「駄目。絶対だめよ」 
「どぼぢでぞんなごどいうのおおおぉぉ!?」

飼っている二匹のくどい要請を、私はにべもなくつっぱねた。 
れいむは目に涙を浮かべて叫び、ありすは唇を噛んですがるような目で見上げてくる。 
こんなやりとりがもう何日も続いている。 
れいむの願いを聞き入れてありすを買ったことを、私は後悔するようになってきていた。



れいむは銀バッジ試験に合格している、比較的手のかからないいい子だった。 
ゆっくりである以上、子ゆっくりの頃に飼い始めたころはだいぶ困らされたものだが、 
成体になって半年が経ち、銀バッジ試験にも合格して一丁前のゆっくりになった。 
私の言うことをよく聞き、気配りのできる、生活に癒しと笑いをもたらしてくれる可愛いやつ。 
しかし、それは少々買いかぶりだったのかもしれない。

「れいむ、おむこさんがほしいよっ!!」

銀バッジ試験に合格したれいむに、ごほうびは何がいいと聞いたらそう言ってきた。 
最初は拒否した。今の生活でこれ以上ペットは増やしたくない。 
しかし、私がどれだけ拒否しても、代わりのおもちゃやあまあまを提案してみせても、 
れいむは頑として聞かず、ひたすら番を求めて泣きわめいた。

「れいむ、さびしいんだよおぉ!! 
おねえさんはいつもいつも、おしごとさんでいないよっ!! 
れいむはずーっとひとりぼっちなんだよっ!! 
おねえさんのおかげでごはんさんもむーしゃむーしゃできるし、ゆっくりすーやすーやもできるけど、 
ひとりぼっちじゃゆっくりできないよおおおぉぉ!!」

確かにそうだった。 
私はウェブデザイナーとして会社勤めで、毎日朝から晩まで仕事詰め。 
早朝に家を出て、戻ってくるのは深夜ということもざらだった。 
帰ってくるなり、待ちかねていたれいむの出迎えにも挨拶すら返さず、 
ベッドに倒れこんで泥のように眠る日もあった。 
傍らでれいむが涙声を圧し殺していることを知りながら。

まして、ゆっくりは極端なほど孤独を嫌がる。 
子供の頃から家族とは密着してスキンシップに精を出し、 
成体になれば、まずは何をおいても番を探す。 
美味しいあまあまや整った空調にクッションなど、どんなに恵まれた環境を取りそろえても、 
ゆっくりをはじめ他の生き物との接触を断たれた、あるいは極端に少ない状態だと、 
ゆっくりはストレスを感じてゆっくりできなくなり、活気がなくなるらしい。 
だからゆっくりを飼う際には、最低でも他の飼いゆっくりとの交流を交わして友達を作ってあげることが強く推奨される。

当然、他にゆっくりを飼っている人を探して交流する暇もなく。 
大体自分の場合、そんなに社交性があったらゆっくりなんか飼っていない。 
とにかく、れいむの飼い方に問題があったことは確かに認めざるをえなかった。 
これまでずっと寂しさを我慢して抑え込んでいたれいむが哀れでもあった。


ゆっくりショップで購入した、同じく銀バッジのありす。 
私がいない間、れいむの相手をしてくれるなら望ましいことだった。 
ただしその際、れいむとありすに私は強く言い含めた。

「おちびちゃんは絶対に作っちゃだめよ」

予想をはるかに超える猛反発に遭った。 
「つくりたい、つくりたい、つくりたい、つくりたい、かわいいおちびちゃんつくりたいいいいぃぃ!!」とぐずるれいむ。 
「おねえさん、おねがいよ、おちびちゃんがいないなんてとかいはじゃないわ………」上目遣いでしなを作るありす。

そう言われても認めるわけにはいかなかった。 
一匹増えるだけでも手間が増えるのに、このうえあの聞き分けのない赤ゆっくりがぽろぽろ増えるなんて想像したくもない。 
疲れた体を引きずって仕事から帰ってきたら部屋中砂糖水と餡子、 
端的に言えばしーしーとうんうんまみれだったなんて御免だ。

それに、飼いゆっくりの注意点として、「うかつに子供を作らせるな」というのは常識だ。 
孤独を癒してくれる伴侶だと思えばこそ、飼いゆっくりは飼い主の人間になつき、慕うのだが、 
いざ自分が番と子供を作り、ゆっくりの家族を形成してしまうと、人間との結びつきが急速に薄れる傾向にある。 
同種の妻や子供をばかりかまい、飼い主に対してぞんざいに振る舞うようになるばかりか、 
悪くすると家族に餌を持ってくるだけの食事係としてあしらわれ、ゲスになると「くそどれい」呼ばわりしてくることさえある。 
ゆっくりとの良好な関係を保ちたければ、適度に人間に依存させることが必要なのだ。 
守るべきおちびちゃん(餌をやるのは飼い主なのだが)ができることで根拠のない自信が生まれ、 
自分を立派な大人だと錯覚して飼い主と対等なつもりで振る舞ってしまう事態にもつながるようだ。

れいむの中では番ができた時点でおちびちゃん大勢の大家族を作るまでが確定だったらしく、 
突然のストップをかけられてこれまでにないほど泣き喚いた。赤ゆっくりだった頃のほうがまだおとなしかった。 
行儀のいいありすでさえ、れいむをたしなめるでもなく、すがるような目をこちらに向けてくる。 
それでもそう簡単には認めてやるわけにはいかない。 
仮に子作りを認めるにしても、段階を踏む必要がある。 
子供の頭数、親との密着度、躾の手順などなど、 
ゆっくり飼いのマニュアルでは、決まって飼いゆっくりの子作りの項目に多くのページが割かれている。

