「ゆ゛ぶう゛………ゆぶ゛う゛………あばあば………」 
「もうあんなこたちとはあそべないよっ!!せいっさいっしてよおおぉぉ!!」 
「ごべんね………ごべんね………おぢびぢゃん…………おがあざんがわるがっだよ………ごべんでえぇ……!!」



育ての親のもみあげに抱かれながら、子まりさが泣き喚いている。 
怪我をしたほうの子まりさは、本部で大事に保管されていた飴玉を与えられ、それをしゃぶって舌の治療に務めていた。 
飛び出した右目もなんとか眼窩にはめこまれたが、いびつに明後日の方角を向き、元通りに動くかどうかいかにも怪しかった。

当然、大騒ぎになった。 
群れの大人たちが総出でれいむ一家を取り囲み、詮議をしていた。

「ゆー、ごめんね!!おちびちゃんがどじだったんだよ!!」 
「おちびちゃんどうしのおゆうぎよ。けがしちゃうこともあるわ」

いまだに泣き喚いている子れいむをすーりすーりと介抱しながら、親れいむ達は呑気に長の詮議に答えていた。 
ちなみに子ありすはかけっこの途中からずっとゆぴぃゆぴぃと眠っている。

「なにがどじだあああぁぁ!!あぎらがにわざどやっでだでじょおおおお!!? 
びどごどぐらいあやばれえええええええ!!!ごのげずううううううぅ!!」 
「ゆゆっ、ごめんね!!おちびちゃんだいじょうぶ?」 
「ごめんなさいね、れいむ。ね、おちついてちょうだい?」

その時まで、ついぞ謝罪の言葉はなかった。子まりさの容体さえ把握していたのかどうか。 
冷静に受け答えするれいむ一家、頭に血を登らせてわめき立てるブローチれいむ。 
そんな状態でさえ、群れの全員がブローチれいむの供述を信じた。普段は群れで一番大人しい彼女の激昂に、皆が心を痛めていた。

「ちっちっ。……おさ」 
「………むきゅ、わかっているわ。まさかこんなにはやく、〝じき〟がくるなんてね……」

長のぱちゅりーがれいむ一家の前に進み出る。

「ゆっ、おさ!!たいへんだったね!!」 
「れいむ。むれからでていってちょうだい」 
「「ゆっ??」」

ぱちゅりーの言葉に、一瞬二人が固まる。やがて爆発した。

「「ゆ゛っ………な゛んでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!?」」 
「たゆんのおちびちゃんにけがをさせて、まだわからないの? 
あのまりさがあんなめにあったことをいったいどうおもってるの、あなたは?」 
「おちびちゃんどうしのじこでしょおおおお!!?しょうがないでしょおおおお!!!」 
「ええ。ふだんからのしつけでふせげたじこよ」 
「なにそれええええ!!?おちびちゃんがほんきでけがさせようとしたっていうのおおお!!?」 
「ほんきだろうとおふざけだろうと、そんなあぶないことをするおちびちゃんは…… 
いいえ、そんなおちびちゃんにそだててへいきなあなたたちはむれにおいておけないわ」 
「あぶないかどうかおちびちゃんにわかるわけないでしょおおおお!!」 
「まともにそだてていればわかることよ。 
ほかのおちびちゃんをみていてわからないの?じぶんのおちびちゃんが、おくれすぎてるって」 
「どうみてもれいむのおちびちゃんがいちばんゆっくりしてるでしょおおおおぉぉ!!?」 
「ちっちっ。おさ、もういいのぜ」

ぱちゅりーの前に、串まりさが進み出て遮った。

「むきゅ、まりさ……」 
「どうせでていくゆっくりなのぜ。かってにかんちがいさせておけばいいのぜ」 
「…………」 
「なんなのぞれええええええ!!!!」 
「またあなたなのおぉ!?おちびちゃんがそんなににくいのおおお!!」 
「はいはい、ゆっくりゆっくり、なのぜ。 
もうそれでいいのぜ。おまえたちのおちびがいちばんゆっくりしてるのぜ」 
「わかってるんだったらおいださなくてもいいで……」 
「ところが、なのぜ。このむれのみんなはみんなゆっくりしてないげすなんだぜ。 
げすだから、そのおちびたちのゆっくりっぷりがぜんぜんわからないのぜ。 
わからないし、しっとしてるから、みんなそのおちびをきらってるのぜ」 
「なにひらきなおってるのおおおおぉぉ!!?」 
「なにをあせってるのぜ。そんなにゆっくりしたおちびなら、べつにおいだされてもかまわないはずなのぜ?」 
「「ゆぇっ??」」 
「ざんねんながら、このむれはげすのむれなのぜ。 
でも、ほかのむれにいけば、ふつうのゆっくりならそのおちびをみてゆっくりして、 
にんきもののおちびをちやほやしてくれるはずなのぜ。 
にんげんだって、そのゆっくりしたおちびちゃんのためにあまあまをいくらでもさしだすんだぜ。 
どこへいってもゆっくりできるのぜ。べつに、こんなげすのむれにしがみつかなくてもいいはずなのぜ?」 
「「……………………!!!」」

