりさが群れのみんなを広場に集め、中心にある切り株の上で演説を行っているのだ。 



「これでまりさはりすさんをおいかえしたよ! このえださんでおなかをついたんだよ!!」 

「「「「「ゆわぁーっっっ!!!」」」」」 

 歓声が上がる。この群れ唯一の外敵であるリスを追い返したまりさにとって、正当なる評価である。 
「ゆゆ~ん、まりさはかっこいいよ! すぐにしーしーしちゃう、れいむのまりさなんかとはちがうね!」 
「そうよ! あんないなかものなまりさたちとはちがって、とってもとかいはね!!」 
「わかるよー!! まりさはこのむれいちばんのまりさなんだよーわかるよー!!」 
 切り株の上に立つまりさは顎を張った。歯を使って口に挟んだ木の枝を立てて見せる。 
「まりさはさいきょうだよ!! ゆっくりをゆっくりできるドスにもおとらないゆっくりだよ!!」 

「「「ゆーーーーー!!!!!!!!」」」 

 この群れを纏う熱気にれいむはゆっくりできなかった。 



 演説を終えたまりさは換気に充ち溢れた群れの仲間たちの間をモーセの海割のごとく凱旋し、母の待つ家へと帰還した。 
「ただいまなのぜぇえええ!」 
 ゆっくりの中でも珍しい考えて配置された、食料やベットが綺麗に並ぶ群れ一番のお家である我が家に、その声はこだました。 
 こだましただけだった。 
「だれかへんじするのぜ!!!」 
「うるさいよ。ゆっくりできないよ…」 
 のそのそと薄暗い食料庫からまりさよりも一回り大きいれいむがまりさの前にやってきた。このれいむこそ、まりさの母親なのだ。 
「ただいまなのぜぇえええ!」 
「わかってるからゆっくりだまってね!!」 
「へんじをかえさないのはゆっくりできないのぜ!! だからへんじするのぜぇえええええ!!!!」 
 ため息をつきながられいむはまりさに返事をする。 
「わかればいいのぜ!」 
 偉そうな口を叩かれ、怒りを感じながらもれいむは食べ物を加工する作業に戻った。 
「ま、まつのぜ!! きょうはまりささまのいだいさをみんしゅうにおしえこんでやったのぜ!!」 
 手を休まずにれいむは冷たく言い放つ。 
「ちからもないくせにほえてどうするの。ばかなの? しぬの?」 
「そっちがしぬのぜぇええええええ!!!!? まりさはりすさんをやっつけたむれのえいゆうなのぜ!!!!!!!」 
「れいむがおしえたからできたことでしょ。れいむができるんだからみんなができることであって、ま「だまるのぜぇええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!」」 
「よーーーくきくのぜ! まりさいがいのばんぷはみんなよわむしさんなのぜ!! だから、いだいなるまりさはりすさんをおいかえせるのぜ!! そんなこともわからないの? ばかなの? しぬの? ゆぷぷぷぷ!!!」 
 れいむは心底、まりさのことを可哀想なゆっくりだと思えた。ただ、勇気がなく弱虫なゆっくりの中でも勇気を出せるゆっくりというのはなかなか存在しない。勇気を出すことができたと言う所は少し褒めてやりたい気持ちでもあった。 
 だが、このまりさのことを思えば、これ以上調子に乗らせるとゆっくり特有の過剰な思い込みでゆっくりできなくなってしまう。その前に釘を刺しておかねばならない。 
「それじゃあ、れいむにかてるの?」 
 顎をしゃくり、まりさは唇の端を歪めて断言した。 
「あたりまえのことをいうんじゃないのぜ!!! れいむごときたおせないまりさじゃないのぜ!!! まりさはさいきょうなのぜ!!! にんげんさんだってかんたんにたおせちゃうのぜええええ!!!!!!!!」 
 あんよを素早く地面から突き放して、なんの変哲のない体当たりをまりさは仕掛ける。 
「しぃいいいいいいいいねぇええええええええ!!!」 
 普通のゆっくりならば奇襲攻撃でいちころだ。なぜなら、ゆっくりは“ゆっくり”だからだ。また、ダメージを与えることによってダウンをとる事も容易である。だが、わかっていればどうということはない。 
「ばかしょうじきすぎるよ…」 
 狭い場所での体当たりは有効だったのかもしれない。だが、れいむとまりさが住んでいる家はそれなりの広さを持っており、逃げるスペースはいくらでもあった。れいむはモミアゲでまりさをいなすと同時に側面へと移動する。 
「よけるなぁああああああ!!!」 
 振り向きざまにもう一度跳ねてれいむに体当たりを再度敢行する。 
「すきがおおきすぎるよ」 
 まりさが振り向く寸前にれいむはまりさの頬を深く噛む。 
「ゆんっ!」 
 あんよをうまく使いハンマー投げの要領で、まりさを壁にぶつからないように玄関へと放り投げた。 
「ゆべっ!!!!」 
 放り投げられた勢いで、まりさはコロコロと土埃を皮膚になすりつけながら無様な格好を晒した。 
「ゆぐぐぐぐぐ…」 
 やはり自分の母親には勝てない。ゆっくりの中でも強者である母といえど、れいむ種に圧倒的な力で負けることは雄としての性格が強いまりさ種にとって屈辱以上の何物でもなかった。だが、勝てない物は勝てないのだ。歯を食いしばって怒り狂う腸を抑えこむしか無い。 
「よくわかったでしょ? れいむごときにかてないようじゃにんげんさんにかとうなんてひゃくおくちょうねんはやいよ」 
 “ひゃくおくちょうねん”の意味はわからなかったが、まりさは母親に悟されていると言うことだけは理解できた。だが、ゆっくりの性として、人間はゆっくりできない位の低い生き物という認識はぬぐい去れない。 
「ゆっくりできないにんげんといだいなるゆっくりをくらべるんじゃないのぜ!!」 
「ゆっくりできないからつよいんだよ。そんなこともしらないの? ばかなの? しぬの?」 
「どういうことなのぜ!!?」 
「ゆっくりできないりすさんやねずみさんはつよいでしょ? それよりもさらにゆっくりできないにんげんさんはさらにつよいってことだよ」 
「でも、「でもじゃないよ」ゆぅ…」 
 母の言うことは的をいている。ゆっくりできない生き物であればあるほど強いのは、人生を回顧するうえで当然の定理であるのが見えてくるからだ。認めたくない、けれど認めざるを得ない心の靄がまりさを襲う。 
 解答が思い浮かばず、靄が脳裏をよぎりながらも、黙ってまりさは母親と一緒に“すーぱーむーしゃむーしゃたいむ”を取り、一緒に寝床へついた。 
 まりさは、ゆっくり全体の悲願である人間撲滅をしたかったのだ。理由は自惚れを含んだ力の示威。この世に生まれたからには“英雄ん”として名を馳せたかったのだ。だが、母親の言う言葉がそれは不可能だとストップを掛けてくる。それに、第一、人間の群がどこにあるかも知らないので、遠征を行うことすらできない。ただ、他のゆっくりの群れの噂によれば、どこそこに人間の群があるらしいという話をよく耳にする程度で。 