「おちびちゃんはとってもとってもとってもゆっくりできるんだよおぉ!! 
おねえさんも、ぜったいぜったいぜったいぜったいゆっくりできるよ!!ほんとだよっ!! 
いっかいでいいからおちびちゃんをつくらせてねっ!!ゆっくりおちびちゃんをみてみてね!! 
そしたらおねえさんも、きっときっとぜったいかんがえがかわるよっ!!いっかいみてみればわかるのにいいぃぃ!! 
れいむのおちびちゃんはとくべつだよっ!!おねえさんもゆっくりできるよ!!おねえさんにもゆっくりしてほしいよ!! 
だからおちびちゃんつくらせてねっ!!ゆっくりさせてね!!ゆっくりしようね!! 
おちびちゃんとゆっくりしたいよ!!おちびちゃんがいればみんなゆっくりできるのにいいぃぃ!! 
おちびちゃんおちびちゃんおちびちゃんおちびちゃん、おちびちゃんつくりたいよおおぉぉぉ!!!」

連日、家に帰ってくれば「おちびちゃんがつくりたい」の連呼。 
せっかく銀バッジが取れて、つがいも買ってきてあげたのに、飼い主もゆっくりも全然ゆっくりできてない。 
少々可哀想だとは思いつつも、私はぴしゃりと言いつけた。

「しつこい!!それ以上わがまま言うなら去勢するわよ」 
「きょ、せい……?」 
「ぺにぺにを切っちゃって、おちびちゃん作れないようにすることよ」 
「ゆんやああああああぁぁぁぁ!!?」 
「どがいばじゃないわああああああああああ!!?」

二匹ともこれには震えあがり、恨めしげにこちらを見やりながらも口をつぐむしかなかった。

「とにかく、おちびちゃんはあきらめなさい。 
それよりも二人でゆっくりすることを考えなさい。私と二人だけだったときよりはずっといいでしょう?」

れいむは恨めしげに「おちびちゃんはゆっくりできるのにいいいぃぃ……………」と漏らしただけだった。

思えば、その時点でその後に来る事態を予測しておくべきだったのだ。


おちびちゃんは、時期がくれば認めるつもりだった。 
去勢するぞと脅しつつも、実際に去勢をするつもりはなかった。

いつになるかわからないが、れいむとありすのつがいが安定し、 
これなら聞き分けよく指示にも従ってくれると確信できたなら、おちびちゃんを作らせてあげるつもりだった。 
もちろん、私の監督指導のもとでだ。 
飼いゆっくりに子供を育てさせる場合は、うっとうしく思われようとも子育てにしつこく介入し、躾に参加し、 
飼い主としての影響力を家族にしっかり及ばせておかなければならない。 
そもそも、ゆっくり専門のブリーダーでさえ手を焼く赤ゆっくりの躾がゆっくり如きにできるわけがなく、 
いくら善良な親だろうと、子育てを任せて放っておけば飼い主を奴隷扱いする見事なゲスを育て上げてくれるのが通例だ。 
そして、子が親の影響を受けるのと同じほど、ゆっくりにおいて親は子の影響を受ける。 
子供を育てさせたらゲスが育ち、そのゲス子供に影響されて親までがゲスになり、飼い主に向かってくそどれいの大合唱。 
そんな例でさえ、ゆっくり飼いではありふれた話だ。 
どれだけ慎重を期してもやりすぎではないのが、飼いゆっくりの子作りなのである。


「ゆ~ん♪ゆゆぅ~ん♪れいむのかわいいおちびちゃんゆっくりしていってねぇ~~♪」 
「しあわせ~♪しあわせ~♪おちびちゃんのとかいはなほほえみでみんなしあわせよぉ~~♪」

それだけに、その夜、家に帰ってくるなりその声が聞こえてくると、私は思わずその場にへたり込んだ。 
全身を強烈な脱力感が襲い、しばらく立つこともできなかった。 
あれか。よく聞くあのパターンか。あの、馬鹿な飼いゆっくりが決まって陥る茶番か。 
うちのれいむはもう少し上のゆっくりだと思っていたのだが、どうやら本気で買いかぶっていたようだ。

「ゆっ!!おかえり、おねえさん!!ゆっくりしていってね!!」 
「おねえさん、おかえりなさい!!きょうもゆっくりおつかれさま!!」

床を這いずるようにして現れた私に向かって、二匹は自信たっぷりの満面の笑みで挨拶を放ってきた。 
私は答えず、次の言葉を待った。 
しかしれいむもありすも、それ以上喋らず、にこにこと私を見ているだけだった。 
聞くまで答えないつもりか。弁解さえしない気か。それがそこにあるのは当然のことだってか。 
あれほど強調した飼い主のいいつけを破ったという罪を、本気で、頭にぶらさがっているそれで帳消しにする気なのか。 
声を出す気力もなく、私はそれを力なく指さした。

「ゆっ!!」 
「ゆふふ」

キリリと自信満々に胸をはるれいむ、目を細めてほほ笑むありす。それが答えだった。 
そうして笑顔を浮かべたまま私の反応を注視している。 
いつもはうるさく話しかけてくる二匹が、私の反応を確認するべく黙ってじっと待っていた。 
その表情から推して、二匹が想定している私の反応が、楽しみに心待ちにできるたぐいのものであることは明らかだった。

「ふざけるな!!!」

怒りと失望感にかられて、つい爆発してしまった。 
自分でもびっくりするほどの大声とともに床に握り拳を打ちつける。 
すぐに我に返り、二匹を見ると、おろおろと――私でなく――れいむの頭の上に実っている赤ゆっくりを見守っていた。

「おちびちゃん!!だいじょうぶだよっ!!ゆれないでねっ!!ゆっくりしてねぇ!!」 
「おとうさんたちがついてるわ!!とかいは!!とかいはよっ!!ゆっくりしてね!!」 
「ゆぅ………ゆぅ……」 
「ゆぴぃ……ゆぴぃ……」

わずかに眉をしかめていた実ゆっくりの揺れが少しずつおさまってゆき、やがて元通りに落ち着いて寝息を立てはじめる。 
実ゆっくりが実っているのはれいむの額。れいむ種が一匹、ありす種が一匹の二匹姉妹だった。 
実ゆっくりが落ち着いたのを見届けてれいむとありすはふうっと大きく息をつき、 
次に私に向かって非難を浴びせてきた。

「おねえさんなにしてるのおぉ!?おちびちゃんたちがゆっくりできなくなっちゃうでしょおおぉ!!?」 
「おねえさん、おちびちゃんたちはゆっくりさせてあげなきゃだめなの……とかいはじゃないわ、ね?」

上から目線で諭してくるれいむ達。明らかに態度が大きくなっている。 
飼い主といえども、これほど可愛いおちびちゃんの為とあれば文句を言わずに従うだろうとあてこんでいるのが見てとれた。 
私の堪忍袋の緒は限界に近かった。

「………れいむ。ありす」 
「ゆっくりあやまってねっ!!ぷんぷん!!」 
「おちびちゃんは、作るな、と、言っておいたわよね?」 
「ゆっ!!そんなことどうでもいいでしょ!?おちびちゃんがゆっくりできなくなるところだったんだよっ!!?」

バァン!!