れいむとありすは何も言い返せず、ぎりぎりと歯噛みするばかりだった。 
「ゆっ、そうだねっ!!こんなげすどもにはたよらないよっ!!」などと即答しないのを見ると、 
やはりこの二匹にも一筋の理性はあったようだ。 
ぱちゅりーは二匹に同情した。しかし、群れのために決定を覆すわけにはいかない。

「わかったらさっさとでていって、せいぜいほかのゆっくりプレイスでちやほやされればいいのぜ。 
まりさはげすだから、おまえたちをいますぐえいえんにゆっくりさせたくてしかたがないのぜ」

そう言う串まりさの串はぶるぶると震えている。

「「ゆひぃっ……!!」」 
「おまえたちがむれにとどまるつもりなら、むれのおきてにしたがってせいっさいっしなきゃいけないのぜ。 
でも、いまのまりさがせいっさいっしたら、きっとえいえんにゆっくりさせちゃうのぜ。 
だからでていったほうがおまえたちのためにもなるとおもうんだぜ。 
れいむ。それでいいのぜ?」

串まりさに振られたブローチれいむが、涙を流し唇を噛みながらもやっとのことで頷いた。

「あのれいむががまんしてるから、みんなもがまんしてるのぜ。 
みんなのきがかわらないうちに、すなおにでていったほうがいいとおもうのぜ?」 
「お……おさ………おさぁっ…………!!」

涙目になって救いを求める視線をぱちゅりーに向けてくるれいむ。 
ぱちゅりーは串まりさの前に進み出ると、声を励まして言い渡した。

「れいむとありすを、このむれからついっほうっするわ! 
もし、これからこのこうえんでれいむとありすをみかけたら、むれのだれでもせいっさいっするけんりがあるわ。 
もしもかくまうゆっくりがいたら、そのゆっくりもせいっさいっされるわ。 
さあ、でていきなさい!!」


「このげす」「おちびちゃんはゆっくりできるんだよ」「ゆっくりしたおちびちゃんならどこでもゆっくりさせてくれるよ」 
数々の捨て台詞を吐きながら、それでも子供たちを連れてれいむ達は出ていった。 
ぱちゅりーは最後の深い深い息をつく。

「おさ。おつかれなのぜ」 
「いいえ。またあなたにたよってしまったわ……」 
「いや、まりさはよけいにいいすぎちゃったのぜ」 
「そうはおもわないわ」

友達に囲まれているブローチれいむのもとに歩み寄り、声をかける。

「れいむ。おちびちゃんはだいじょうぶ?」 
「ゆ………なんとか、べろさんはなおるとおもうよ……おめめさんはわからないけど……」 
「ぱちゅりーがもっとはやくついっほうしていればこんなことにはならなかったわ。 
むれのおさとして、おわびさせてちょうだい」 
「ゆゆん、れいむがじぶんできめたことだよ。よけいなおせっかいをしたれいむがわるいんだよ……」 
「……あとでまた、おみまいにあまあまをもってくるわ。ゆっくりやすんでちょうだい」 
「ゆん……おさ、ゆっくりありがとう」

ブローチれいむとぱちゅりーの視線が交わる。 
互いの胸中が手に取るようにわかる。共に、あの一家に対してなにもできなかった無念を抱いていた。

「ちっちっちっ。 
まったく、むのうはげすよりやっかいなんだぜ。まわりのざいっあくかんまで、ゆっくりできなくさせていくのぜ」

慰めのつもりだろうか、串まりさはぱちゅりー達の背中ごしにそう言い捨て、本部へと戻っていった。 
夕日が公園を赤く染めかけていた。


――――――――


暗い部屋の電気をつける。 
帰ってくるたびのこのひと手間に、いつも気が滅入る。 
前は帰りを待ち、挨拶してくれる同居人がいたが、今はもういない。

あのれいむとありすが出ていってから一週間がたつ。 
このところなかば放心状態で、部屋が散らかりはじめていた。 
足元に散らばるビニール袋を拾い集め、ゴミ箱に乱暴に押しこむ。

