まりさの生活は子を守る父へと変化した。それは、養うためだけの人生を歩むことと同意義である。 
 今の家では嫁全部が住むことができる広さではないので、急遽家の改築をしなければならなくなった。その為のゆっくり仲間はまりさを慕うもの、子供が出来ることを喜ぶものたちが手伝ってくれるので困ることはなかった。

更に、代わりとして、食料付きのお家を貰ったのでまりさとその嫁たちはそこに移り住むが、家の許容量もあり、まりさは女中兼奴隷のぱちゅりーとお気に入りのゆっくりたちだけを集めて一纏まりになり、他のゆっくりたちは親元へ帰した。 
「あとはこどもだちとおうちをまつのみなのぜ!」 
 妻たちとゆっくりしながらその時を待つが、ぱちゅりーだけは別だった。 
「ぱちゅりー! はやく、ごはんもってくるのぜ!」 
 セカセカとまりさの欲望を満たすためだけに動かされるぱちゅりー。口から込み上げてくる嘔吐を飲み込みながら、子供たちのためにとぱちゅりーは働いた。子どもが生まれればきっとなんとかなるだろう。そうだ、これは一時的な罰なのだと。少なくとも子供にだけは平等な愛をくれるだろうと。まりさの嫁たちにいびられながらも、余りにも脆い一途の希望にすがりながらパチュリーは一生懸命働いた。 
 その希望は思いもよらぬところで叶うことになった。 

「「「「「「ゆっくりうまれるよ!!!!!」」」」」 
 出産シーズンが到来。新築のお家も完成間近でまりさはほっと胸を撫で下ろした。 
 まりさとその嫁たちは広場に集まり、監修が見ている間で出産を行なおうとした。もちろん、ぱちゅりーは隅っこながらもその輪の中に参加させてもらっている。 
 ポトポトと生まれる子ゆっくり達。観衆たちがその姿にほれぼれと喉の奥から歓声が溢れる。 
「「「「「「「「「「「ゆっくりしていってね!」」」」」」」」」」」 
 この世界にようこそ! そして歓迎しよう! 強い思いを込めた。だが、 
「「「「「「「「「「ゆぴぴぴいいぃいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」」」」」」」」」 
「「むっきゅりしていってね!」」 
「「「「ゆっくりしていってね!」」」」 
 ぱちゅりー以外の子供たちは皆、頭の足らない子供たちだった。 

「「「「「「「「「「「「あばぁばあああああああああああああああああああ」」」」」」」」」」」」」」 
 ガッツガッツと目の前に盛られた食事を食らう赤ゆっくり達。 
「「「「「「「ゆっくりいただきます……」」」」」」」 
 対象にゆっくりとたべるぱちゅりーの子供たち。 
 本来大人が子供を見るべきなのだが、赤ゆが不完全なゆっくりであることからまりさの妻たちは育児をぱちゅりーに投げてしまった。無責任にも程がある所業なのに、「あかゆをころすのはゆっくりできないのぜ!」とまりさがいうのでぱちゅりーは一匹も欠かさずに育てなければならない。 
 それに加えて自分の子供たちの世話。聞き分けの良い子供だからといって愛情を与えないわけにはいかない。本妻のゆっくりたちからは疎まれ、不幸中の幸いかまりさがその子供を愛しているので暴力は使われずに無視されている。その動きが群れ全体に伝播して、群八分になっている状態だ。 
「どうすればいいの……」 
 枯れ果てた声がぱちゅりーの保育園内に響く。響いたところでその糸を汲み取れるのはぱちゅりーのみだけだった。 
「それなら、れいむがめんどうをみるよ」 
 保育園の入り口を見るとそこにはまりさのお母さんがいた。 
「はなしはいろいろきいてるよ。まりさはとことんむせきにんなゆっくりだね」 
 一瞬、たじろぎはしたが、母親れいむの声は透き通っていて、心の芯に響き渡るような美声だった。 
「そろそろこのむれにあきてきたからね。このじょうきょうからすくってあげるよ」 
  