床を、今度は平手で叩く。

「「ゆびぃっ!?」」

二匹がすくみ上がった。 
私が叱りつけるときに、最上級の怒りを表すアクション。 
二匹が動揺しはじめていた。 
目を見合わせ、その表情に怯えが浮かびあがってきていたが、 
すぐに気をとりなおし、私のほうをちらちら見ながら頭上のおちびちゃんを心配してみせる。

「おちびちゃんゆっくりしてねっ!?こわくないよっ!おかあさんがついてるからねっ!!かわいいかわいいだよっ!!」 
「とかいは!とかいはよ!!ゆ~ゆ~ゆらゆら~、ゆっくりしていって~ね~♪」

そう言いながらちらちらと私の表情を窺い、ことさらおちびちゃんを見せつけるように角度を調整している。 
そんなれいむとありすの頬を、私は掴みあげた。

「ゆ゛ぐぅっ!!?」 
「どうでもいい、と言ったわね。 
毎日あなたたちにご飯をあげて、ゆっくりできるお布団や玩具を買ってきてあげている…… 
私のいいつけが、どうでもいいのね。そういうこと言っちゃうんだ………」 
「ゆぎっ!!?いぢぃっ!!い゛い゛い゛い゛ぃぃぃ!?」 
「いぢゃいっ!!いぢゃいわああぁぁ!?いぢゃあああいいいいいいいぃぃぃ!!!」

頬を掴みあげる手に、ぎりぎりと少しずつ力を加えていく。

「私のことはどうでもいい。そうなのね?本当に、それで……いいのね?」 
「………!!…………どがい、ばっ…!!!?」 
「ごべんだざあああいいいいいいぃぃぃ!!!」

れいむが音をあげた。 
私が本気で怒ったときの恐怖が、さすがに刷り込まれている。 
それでも、「こんなはずじゃなかったのに」という困惑が、その表情からありありと見てとれた。


「ゆっぐ、ゆぐっ………ゆううぅ………」 
「とかいはじゃないわぁぁぁ………」 
「で?」

頬の痛みにいつまでも泣きじゃくっている二匹に、説明を促す。

「なんでいいつけを破ったの?」 
「ゆぐっ……ゆぅ…………おちびちゃんは、ゆっくりできるから………」 
「私がゆっくり出来ないの。そう言ったわよね?」 
「ゆ………で、でも………おちびちゃんをみれば、おねえさんもきっとゆっくりできるって……」 
「ゆっくり出来てないんだけど!!」

また床を叩き、れいむとありすがびくっと萎縮する。

わかりきっていたことだった。 
「可愛いおちびちゃんを見せれば、飼い主もきっと考えを変える」 
そんな都合のいい希望的観測に期待をかけて、飼い主のすっきり禁止を破る。 
駄目な飼いゆっくりが陥る、お定まりのパターンだ。

ゆっくりの、子供に対する愛情はもはや信仰の域に達している。 
自分のおちびちゃんの可愛さは何にも勝り、人間を含め全ての者たちがおちびちゃんを愛すると信じて疑わない。 
人間から見れば、その信仰は「親バカ」の一言で解釈される。

そうならないように、きちんと人間の都合も考えられるように躾けてきたつもりだったのだが、 
やはりうちのれいむはそこらにいる凡百のゆっくりと変わらなかったようだ。 
あるいは、少しは賢くても、その賢さでは補いきれないほどの盲目の母性を持って生まれついてしまったのかもしれない。

「処分します」 
「「ゆ゛ぅっ!!?」」

怒りと苛立ちと失望に後押しされ、私は無情な決定を言い渡した。

「うちではそんなに面倒見切れません。その子たちは捨てるわ」 
「ゆううううぅぅぅ!!?やべでっ!!やべでえええぇぇぇ!!!!おぢびぢゃんずでだいでえええええ!!!」 
「ぞんなっ!!?どがいばじゃないわっ!!ごんなに!!ごんなにがわいいおぢびぢゃっ!!なんでええええええ!!?」 
「その可愛いおちびちゃんたちにごはんをあげるのは誰?」 
「ゆ゛っ………」 
「おちびちゃんたちがうんうんでお部屋を汚したら、掃除するのは誰?」 
「それは…………」 
「私でしょう? 
あなたたち二匹の世話をするだけで、私すっごく大変なの。これ以上二匹も増やせないわ。 
無理に増やしても、ご飯はあげられないし、うんうんも片付けられないし、遊んでもあげられない。 
私も、あなたたち二匹も、おちびちゃんも、みんなゆっくりできなくなるの。 
これからもゆっくりしたかったら、おちびちゃんはあきらめなさい」 
「ゆううぅぅぅ………でも、でもぉ………おちびちゃん、かわいいよおぉ………?」

「自分の子供たちは可愛いんだから、お前はゆっくりするな。もっと働いて沢山のご飯を持ってきて一日中休まず世話をしろ」 
れいむ達の言っていることを要約するとこうだ。 
だからまず、大前提を崩す。

「可愛くありません」 
「「どぼぢでぞんなごどいうのおおおぉぉ!!?」」 
「可愛くないからです」 
「「どぼぢでぞんなごどいうのおおおぉぉ!!?」」 
「可愛くないからです」 
「「どぼぢでぞんなっ………ゆ゛っ………ぐううぅ………」」