最後はひどい雰囲気だったが、それでも失って痛感するのは飼いゆっくりのありがたさだ。 
話し相手としての癒しと同時に、手間のかかる厄介さもまた持ち味だった。 
それだけに、躾を誤り、逃がしてしまった不手際が返す返すも後悔の種だった。

ベッドに身を投げ出し、自己嫌悪に陥りながらも鞄の中から冊子を取り出す。 
ゆっくりショップの店頭に置かれた、持ち帰り自由の飼いゆっくりカタログだった。

ページをたぐれば、客の興味を引くための心地よい文言が並ぶ。

『やんちゃで元気!ゆっくりまりさがあなたの家を賑わわせます』 
『手がかかるけど無邪気なおしゃまさん、ゆっくりれいむと暮らす楽しい生活』 
『都会派なゆっくりありすとセレブな午後を過ごしてみませんか』 
『知的で静かな読書家、ゆっくりぱちゅりーの優雅なたたずまい』 
『その可愛さには本物の猫もタジタジ!?ゆっくりちぇんなら猫好きのあなたも満足!』

読んでいるうちにうんざりし、カタログを投げ出す。 
子供の頃から飼いゆっくりと付き合ってきた自分には、それらが無責任に誇張された売り文句であることはわかる。 
いかにも楽しそうなこれらの売り文句を信じてゆっくりを飼った顧客のリピート率は五割を下回るらしい。 
それも、徹底的にしつけられた金バッジ級ならリピーターは多いものの、 
銅バッジに手を出した素人はほとんどがうんざりしてすぐにやめるという内実だ。

自分では、飼いゆっくりに慣れた玄人のつもりでいた。 
親がゆっくりを飼っており、子供の頃から五回以上ゆっくりを飼い、 
トラブルも多かったが、どれもおおむね最後まで看取れたし、仲良くやってこれたつもりだ。 
それだけに今回のことはショックだった。あんなに聞き分けがなくなるなんて。 
念のため銀バッジ以上を飼うようにしていたが、個体の違いはやはり大きいらしい。 
子供のことさえ言いださなければ。子供を作る前までは、今までのゆっくりと比べてもいい子だと思っていたが。

カタログに並ぶゆっくり達を見ていても、頭にちらつくのはあの二匹だった。 
やはり最初から去勢していればよかったのか、子供を作った時点で有無を言わさず潰すべきだったのか。 
そうすれば暴れたり逆らうことはなかったかもしれない。 
しかし、ああまで母性の強いれいむが、その後機嫌よく飼われてくれたかどうか。 
よく聞くように、子供を作れなくなったゆっくりが絶望し、廃ゆっくりになるケースがある。 
あのれいむはそういう、典型的な母性タイプではなかったか。 
「廃ゆっくりになったら捨てて、次のに取りかえればいいじゃん」と会社の同僚に言われたときには体温が二度ほど上がった。 
ゆっくりに対するスタンスはそりゃ個人の自由だが、そう思える人間が最初からゆっくりなど飼うわけがないではないか。

どうすればよかったのか、いまだにわからない。

ふと、私は部屋に鳴り響く音に気がついた。 
ドン、ドン、とガラス戸を叩く音。 
まさか、と思う。

「あけてねっ!!あけてねっ!!おねえさん!!ゆっくりここをあけてねぇぇ!!」 
「おねがいっ!!ここをあけて!!なかにいれてええぇ!!」 
「「ゆびぇえええええぇん!!ゆびゃあああああああ!!おにゃかしゅいちゃああああぁぁ!!」」

がばっと立ちあがり、カーテンを引く。 
庭に面したガラス戸に体当たりを繰り返していた二匹の野良ゆっくりが、私の顔を見てぱっと顔を輝かせた。

「ゆううぅ!!おねえさんっ!!あいたかったよおおぉ!!ありがとおおぉぉ!!」 
「よかったわぁぁ!!さあ、ここをあけてちょうだいっ!!おちびちゃんがおなかをすかせてるのよおぉ!!」

思わずガラス戸に手をかけそうになったが、私はそこでまじまじとれいむ達の姿を見た。

ひどいものだった。 
泥だらけの傷だらけ、頭には葉っぱやゴミ屑が絡みつき、泥の色をした涙の跡が顔中に蜘蛛の巣のようにめぐらされている。 
野良ゆっくりに身を落としたとはいえその汚さは度を超えていた。

それ自体はまだいいが、ここで迎え入れるのはためらわれた。 
ここで許せば、また同じことの繰り返しなのだ。

「……何しに戻ってきたの?」 
「ゆゆっ!?ゆっくりせつめいするから、ゆっくりここをあけてねっ!!」 
「そこで説明して。なんで戻ってきたの」 
「ゆーっ!!れいむとありすがもどってきたんだよおぉ!?どぼじであげでぐれないのおぉ!?」 
「どうしてもなにも。 
もし私のところに戻るつもりなら、その子供たちは処分することになるけど? 
それが嫌で出ていったんじゃないの?」