「どういうことなのぜ!!」 
「だから、まりさにごはんさんをわけるいみがないんだよーわかれよー」 
「みつぎものはぎむなのぜ? だれがこのむれをまもってるとおもっているのぜ?」 
「まりさのおかあさんのれいむにきまってるよ。そんなこともわからないの?」 
 3日前から“のうっぜい”が全く入ってこないのでまりさが群のみんなに問い詰めると返ってくる答えはすべてこれだ。 
「まりさ! はやくごはんもってこい!!」 
「あまあまぁあああ!!!」 
「なにしてるの? はやくかわいいれいむにみついでね! そんなこともわからないの? ばかなの?」 
「はやくしろぉおおおおおおおこのいなかもにょおおおおおおおおおおおおお」 
「むきゃぁああああ!! どれいはどうした!!!」 
 おまけに奴隷のぱちゅりーと子供たちまで消えてしまった。 
「いったい、どういうことなのぜ?」 
 今まで自分に尽くしてくれた愚民どもが突然まりさに牙を立てたのだ。由々しき事態である。 
「れいむがなにかしたのぜ? これはおかしいすぎるのぜ!」 
 母親は常に傍観者の立場にあった。誰ともゆっくりせずに寡黙に自分だけを愛していたゆっくりだ。まりさにとっての母親像は陰湿で共感能力のないゆっくりできないゆっくりだった。そんなゆっくりがこの群の“英雄ん”だって? 
「おかあさんにきいてみるのぜ」 

「で、れいむのところにきたわけだね」 
 相変わらず一人で何かをしているれいむにまりさは苛立を隠せなかった。その取り巻きたちも。 
「かくしていることがあったらはやくはいたほうがいいよ! れいむのまりさは“えいゆん”なんだからね!!」 
「そうよ! あんたなんかしゅんさつよ!」 
「それと、いえのなかにあるごはんさんとあまあまをもってきてね! すぐにだよ!」 
 甘くて香ばしい匂いに気付いたゆっくりたちがどやし始める。 
「さあ、はくのぜ?」 
 取り巻きたちの多さも含めて、まりさは余裕の態度であった。いざとなれば暴力で何とかできる。一人では勝てないかもしれないが、集団なら確実だ。 
「いいよ。れいむがふきこんだのはしんじつだからね」 
 あっさりと認めた。 
「うそをつくのはよくないことなのぜ? そこのところわかっているの? いくらまりさのおかあさんだからといってやっていいこととわるいことがあるのぜ」 
 複数のゆっくりが母親れいむを睨みつける。いつでもれいむを屈服させる準備はできた。 
「うそじゃないよ、ほんとだよ。れいむがむれをまもってるのはおとなたちのあいだではじょうっしきなんだよ。かわいいこどものまりさたちはりかいしてね」 
 このれいむは何を言っているんだ? 大人たちの間でれいむがこの群を守っているのは常識だと? そんな話聞いたことがない! 子ゆっくりの時に自分の友達がリスに襲われて死んだのに助けてくれなかった母が。ありえない。なんという法螺吹きだ! こんなババァは生かしておいちゃいけないゆっくりなんだ! 
「このむれにとってれいむはゆっくりできないさいあくのがいゆっくりだよ! みんな、せいっさいするよ!!」 
「「「「「「ゆおおおおおおおおおおおお」」」」」 

「ちょっとまった!」 

 何事だと思って振り返ると 
「このむれはわれわれ“ようかいのやま”のさんかにはいることになった。これにより、われわれがきさまらをとうそつするゆっくりである。 
 むれのだいひょうであるどうしれいむをせいさいするとはとってもゆっくりできないことだ。よってさばきのけんりをもったわれわれがきさまらをしゅくせいする!」 
 背後に険しい顔をしたゆっくりしていない威厳のある様々な通常種ゆっくり達を従える、オレンジ色の髪の毛と二本の角を持った生まれてこの方見たことのない凛々しい顔つきの異形のゆっくりがこちらを凝視していた。 
「うらぁあああああああああああああ!!」 
 突風が吹いた。そう、勘違いしてしまうほどに、それはそれは大きな掛け声であった。 
「「「「「「「「うらぁああああああああああああ!!!」」」」」」」」」 