三回繰り返せばさすがに理解してくれたようだ。よし。 
言っていることはわかっても、納得はできないようで、ありすが食ってかかる。

「おねえさん……すなおじゃないのはとかいはじゃないわ……」 
「飼い主との約束が守れないあなたたちに、素直じゃないなんて言われたくないわね」 
「ゆっ……でも、こんなにとかいはでかわいいおちびちゃんたちなのよ……?どうしてほめてくれないの……?」 
「可愛くないからです」

結局四回言わされた。

「なんでっ………!!」 
「理由なんかないわよ。なんと言われたって可愛いと思わないものはしょうがないわよ」 
「そんなのおかしいよぉぉ!!こんなにかわいいおちびちゃんがかわいくないなんてへんだよおぉ!?」 
「これ、可愛いでしょ?」

私は押し入れを探り、二匹の前に一個の古ぼけたぬいぐるみを放りだした。

「「ゆ゛ぇっ?」」

私がほんの子供だったころに可愛がっていたぬいぐるみである。 
二十年ほども前のものなので汚れきってぼろぼろだし、デザインも古臭い。 
しかし愛着がしみ込んだ、私にとっては大事な一品だ。

「可愛いでしょ?」 
「ゆぅ………?かわいくないよ……」 
「くさくてとかいはじゃないわ………」 
「どうして?ねえ、どうして可愛くないの?理由を説明してよ」 
「ゆ……かわいくないからだよ……」 
「だから、どうして可愛いと思えないの?」 
「ゆ?きたないし、おかおもへんだよ。ゆっくりしてないよ」 
「あなたたちのおちびちゃんたちだって汚いし、変よ。うんうんやしーしーを撒き散らすでしょう?」 
「ゆ゛ぅぅ!?おちびちゃんたちはそんなぬいぐるみさんとはちがうよっ!! 
うんうんやしーしーをするのはあたりまえでしょおおおぉぉ!!」 
「ぬいぐるみが汚れるのも当たり前よ。あのね、そのおちびちゃんが可愛いと思うのはあなたたちが親だからなの。 
他人にとっては、あなたたちの子供なんかこのぬいぐるみと同じ。どうでもいいし、汚くて面倒臭いものなの」 
「ぞんなっ……うそだよおぉ!!おちびちゃんがかわいくないなんてぜったいおかしいよぉ!! 
ゆっくりかんがえなおしてよおおおぉ!!!」

どんな例をあげてみせても、自分たちの子供だけは特別なんだと言い張るだろう。 
特別でもなんでもないことを証明するために、私はハサミを持ってきてれいむの額の茎をつかんだ。

「可愛くない。可愛かったら、私も喜んで飼うわ。捨てるなんて言わない。 
でも可愛くないから捨てる。わかったらあきらめなさい」 
「や゛!?や゛べでえええぇぇぇ!!!」 
「おぢびぢゃっ!!おぢびぢゃん!!どがいばなおぢびぢゃんんん!!ぎらだいでえええぇぇ!!!」

れいむが涙を流して歯茎を剥き出し、ぐーねぐーねと身をよじる。 
しーしーまで漏らして、着て(履いて?)いるゆっくり用の服にしみ込んでいる。 
ありすも泣きながら、ぽふぽふと体当たりをしてきた。無駄である。

「さっきも言ったでしょう。面倒見られないし、みんながゆっくりできなくなるの」 
「おぢびぢゃんはがわいいがらびんなゆっぐじでぎるうううぅぅ!!!」 
「じゃあなんで私は今ゆっくりしてないの?」 
「!?………ゆ゛っ………ゆ゛ぅぅぅ………!!」 
「あきらめなさい」 
「ごばんざんいりばぜええええん!!!」

鋏を持つ私の手に必死にすがりつきながら、ありすが叫んだ。

「おぢびぢゃんのぶんのごばんざんはいらないでずっ!!うんうんもぜんぶあでぃずだぢががだづげばずっ!! 
おぢびぢゃんはあでぃずだぢでぞだでばず!!おねえざんには、ぜっだい、ぜっだいめいわぐがげばぜえええん!!」 
「ゆ゛っ!!ぞうだよっ!!でいぶだぢだげでおぢびぢゃんをぞだでるよおおぉ!! 
おねえざんにはだよらないよっ!!ゆっぐじじだいいごにぞだでるよっ!! 
だがら、だがら、だがらあああああぁぁぁぁ!!!」 
「…………本当に?」

私は手を止めた。

「ゆ゛っ!!!ぼんどうでずっ!!ぼんどうにぼんどうでずううぅう!! 
ごばんざんも!!おぶどんざんもっ!!ぜんぶ、ぜんぶでいぶだぢでやりばずううぅ!!」 
「あでぃずだぢがどがいばにぞだででみぜばずっ!! 
おでえざんをゆっぐじざぜられる、どがいばでゆっぐじじだゆっぐじにぞだでばず!! 
びんなゆっぐじでぎばずうううぅぅ!!!」 
「おちびちゃんたちのご飯はどうするの?どこから取ってくるの? 
あなたたち、狩りなんかできないじゃない」 
「ゆ゛っ………ぞれは…………で、でいぶだぢのごばんざんをわげであげばずっ!!」 
「ほら、何もわかってない。 
おちびちゃんがどれだけ食べるのかも知らないでしょ? 
大人のあなたたちより倍も食べるのよ、赤ゆっくりってのは。 
あなたたち二匹のご飯を全部あげたって足りないわよ」 
「ゆ゛ぅっ………!!ゆ゛、ゆ゛、と、とにかくなんとかするよっ!!」 
「なんとかって、どうするの?」 
「なんとかするよっ!!なんとかあぁ!!おねえさんおでがいじばずうううぅぅ!!!」 
「どうが、どうが、いっじょうのおでがいでずううぅぅ!! 
おもぢゃもいりばぜん!!とかいはなくっしょんさんもいりばぜん!!もうわがままいいばぜえええん!!! 
おぢびぢゃんだげは、おぢびぢゃんだげはあああああぁぁぁ!!!」 
「わかった」 
「ゆ゛ぅっ…………ゆ゛っ!?」