れいむ達の横で泣き喚いている子ゆっくり達は、私のところを出ていった時よりも二周りほど大きくなっていた。 
しかし、その中身はまったく、何ひとつ成長していなかった。 
いまだに赤ちゃん言葉で、底部には真新しいうんうんがこびりついている。 
今迎え入れてはいけない、と確信を強めた。

「ゆうううぅぅ!!?まだそんなひどいこというのおおぉ!!?」 
「どぼじでぞんなにわがらずやなのよおおぉぉ!!いいかげんにしてよおおぉぉ!!」 
「またあの押し問答を繰り返すつもりなの?なら出ていきなさい。中には入れられないわ」 
「ひどいいいぃ!!ひどいよおぉ!!かいゆっくりをすてちゃいけないんだよおおぉ!!」 
「私があなたたちを捨てたんじゃない、あなたたちが私を捨てたのよ。 
大体あなたたち、タンカ切って出ていったんじゃないの。真実のゆっくりを見つけた自分たちなら大丈夫だって。 
その様はなんなのよ?」 
「ゆ゛っ…………ぐぅっ………………… 
………だっで、だっで、だっでだっでだっでえええぇぇ!!みんなひどいんだよおおぉぉ!!」 
「みんなおぢびぢゃんにいじわるずるのよおおおぉぉ!! 
ごんなにゆっぐりじだおぢびぢゃんなのにっ!!みんながおぢびぢゃんをぜめるのおおぉぉ!!」 
「誰にどう言って責められたの?」 
「ゆううぅぅ………ぎだないっで、ぐざいっでいうんだよおおぉぉ………」 
「ゆっぐりのむれに、はいろうどじでも………どこも、おぢびぢゃんがゆっぐりでぎないっで………」 
「にんげんさんに、がっでもらおうどおもっだげど………びんな、おぢびぢゃんのわるぐぢばっがりいうのおおぉぉ………」

「かいゆっくりにしてください」「にんげんさんをゆっくりさせます」 
駅前の広場であちこちに頭を振りながら懇願する野良ゆっくり。 
れいむとありすがそこまで身を落としているのを想像すると苦々しい思いが湧きあがる。

「つまり、そのおちびちゃんを見ても、誰もゆっくりしてくれなかったのね?」 
「「……………ゆ゛ぅ………………」」 
「私は言ったわよね。おちびちゃんをちゃんと躾けなさいって。 
トイレも覚えさせなかった結果がそれでしょう。自分たちが正しいと、今でも思うの?」 
「!!…………おぢびぢゃん……おぢびぢゃんは、ゆっぐじ、でぎるんだよっ………!!」 
「だれよりも、どがいばな、おぢびぢゃんなのにいいぃぃ………!!みんな、みんなぁぁぁ………!!!」

一体なにがこの二匹を突き動かしているのか私にはもうわからなかった。 
母性か?意地か?そもそもこの二匹には、自分の子供の姿が見えているのか?

「それで、また飼いゆっくりになりたくてここに戻ってきたのね?」 
「ゆっ!!そうだよっ!!またれいむたちをかってねっ!!」 
「おねがいよ、おねえさん!!こんどはとかいはに………」 
「それなら、その子供たちは捨てなさい」 
「「ゆ゛ううううぅぅぅぅぅっ!!!?」」 
「もうあなたたちに子供を育てられるとは思えない。子供は切り捨てなさい。 
それならまた飼うわ。去勢はさせてもらうけど、最後まで面倒は見る。 
子供が見捨てられないなら、あなたたちが最初に言ったとおり、自分の子供は自分で守りなさい」 
「ぞんなっ………ぞんなああぁぁ!!」 
「びどずぎるわああああぁぁぁ!!」 
「そうよ、人間はひどいのよ。ゆっくりの子供なんか殺しても平気なの。 
それでも人間に頼るしかないなら文句は言わせないわ。 
嫌なら、自分たちで野良として生きなさい。この街はゆっくりにとっては暮らしやすいほうよ? 
一匹でもゆっくりを見かけたら即座に処分するような街だって、世の中にはいっぱいあるんだから」 
「ゆ゛う゛う゛う゛う゛ぅぅ………!!」 
「飼われるか、おちびちゃんと暮らすかよ。選びなさい。 
私はまた飼いたいけど、その子たちの、いえ、子供と一緒にいるあなたたちの面倒は見られない。 
私に飼われるより、おちびちゃんと一緒にいるほうがゆっくりできるとその状態でもまだ思うなら、私は邪魔しないわ。 
どこへでも好きなところへ、可愛いおちびちゃんと一緒に行きなさい」 
「「おねえざっ………………!!」」