 圧倒的だった。 
「い、いだいぃいいいいい!! でいぶはにいづまさんなんだよ!! もっとやざじぐじろぉおおお!!!!」 
「どがいばぁあああああ!!」 
「むぎぃいいいいいいいいいいいい!!!」 
 通常種とは思えない動きで妻たちを蹴散らすゆっくり。その姿はまるで捕食種のゆっくりふらんを彷彿させる動きであった。まさしく疾風怒涛。 
「りーだーはおまえだな!?」 
「そ、そうなのぜ! まりさはこのむれの“えいゆん”だからにげないのぜ!!?」 
「そのわりに、およびごしだったじゃないか!」 
「「「「あははははははは!!!」」」」 
 侮辱するなと返したかったまりさだが、自分よりも何倍も強いゆっくりに口出しできなかった。 
「それじゃあ「まってね!」…ゆ?」 
 待ったをしたのは母親れいむだった。 
「どうせなら、このむれの“えいゆん”をきめたほうがいいよ」 

 群の広場を群のゆっくり全員で円形状に囲む。その中心にいるのは審判役の母親れいむ、まりさと異形のゆっくり、ゆっくりすいかだ。 
「それじゃあ、けっとうだよ! こうげきしゅだん・ぶきのしようはどんなものでもじゆうだよ! “ようかいのやま”るーるにもとづいて、れいむがまけだとおもったらそのゆっくりはまけだからね?」 
『ゆわあああああああああああああああああああああああああああああ』 
 すいか・れいむ達大人サイドのゆっくりはコロッセウムを楽しみにする市民のような歓声を上げ、 
『ゆがああああああああああぜったいにかでええええええええええええええええ!!』 
 まりさサイドのゆっくりは死に物狂いで応援した。 
「かくごはいいかい?」 
 なし崩し的にこの展開に持ち込まれたまりさに覚悟をする時間など無い。それを知った上ですいかはまりさを挑発したのだ。 
「いいのぜ」 
 残ったプライドは自分がこの群の“英雄ん”であることだけ。それに縋るようにまりさは自己を保った。 
「それじゃあ、はじめるよ! ゆっくりふぁいと、れでぃいいいいいいいいいいいい」 
『ごぉー!!!』 

 気がつけば二本の角の間にまりさは挟まっていた。 
「ゆ?」 
 すいかが地面にブレーキをかけるやいなや、まりさは 
「おそらをとんでるみたい~~~~~」 
 慣性の法則にのっとって、空高く吹き飛ばされた。 
「みんなよけてね!」 
「「「「「うわああああああああああああ」」」」」」 
 観客たちがまりさの落下ポイントを急いで開ける。 
「ふぎっ!!!」 
 クッションもないまま、まりさは地面に擦りついた。 
 唇は千切れに千切れ、歯が数本飛び散った。最悪なことに顔から落ちたのだ。 
「ゆげえええええええええ!!!」 
 初めて殴られた子供のように涙と嗚咽が入り交じる。 
 だが、すいかの追撃は続く。 
「せいやっ!!!」 
 まりさをだるま如しの要領で頭突きをかまし、帽子だけが地面に取り残された。 
「まりさぁああああああああああああ。まげるんじゃないいいいいい!!」 
「だでえでえええええええ!! ゆっぐりぜずにだでぇえええええええええええ!!」 
 顔を上げることもできないぐらいにまりさはこてんぱんにのされた。憎悪と無け無しの希望が込められた声だけが唯一五感で感じられる。 
「きぶんはどうだい? まりささまよ」 
 無理やり角でまりさの顔を押し上げる。戦う前とは違って、ゆっくりをとことん蔑む笑顔を撒き散らす、すいか。その口にはまりさのおぼうしが咥えられていた。 
「お、おぼうし………」 
「おぼえておけ、ちからもなく、ほえちらかしたつみのおもさを」 
 更にすいかの口が歪む。これから何をされるのか、まりさは分かりたくもないのに分からせられた。 
「や、やべぇ……」 
 宙高くおぼうしは舞い、くるくるとすいかの角目がけて落ちてくる。 
「やべろぉおおおおぉおおおお!!!!」 
 タイミングを見計らい、すいかは跳ねる。角はロケットのように、まりさのおぼうしの側面を貫いた。 
「うぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」 
「しゅうりょう! すいかのかちいいいいいいい!!!」 

 歴史は勝利者が綴るのだ。勝利者は常々嘘つきであり、絶対者である。敗者はただ、消え去るのみ。