私は鋏をしまい、二匹に言った。

「その二匹だけは許してあげる。 
もし本当に、私に一切面倒をかけないで育てられるんなら、育ててもいいわ」 
「ゆっ……ゆっ……ゆわあああああぁぁぁぁ!!! 
やった!!やった!!やったやったやったよおおおぉぉぉお!!!」 
「とかいはだわああああぁぁ!!おちびちゃんっ!!おちびちゃんゆっくりしていってねえええぇぇ!!」 
「ただし!!」 
「「ゆびっ!?」」 
「ほんの少しでも、その可愛いおちびちゃんとやらが私に迷惑をかけたり、 
私にゆっくりできない気分を味わわせたりしたら……その場で潰して捨てるから。 
それと、約束通り、あんたたちももう我侭言わないこと。いいわね?」 
「ゆっ!!だいじょうぶだよっ!!れいむはこそだてがじょうずなんだよ!!」 
「ありすたちのそだてたおちびちゃんなら、おねえさんもぜったいゆっくりできるわっ!! 
みんなでゆっくりしましょうね!!ありがとう、おねえさん!!」 
「そう。じゃあ、任せたからね。……私は寝るわ」 
「「ゆっくりおやすみなさい!!」」

部屋の電気を消し、布団に潜り込む。 
普段から、私が寝ているときは静かにしろと躾けてあるので、ゆっくりの声はそこでやむ。 
それでも、おちびちゃんのために小さな声で子守唄を歌っているのが聞き取れた。 
私は頭から布団をひっかぶる。

結局、子育てを許すことになった。 
私は甘いのだろうか?

れいむとありすが子育てをする? 
できるわけがない。絶対にできない。150%ムリだ。 
それでも、このまま子供が生まれる前に間引けば、 
ゆっくりできるはずの子供を奪った理解のない飼い主だと思われ、逆恨みされることになるだろう。

だから、実際に育てさせる。 
ゆっくり育成の大変さ、それができない自分たちの無能さ、それをやっていた飼い主の有難みを身を持って教える。 
それをじっくり身に染みさせたうえで、結局育てられなくなったところで子供を取り上げる。 
子供は、出来にもよるが、まあよくても里子に出すしかないだろう。 
今回のことは、この二匹を躾けるいい機会にしようと私は考えていた。 
そのへんの野良と本質は変わらない、無分別なゆっくりだということがよくわかったから。


――――――――


プルプルプル………

「ゆんっ!!ゆんっ!!きゃわいいれいみゅがゆっくちうみゃれるよっ!!」 
「ときゃいはにゃありちゅもゆっくちうみゃれるよっ!!ゆゆんっ!!ゆーんっ!!」 
「ゆーっ!!がんばってねっ!!おちびちゃんゆっくりうまれてきてねぇ!!」 
「ままたちがみまもってるわ!!あんっしんっしてゆっくりうまれてきていいのよ!!」

れいむの頭から生えている茎、その茎に生っている二つの実がぷるぷると震えだしていた。 
眠るように閉じられていたその目はいまや見開かれ、ゆんゆんと身体を振って生まれ落ちようとしている。 
赤れいむは涎を垂らし、もみあげをぱたたたと振り回しながら鳴いていた。赤ありすの髪もよく見るとぱさぱさ動いている。 
そしてたった今、二つの赤ゆっくりは頭の茎を千切って落下していった。

「「ゆっくちちちぇいっちぇにぇ!!」」 
「ゆゆうううぅぅぅ~~~~~~ん!!おちびちゃんかわいいよおおおぉぉ~~~~っ!!!」

丁度私が見ている側で、赤ゆっくり達は生まれ落ちた。 
犬小屋大の室内用ゆっくりハウスをれいむ達は自室兼寝床としており、 
その中にはタオル、ゆっくり言うところのふかふかさんが何枚か敷き詰められている。 
自分たちで床に敷いたそのふかふかさんで、茎から生まれ落ちる子供たちを受け止め、 
れいむとありすは感極まって涙をこぼしながら歓声をあげていた。 
生まれ落ちた直後の挨拶をすませた赤ゆっくり達は、涎を垂らしたまま目をぱちくりさせ、きょときょとと周囲を見渡す。

「ゆゆっ?おきゃーしゃん?おちょーしゃん?」 
「ときゃいは?ありちゅのみゃみゃ?」 
「ゆっ!れいむがおかあさんだよ!!おちびちゃんたち、ゆっくりしていってねっ!!」 
「ありすがおとうさんよ!でも、とかいはなれでぃだからありすのことはままってよんでね!!」 
「ゆっくちりきゃいしちゃよっ!!」 
「おきゃーしゃん、みゃみゃ、ありちゅとゆっくちちてにぇ!!」 
「ゆゆぅぅ~~~ん!!とってもききわけがよくてかわいいおちびちゃんたちだよおおぉぉ!!」 
「なんてとかいはであいらしいおちびちゃんたちなのぉぉ!!うすよごれたせかいにおりたったさいごのてんしよおおぉぉ!!」

いまにも浮遊しはじめそうなほど浮かれきっているれいむとありす。 
茎を生やして産み落としたのはれいむの方なのだから、れいむが母でありすが父ということになるのだが、 
れいむは「おかあさん」、ありすは「まま」と呼ばせることにしたらしい。 
どうも変だが、識者によれば、口ぶりから判断されるゆっくりの自意識というのはすべてメス的なものらしい。 
だぜだぜ言っているまりさ種も例外ではないそうだ。

しばらくの間、れいむ達は子供達をぺーろぺーろと舐め回したりすーりすーりと頬ずりを繰り返していたが、 
すぐに子供達がぐずりだした。

「ゆえええぇぇん!!おにゃかしゅいちゃよおおぉぉ!!」 
「らんちしゃんがたべちゃいよおおぉぉ!!ときゃいはじゃにゃいいいぃ!!」 
「ゆゆぅぅっ!?なかないでね!!なかないでね!!おちびちゃんなかないでねえぇ!!ゆっくりしてねええぇ!!」