 それから、れいむはそれなりにゆっくりできるようになった。 
 なぜなら、群れが馬鹿一匹で崩壊し、自分の命まで危険な目にあわなくて済んだからだ。馬鹿一匹だけが死ぬだけならどうでも良いのだが。 
 人間の群れはこの森からでればすぐに見つけることができる。れいむは知っていた。元々、街ゆっくりのれいむにとっては恐怖の対象でしか無いあの街を。理不尽に襲いかかる人間の力を。家族を奪われた苦しみを。 
 奪われ続けるゆん生の中でれいむは自分の力のなさを理解し、強くなろうと励んだ。他の野良ゆっくりに負けない力を得ても人間に対向する力は手にすることができない。理解し納得することも力であることをれいむは最初から知っていた。だからこそ、ゆっくりにできる最上級の力を得る努力をしたのだ。その結果、人から離れて暮らす方が良いと判断し、山の群れまでやってきた。 
 道中、ゲスの集団に襲われた群れを救ったとき、ある一匹の孤児ゆっくりのまりさが心に引っかかった。この子に自分の力を吹き込めることはできないだろうか? 奪われる絶望を知ったゆっくりは力を使いこなせるに違いない。そう思って今までまりさを育ててみたが、ゆっくりという生き物がいかにゆっくりしすぎているのかを痛感させられたのだ。 
 れいむは、ゆっくりすることに決めた。