私はそこでカーテンを閉めた。

ガラス戸に背を預け、れいむ達の返事を待つ。 
お願い、許して、悪かった、おちびちゃんも飼って、れいむ達はしつこく懇願しつづけていたが、 
三十分もすると叫び疲れて声が小さくなり、一時間が過ぎて物音がしなくなった。 
カーテンを再び引くと、もうれいむ達の姿はなかった。

れいむ達は、やはり子供たちを選んだのだ。 
ああなっても、あそこまでの目に遭っても、おちびちゃんを潰されるぐらいなら、 
誰も味方がいなくても、外敵だらけの野良暮らしを選ぶのだ。

窮屈な躾と引き換えに、私が飼いゆっくりに与えられるものは一体なんだろうか? 
せいぜい、暖かい寝床とお菓子、外敵から身を守る壁。それだけ。思えばたったそれだけだ。 
ゆっくりにとっては、あんな生活に身を落としても、子供のほうがそれに勝るのだ。 
人間が真っ先にゆっくりに禁じ、奪う、子供とはそういうものなのだ。

私は布団の上のゆっくりカタログを取り上げ、びりびりに引き裂き、力任せにゴミ箱に叩きこんだ。


――――――――


「おねがいじばず!!でいぶだぢをがっでぐだざい!!」 
「おぢびぢゃんをみでぐだざいっ!!おぢびぢゃんはどっでもゆっぐじでぎばずっ!!ぼんどうでずぅぅ!!」

駅前近くの電柱の下で、れいむとありすは道行く人々に懇願を続けている。 
誰もが眉をしかめ、あるいは一瞥もくれず、足早にその前を通り過ぎていく。 
ここ数日、毎日二匹はここでそれを繰り返していた。 
このままではあと一、二日で、市のゆっくり駆除課に目をつけられて処分されるだろうと誰もが思い、 
わざわざ靴を汚すのを避け、距離をとって離れてゆく。

プライドを捨てて、飼い主だったお姉さんに頼みに行ったが、それもすげなく断られてしまった。 
もう捨てるプライドもなく、手立てもなく、二匹は喉が枯れるまで叫び続けた。

そうこうするうち、二匹の前に立ち止まる姿があった。

「やあ、どうしたんだい?君たち」 
「「ゆ゛ぇっ………!」」

この数日間で初めて立ち止ってくれた人間だった。 
れいむとありすはぱぁっと笑顔を浮かべ、靴を舐めんばかりにその青年にすり寄った。

「ゆ゛ぇえ゛え゛え゛え゛え゛ん!!やっだ!!やっだやっだやっだよおおぉぉ!!」 
「やっどどばっでぐれだわぁぁぁ!!あじがど!!おにいざんあじがどおおおお!!」 
「おいおい……どうしたのかって聞いてるんだよ」

泥だらけの顔をすり寄せてくるれいむ達に顔をしかめて足を引き、青年が促す。

「ゆゆっ!!れいむたちをかってほしいんだよっ!!」 
「ゆっくりできるおちびちゃんたちがいるのよっ!!みて!!みてえぇ!!」

青年が見ると、電柱の陰に二匹の子ゆっくりがいた。 
身体は大きいが、やつれて細くなっているために、まるで干し柿のようないびつな形になっている。 
それでも鳴き声は元気なものだった。

「ゆ゛う゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ん!!ごひゃん!!ごひゃん!!ごひゃんたべりゅううううう!!」 
「どぎゃいば!!どぎゃいばああぁぁ!!」

子ありすのほうは泣きながらも、勢いよくうんうんとしーしーを撒き散らしていた。 
青年はハンカチで口元を押さえたが、ハンカチの陰でなんとか笑顔を作り、れいむ達に顔を向けた。

「いやあ、とってもゆっくりしたおちびちゃん達だね!!」 
「ゆ゛っ!!ぞうだよっ!!ゆっぐじ!!おぢびぢゃんはゆっぐじじでるんだよおおおおぉぉ!!!」 
「わがっでぐれだのはおにいざんがばじめでよおおおぉぉぉ!!! 
やっばりあでぃずだぢはばぢがっでだがっだんだわああああああああ!!!!」 
「………ああ、そうだな。とってもゆっくりしてるよ。 
そんな君達に、ぜひゆっくりさせてほしいな。お兄さんの家の飼いゆっくりにならないかい!?」