れいむがおたおたと涙目で慌てる一方で、ありすはハウスに貯めておいたらしいゆっくりフードを口に入れて運んで持ってきた。

「さ、おちびちゃんたち、ゆっくりとかいはにむーしゃむーしゃしましょうね!」 
「ゆっ!!ときゃいはならんちしゃんだあぁっ!!」 
「ゆわーい!!きゃわいいれいみゅのすーぱーむーちゃむーちゃたいみゅ、はじまりゅよっ!!」 
「「むーちゃむーちゃむーちゃ……かちゃいいいぃぃ!!」」

目の前に広げられたゆっくりフードに喜び勇んで口をつけたものの、 
その硬さに歯が立たず、赤ゆっくり達は泣きだしてしまった。

「ゆうぅぅ!?かたいかたいなのっ!?ごめんねっ!おちびちゃんごめんねぇ!!」 
「おねえさんっ!!もっとやわらかいゆっくりふーどをもってきてちょうだいっ!!」

ソファーの上に寝転がって見ていた私に向かって、ありすが叫んだ。 
いつかは泣きついてくるだろうと確信はしていたが、いきなり初っ端からこちらに振ってくるとは思わず、私はさらに脱力した。 
どうもこの二匹、まだまだ真剣に考えていない。 
可愛い子供のゆっくりできない姿を見れば、お姉さんもさすがに助けるだろうと決めこんでいるらしい。 
最初が肝心、私ははっきり言ってやった。

「知らないわよ、そんなの」 
「どぼじでぞんなごどいうのおおぉ!?おちびちゃんがおなかぺーこぺーこなんだよっ!? 
このゆっくりふーどじゃかたいかたいでおちびちゃんがたべられないよっ!! 
ゆっくりりかいしてねっ!!はやくやわらかくてあまあまなふーどをよういしてねっ!!」 
「自分たちで全部やるんでしょ?私に面倒をかけないで育てる、そういう約束だったわよね?」 
「ゆっ!?でもっ……!!」 
「でも、何?」 
「こんなにかわいいんだよおおぉ!?かわいそうじゃないのおおぉぉ!!?」 
「そう思うんならまずあなたたちが努力するべきね」 
「「ゆうえええぇぇん!!おにゃかしゅいちゃあああぁぁぁ!!!」」」

顔中をゆがませ、涎としーしーまで撒き散らしてぱたたたとぐずる赤ゆっくり達。 
赤ゆっくりに余計な動きを控えて体力を温存するという発想は、ない。 
とはいえ人間の場合でもそれは同じことだから、ゆっくりの愚かさと責めるにはあたらない。 
さて、私のれいむはといえば、ぐずる子供たちにうろたえた視線を、 
私に非難がましい視線を交互に向けてもみあげをばたばた振り回しているだけだ。 
この時点でわかってしまった。私のれいむに、母性はあっても子育て能力はない。

「ゆゆっ!!ありす、うっかりしていたわ。いなかものね。 
おちびちゃんには、さいしょにこれをむーしゃむーしゃさせるのよ!」

一方、ありすはといえば閃くものがあったようで、 
そう言ってかられいむの額に生えていた茎をむしり取った。 
自分が生まれた時のことを覚えていたようだ。 
最近までペットショップにいたありすの事だから、近くで子育てを見る機会も多かったのだろう。 
折り取った茎をさらに半分に折り、半分ずつをれいむと分担して口に入れて咀嚼すると、 
唾液にまみれて柔らかくなった茎をぺっと吐き出して子供の前に差し出した。

「さ、そのくきさんをむーしゃむーしゃするのよ!」 
「ゆわああぁい!!ゆっくちむーちゃむーちゃしゅるよっ!!」 
「「むーちゃむーちゃ!!むーちゃむーちゃ!!うっめ!こりぇうっみぇ!!まじぱにぇっ!!」」

ぺちゃぺちゃくちゃくちゃとひどい音を立てながらせわしく口を動かし、もるんもるんと尻を振り、 
顔中を唾液と食べカスまみれにしながら一心不乱に食べる赤ゆっくり二匹を目を細めて眺めるれいむとありす。

「ゆっふうううぅぅ~~~~かわいいよ……かわいいよおおおぉぉ~~~~~………てんしさんだよおおぉぉ……」 
「ゆふふ、おちびちゃんがゆっくりできてよかったわね…… 
ありす、このこたちのためならなんだってがんばれるわ。 
おねえさんのたすけなんかかりなくても、このあふれるあいがあればこそだてなんてとかいはにのりこえられるはずよ!!」 
「ゆっ!!そうだねっ!! 
れいむがぜったいぜったいぜったいおちびちゃんたちにゆっくりできないおもいなんかさせないよっ!! 
こそだてじょうずのおかあさんでごめんね~~☆」

そんな二匹のたわ言を、私は冷めきった頭で聞いていた。

さて、食事を摂った赤ゆっくりが次にとる行動は、周知の通り排便である。 
茎を食べ尽くして腹を膨らませた赤ゆっくり二匹は、底部のあにゃるを差し上げて宣言した。

「「きゃわいいれいみゅ(ありちゅ)のしゅーぱーうんうんたいみゅだよっ!!」」 
「ゆゆっ、おちびちゃん!!まってね!!うんうんさんはこっちでしてねっ!!」

れいむがそう言い、ゆっくりハウスの隅にある小さい箱、すなわち「おといれさん」を指し示す。

「「ゆーん!!ゆーん!!」」

子供のほうはガン無視で、全身を震わせて気張っている。 
ありすが小さい箱を咥えて子供の目の前に引きずってこようとしたものの、ついに間に合わず、二匹のうんうんがひり出された。

「ゆわあああぁ!!やめてね!!やめてね!!ちょっとまってね!!まってええぇぇ!!」 
「「うんうんちゅっきりー!!(もりゅんっ)」」

母の狼狽を意に介さず排出された便がタオルの上に転がる。

「ゆええぇぇ………きたないよおぉぉ……ふーかふーかさんよごしちゃだめなのにいぃ……」 
「ゆっ、れいむ、あかちゃんだもの、しかたないわ。ゆっくりかたづけましょう!!」 
「ゆっくりりかいしたよ!!」

一瞬私のほうをちらりと見たものの、れいむはかいがいしく子供たちのうんうんに舌を伸ばす。 
何度か「ゆべぇっ」とえずきながら、どうにか指定の「おといれさん」に運ぶことができたようだ。 
指定の場所に集めている限りにおいては、ゆっくりのうんうんは私が後で片付けてやることになる。 
無能かもしれないが意欲はあるようだ。ありすの指示があれば意外とれいむでも頑張れるかもしれない。 
ただしあくまで「頑張れるかどうか」の話であって、 
「きちんと育てられるかどうか」については1ミリも楽観していないが。

「きゃわいいれいみゅはゆっくちしゅーやしゅーやしゅるよっ!!ゆぴぃ……ゆぴぃ……」 
「ときゃいは……ときゃ……ゆぅ………」

れいむがうんうんの処理をしている一方、食事と排便を済ませた赤ゆっくりはさっさとその場で眠ってしまった。

「あらあら、すーやすーやはべっどさんでしましょうね」

子供たちのためにタオルを折りたたんで作った「べっどさん」の上に、ありすが二匹を優しく舌で運ぶ。 
寝床で眠る二匹を見守りながら、れいむとありすはとてもゆっくりした表情を浮かべていた。

「ゆううぅ……かわいい………かわいい………かわいいよおおぉぉ………ゆっくりしすぎだよおおぉぉ」 
「ありすのかわいいかわいいおちびちゃん………ずっといっしょにゆっくりしましょうね………」

両親は感極まっていたが、私のほうはとても共感はできなかった。

赤ゆっくりを飼う機会は意外と少なく、ゆえに知る人は少ないが、 
生まれた直後の赤ゆっくりというのは一般人が想像するよりもはるかに汚い。 
まず、常に涎を垂らしていると思っていい。やたらと勢いよく頻繁に喋るうえに、 
口を閉じるということをまず全くしないので、砂糖水の唾液がひっきりなしに飛び散り垂れ流される。 
乾いた砂糖水が全身にまぶされてべたべたして、歩いたはしから床の小さいごみや埃がへばりつき放題だ。 
そのため、普通は親ゆっくりがぺーろぺーろと全身を舐めて綺麗にするのだが、その「綺麗」は野生での話。 
そのぺーろぺーろで結局親の唾液がへばりつくので気休めにしかならない。

そして、下のしまりのゆるさが半端ではない。 
自制心というものがほとんどないゆっくりのさらに赤ゆっくり、何かというとその場で大便小便を垂れ流す。 
たった今眠っている赤れいむのまむまむから、ぴゅっぴゅっとおねしーしーが漏れだした。 
赤ありすのあにゃるもひくひくとひくつき、黄色いカスタードをこんにちわさせながら盛り上がっている。 
寝ながら数分間隔でしーしーとうんうんを漏らすのが赤ゆっくりなのだ。

とはいえ、やはり、人間だって同じことである。 
問題は育てる親ゆっくりの方なのだ。きちんと管理、育成できるかどうか。見届けさせてもらおう。


――――――――


「「ゆえええぇぇん!!ゆぇええええええん!!」」 
「ゆうぅぅ………またなの、おちびちゃん……?」 
「ゆっくりすーやすーやさせてほしいわ………」

それはこっちの台詞だ。 
深夜の二時過ぎ、赤ゆっくり達がぐずっている。 
眠っていたれいむとありす、そして私は叩き起こされて目をこすっていた。

生まれた直後の赤ゆっくりは、元気に跳ね回るわけではない。 
食べる、出す、眠る、をひたすら繰り返すのだ。身体の欲求を満たすためだけに全精力を傾け、他の世界には関心がない。 
親とすーりすーりしたり兄弟と遊んだり、他者に意識を向ける余裕が出てくるまでに、おおよそ三日を待たねばならない。

他者と触れ合うまでは三日だが、赤ゆっくりの時期を脱するまでには速くとも一週間を見ることになる。 
そして、赤ゆっくりの厄介なところは、やはり人間と共通している。 
生活のサイクルが大人とは全く違い、深夜だろうが早朝だろうが腹が減れば泣きわめいて親を叩き起こすのだ。 
むーしゃむーしゃやすーやすーやといったゆっくりできる活動を、 
子供のためにひっきりなしに中断させられる親ゆっくりのストレスは想像に難くない。

半分涙目になりながらも、れいむとありすはかいがいしく世話をする。 
ハウスの中に仕舞ってあるゆっくりフードを引っ張り出す。

食糧に関してだけは、私は譲歩した。赤ゆっくりの食べるぶんだけ増やしてやったのだ。 
とにかく先立つものがなければ、この子育て体験学習そのものが成り立たないし、 
成り立たなければれいむ達が納得せずに私が困る。この一点だけは譲歩せざるをえなかった。 
ただ量を増やしただけで、いかに配分するかはれいむ達の仕事だ。

さて、まだまだ赤ゆっくりには固いそのゆっくりフードをくちゃくちゃと噛み、 
赤れいむと赤ありすの前にそれを吐きだしてやる。 
とたんに二匹はぴたりと泣きやみ、蛆虫か尺取り虫のようにもぞもぞと蠕動して餌に突進する。

「むーちゃむーちゃ!!むーちゃむーちゃ!!ぱにぇ!!しゅげ!!」 
「ときゃいは!!ときゃいは!!むーちゃ!!むーちゃ!!」

さんざ食べ散らかしてから、ゆげーぷとゲップをかます赤ゆっくり二匹。 
その後することといえば、うんうんとしーしーをひり出し、また眠る。これだけだ。 
赤ゆっくりが起き出すたびに食事を噛み砕いて与え、あちこちに撒き散らされる大小便を舌ですくい便所に運び、 
おねしーしーを垂れ流しながら眠りこける子供たちを寝床に運ぶだけ。 
この単調な仕事を休みなく延々と続けさせられ、れいむとありすの表情はどうにか微笑を浮かべながらも早くもげっそりしている。 
せめて子供とのすーりすーりでもできれば癒しになるのだろうが、当の子供たちには親への感謝や愛情のそぶりなどかけらもない。 
かいがいしい仕事も力及ばず、ゆっくりハウスの中は早くも雑然と汚れてきていた。

辛いのは私も同じだった。赤ゆっくりが泣きわめくたびにこっちも叩き起こされるのだ。 
ようやくまた寝かしつけたれいむに向かって、私は言いつけた。

「ちょっと、うるさくて眠れないんだけど」 
「ゆっ………ごめんね、おねえさん………でも、おちびちゃんだから」 
「おちびちゃんだから、何?」 
「ゆ……うまれたばかりのおちびちゃんは、がまんができないから、ないたり、おもらししたりするのよ。 
しかたがないことなの……ごめんなさい」 
「知ってるんだけど、そんなこと」 
「ゆ……?」

ベッドの上に起き上がり、れいむ達の前に顔を突きつけて言う。

「だから、赤ゆっくりがそういうものだって最初から知ってるの、私は。なに教えるみたいに喋ってるの? 
うるさいし、汚い。だからゆっくりできなくなる。だから子供は作るな、そう言ったわよね? 
でもあなたたちがちゃんと面倒見るから、私に迷惑かけないから、そういう約束で許したわよね? 
私、さっきから何度も叩き起こされてるんだけど?」 
「ゆっ………ゆぅ………」

返事を待ってみたものの、ゆーゆー呻いてうつむくだけで特に何も返ってこなかった。 
要は、飼い主の怒りはその場をしおらしくしてなんとかやりすごそうという腹らしい。 
苛立ちながら私は脅しをかける。

「じゃ、その子たち処分しようか」 
「「ゆ゛うううぅぅぅっっ!!?」」 
「私がゆっくりできないし、あなたたちもしっかり育てられないみたいだから約束通り処分します。 
そしてあなたたちも去勢しましょうか、子供を育てる能力がないなら生む機能はないほうがいいわよね」 
「ゆ゛んや゛あああああああっっ!!!やだっ!!やだやだやだやだよおおおぉぉぉ!!」 
「ぞだでばずっ!!ぢゃんどどがいばにぞだでばず!!ぢゃんどやりばずううう!!!」

ゆぎゃーゆぎゃー泣きわめきそらぞらしい約束を並べたてる二匹に向かって、 
私が手を振り「じゃあもう少し様子を見る」と伝えたところで、また赤ゆっくりが起きだしてむずがりだした。 
二匹はことさら大急ぎで子供の元に向かって叫ぶ。

「「ゆええええええぇぇん!!ゆぅえええええええぇぇん!!」」 
「ゆううぅぅっ!!しずかにしてね!!しずかにしてね!!おねえさんがゆっくりできなくなるよ!!しずかにしてね!!」 
「らんちさんならいまあげるわ!!おねがいだからしずかにしてっ!!ゆっくりしてえええぇ!!」 
「おにゃかしゅいちゃあああぁぁ!!おにゃかしゅいちゃああああああぁぁぁぁ!!!」 
「ときゃいは!!ときゃいはああぁぁ!!ときゃいはあああぁぁ!!」

赤ゆっくりは親の言うことなどまったく耳に入っていないらしかった。 
私は布団をひっかぶってなんとか寝る努力をする。

『私が少しでもゆっくりできなくなったら処分する』 
すでに今、この時点でミッションは頓挫しているが、さすがに今結論を出しても効果は薄いだろう。 
言い訳のエキスパートであるゆっくりの事、こんなに早く結論を出してしまっては、 
「もう少し育てば子供がなついたのに飼い主が」「もう少し言い聞かせればいい子になったのに飼い主が」と、 
なにかと理由をつけて私を逆恨みするはずだ。 
「やるだけやったけど自分たちにはダメだった」と納得させるまで付き合う必要があった。 
つくづく、ゆっくりを飼うというのはタフな行為である。


――――――――


人間でもノイローゼになる者が出てくるほど、子育てというのは本当にしんどいものなのだ。 
それを、我慢のがの字も知らないようなゆっくりがどうしてやっていけるのか?

結論から言えば、やっていけない。 
多産多死のゆっくりは、野生の中ではほとんどが成体になる前に死ぬが、 
子育てに疲れた親に「おやをゆっくりさせないげすはしね!」などと言われて潰される、という死因は、 
決して珍しいものではなく、むしろポピュラーな方なのだ。 
食糧が豊富で統制のとれたゆっくりの群れでは、ゆっくり殺しを禁じて抑制するケースもあるようだが、 
研究者によると、通常、親の子殺しは、子ゆっくりの死因の実に七割を超えるらしい。 
その結果、ごくごく一部の「手のかからない子」が生き延びるわけだが、 
年中発情期で一年を通して何度も何度も子作りをするゆっくりだから、そんな生存率でもしっかり増えていくのだ。 
外に出ても外敵だらけで死因がごろごろころがっているゆっくりではあるが、 
最初にして最大の壁が、自分を生んだ親なのである。

面倒なもの、無能なものは片端から殺してしまい、生き残るのは親が教えずとも自分でやっていけるような有能な個体。 
つまるところゆっくりの子育てとは、「育てる」というよりも、「ふるい落とす」という表現が実情に即している。 
それが、人間界では会話のできるペットとして愛好されるゆっくりの真実である。

さて、人間に飼われ世話された温室飼いの我がれいむとありす。 
恐らく生む前は、親を慕う素直なわが子と、 
一緒にすーりすーりしたりおうたでも歌っているところしか想像していなかっただろう。 
子育ての真実と直面した今、どれだけもつか見ものである。 
彼女たちの、あるいは私の堪忍袋の緒が切れるまで、一週間もてばたいしたものだろうか。

それ以上?ありえない。


9da28622

挿絵: