「僕の好きなジャンルは『家族崩壊』モノでね。
仲のいい家族をさらってきて、 あまあまを奪い合わせたり、
疑心暗鬼に陥らせたりして家族同士でいがみ合うのを見るのが好きなんだ」



珍しく手ぶらで現れたお兄さんは、れいむ達の前に座り込んで話していた。

「ゆっくりなんて単純なもの、とは言うけど、 
実際に何十組の家族と付き合ってみると、いろんなパターンがあるよ。 
親が子をあっさり見捨てたり、逆に子が親をあっさり裏切ったり。 
力の強い一匹が他を支配したり、子供のために親が犠牲になったり。 
全員死ぬまで信頼し続けるケースも少ないけどある。 
でも、君達みたいなのは初めてかな?」 
「「………………………………………………………………………………………………………………ゆ゛っ」」 
「「あみゃあみゃー!!あみゃあみゃちょーだーい!!ねぇねぇねぇねぇあみゃあみゃー!!」」

それを聞いているれいむとありすの姿に、かつての面影はない。 
お飾りを切り刻まれてぞんざいに縫いつけられ、髪を全て皮膚に溶かしこまれ、 
片方の眼窩を含めて全身に穴を開けては小麦粉で塞ぎ、を繰り返された結果、 
もとは球状だったことがかろうじてうかがい知れるという体の、いびつに歪んだオブジェになっていた。 
割かれてずたずたになった唇の間からだらりとこぼれている長い舌には、無数のボルトがナットできつく留められている。

一方、お兄さんにまとわりつくおちびちゃん達は連日のあまあま生活ででっぷりと太っていた。 
身長は成体の半分程度だったが、横幅は成体に近い。 
下膨れの身体がだらんと床に広がり、頭部だけがちょこんと飛び出しているはぐれメタルのような形状になっており、 
本人たちはぴょんぴょん飛び跳ねているつもりだったが、頭部だけがのーびのーびを繰り返すだけだった。

それらを見回してから、お兄さんは言葉を続ける。

「なんなんだろうね、このおちびちゃん達は。 
ゲスじゃないね。ゲスなら、「ゆっくりさせないくそおやはしね!」とか言うよ。 
邪魔なものは憎み、排除する。憎い相手が不幸になることを望み、喜ぶ。 
でもこの子たちは、まっっっったく他人に興味がないんだな。 
ゆっくりさせてくれるなら寄っていく。ゆっくりできないならいらない、どうでもいい。 
想像力の欠如。生物として、いやゆっくりとしてどうなんだろうね? 
君達が言っていたとおり、ゆっくりするという意味ではゆっくりとして完成された性格なのか、それとも欠陥品なのか」

れいむ達は答えない。 
どんよりと濁った片方の目を、ぼんやりとおちびちゃん達に向けているだけだった。

「ま、とにかく、今日でお別れだよ。それを言いに来たんだ。 
君達はたっぷり楽しませてくれたよ。あれだけ可愛がっていたおちびちゃんを、一転して憎み、罵声を浴びせる。 
ゆっくりのそういう姿が大好きな僕にとっては素晴らしい御馳走だった。 
でも、こっちはねえ……」 
「ゆーっ!!あみゃみゃーっ!!」

汚らしいものを触るように、お兄さんは指先でおちびちゃんをつまみ上げる。 
頬をつままれてだらんとだらしなく伸びながら、なお底部は床と離れない。 
身体に対して小さすぎる顔がゆきゃゆきゃとはしゃぎ、小さなもみあげがぱたぱたとせわしなく動く。

「どうも食指が動かないんだなあ。 
家族を憎ませようと思っても、他人に興味がない以上憎むとも思えないし。 
虐めてみてもゆぎゃーゆぎゃー単調に泣きわめくだけだろうし、全然面白そうじゃないんだよね。 
ゆっくりのゆっくりらしさって、他者との関係で培われるんだって再認識しちゃったよ。 
これ、ゆっくりなの?」 
「「………………」」

かつては「世界一ゆっくりしたゆっくり」と信じたおちびちゃんの、ゆっくりとしての存在意義そのものが否定されるに至っても、 
れいむとありすは黙り込んだままで反応を返さなかった。

「………君達もすっかり反応が鈍くなっちゃったね。 
僕も飽き飽きしていた頃だし、これで解放するよ。どこへでも好きなところへ行っておいで。 
楽しい時間をありがとう!」


れいむ達は、再び元の路地裏に佇んでいた。

ダンボール箱に載せてここまでれいむ達を運んできたお兄さんは、一声挨拶すると、そのまま立ち去ってしまった。 
れいむとありすは、ただその背中を呆然と見つめていた。

「ゆーっ!!ゆっくち!!」 
「ときゃいは!!ときゃいは!!ゆきゃーっ!!」

その側で、おちびちゃん二人はいつもと同じようにはしゃぎ声を上げていた。 
状況をまったく理解しておらず、そのへんをずーりずーりと這い回り、きょときょとと周囲を見回す。 
つくづく何がおかしいのか、「ゆきゃきゃきゃっ」とひとしきり笑い転げたあと、 
二匹は変わり果てた姿の両親の前に回りこんで叫んだ。

「「ゆーっ!!おきゃーしゃんおにゃかしゅいちゃー!!あみゃあみゃー!!」」


――――――――


休日の買い物帰りに、私はれいむ達と再び会った。

近くのスーパーで惣菜を買ってきた帰りのことだった。 
私の家の前の道路に、それはいた。 
それが何なのか、すぐにはわからなかった。ゆっくりだということすら。

遠目にも汚らしい生ゴミのような、しかし蠢いているそれが何かわからず、 
5メートル手前で私はしばし立ちつくした。 
しかし、やがて、それが発した声で、それが何なのか私は理解してしまった。

「ゆっ!!おねえさんっ!!ゆっくりおかえり!!」 
「ゆっくりひさしぶりねっ!!おねえさん、やっぱりとかいはねっ!!」 
「…………………え?」

れいむ達は変わり果てていた。 
全身がでこぼこになり、頭部は禿げているのかカビでも生えているのか、まだらな色でぬめぬめと光り、 
二匹とも左目がなくなって、ボルトだらけの舌をしまう事もできずにこぼれ出させていた。 
一体何をどうやったのか見当もつかない。ただ、圧倒的な人間の悪意が全身から滲み出ていた。

最悪の、ケースになってしまったのか。 
私が飼っていたゆっくりが、そういう末路を辿ったのか。

「ゆーっ!!おねえさん、ずっとずーっとごめんねっ!!れいむたちがわるかったんだよっ!!」 
「ええ、ほんとうに!!ありすたちがいなかものだったわ!!ごめんなさい!!」

声だけは明るく、元気にはり上げながら、れいむ達は私のほうに這いずってきた。 
私は動かなかった。足がすくんでいた、という方が正しい。

「やっぱりおちびちゃんはちゃんとしつけないといけないよねっ!!れいむたち、あまあまだったよ!!」 
「ありすたち、はんっせいしたの!!ね、ありすたちのじまんのおちびちゃんをみてちょうだいっ!!」 
「「ゆげぇっ!!」」 
「!?」

れいむ達はそう言いながら、私のほうに何か放ってよこした。 
れいむ達と同じように汚れはてたそれらは、しなびたような妙な形で、しかしやはり蠢いていた。 
それらは恐ろしいことに、同じく私のほうを目指して這いずっていた。

「ゆ゛ぇええええええ!!ゆ゛びぇぇえ゛え゛え゛え゛え゛!!!おでえざっ、だじゅげでえええぇぇ!!」 
「どぎゃっ、どぎゃいばじゃだいいいぃぃ………ゆげぇっ………ぎぼぢっ、わづ……だじゅ………」

亀が這うよりものろい速度でずるずると蠢くそれらに、私は思わず後ずさる。 
大部分の歯が砕け、髪がまだらになるまでぞんざいに引き抜かれ、全身に打ち身や切り傷を作り、 
片目も抉られ、あにゃるとまむまむに小石を突っ込まれているそれは、 
驚くべきことに、れいむ達が溺愛していたあの子供たちらしかった。

「……………な………………」 
「いぢべるどおおおお!!おがあじゃっ、がっ、れいみゅをいぢべるのおおおおおお!!! 
だじゅげで!!だじゅげじぇえええぇ!!おでえざああぁぁぁあん!!」 
「おで、が…………ありじゅ………ゆっぐ、ゆっぐじ……ざじぇ…………ざぜでぐだじゃ、いいいぃぃ………」 
「ゆふふっ、おちびちゃんたちはあわてんぼうだね!!」

歪んだ顔をさらに歪め(笑っているらしかった)、れいむとありすがぽんぽんと飛び跳ねてくると、 
子供達の背後に立った。

「ゆっ!!おちびちゃんたち、もういーい?」 
「「ゆ゛っ!!ゆひいいいぃぃぃぃ!!!」」 
「ままのいうことをちゃんときかないとゆっくりできないわよ?ゆふふ」

そう言うと、ありすが子ありすの抉られた眼窩にボルトだらけの舌を突き入れた。

「ゆぎっ!!ゆぎぎぎぎぎいいぃぃぃ!!!がああぁぁ!!」

舌に刺さったボルトが眼窩の中で引っ掛かっているらしく、子ありすが吊るし上げられる。

「ままのいうことをきかないこまったおちびちゃんは………めっ!!」

そのまま、舌を振って子ありすをすぐ側の電柱に叩きつけた。

「ゆげばぁっ!!」 
「ままの!!いうことを!!よくきいて!!ゆっくりした!!いいこに!!なりましょうね!!」 
「がぁっ!!ゆごぉっ、ぼぉっ!!やべっ!!ごべ、なざっ!!ゆるじっ!!」

笑顔を崩さず、何度も何度もありすは子ありすを電柱に叩きつける。 
れいむの方も、子れいむの髪を舌で掴み、地面にぐりぐりと押しつけていた。

「ゆふふ。おかあさんたちのしつけにがまんできなくって、やさしいおねえさんにたすけてもらおうとしたんだね。 
でも、おちびちゃん、わかるかな? 
おねえさんはねっ、おとなのいうことをきけないおちびちゃんはきらいなんだよ!! 
ききわけのないゆっくりしたおちびちゃんを、おねえさんがたすけるはずないんだよっ!!ゆっくりりかいしてねぇ!!」 
「ゆ゛ぎいいいいぃぃぃ!!ががばばばばば!!やべ!!ごべ!!ゆぐじでぐだざいいいいぁああああ!!」

ごりごりと顔面を削られ、がんがんと地面に叩きつけられ、子れいむは必死に謝っていた。

ずたぼろに傷ついた子供たちの後頭部を乱暴に掴み、れいむ達は私に突き出してきた。

「ねっ!!おねえさん!!おちびちゃんたち、わるいことをしたらゆっくりあやまれるようになったんだよっ!! 
さ、おちびちゃん!!おねえさんたちに、あのことをあやまろうね!!」 
「さ、たくっさんれんしゅうしたわよね?ゆっくりおわびしましょうね!!はやくしましょうねっ!!」 
「「ゆびぃ!!」」

ボルト混じりの舌で殴りつけられ、ゆひいゆひいと泣き声を上げながら子供たちは私のもとに這いずってきた。

「ゆ゛………お、おでえ…………ざん………わりゅい、ごで………ごべん、だざい………でじだ……」 
「うん、うんじで……ごべんだざい………じーじーじで……じゅみま、じぇんでじだ………」 
「ゆふふ、おちびちゃんがんばって!!」 
「もっということがあったわよねっ?」 
「にんげんざんを………ばがにじで、ぼうじわげ…………ありばじぇんでじだ………」 
「ずびばぜんでじだ………ぼうじわげありばじぇん…………いうごど、ぎがなぐで…………いだがものでごべんだざい………」 
「どうっ!?おねえさんっ!!」

れいむ達は誇らしげに胸を張り、私に叫んだ。

「れいむたち、ちゃんとしつけできたよっ!!いまのおちびちゃんたちなら、おねえさんのいうことをよくきくよっ!!」 
「ね、みてちょうだい!!おといれさんもちゃんとできるようになったのよっ!!」

そう言うと、ありすは子ありすを仰向けにひっくり返し、その腹を舌でしたたかに殴りつけた。

「ゆ゛ぼぉっ!!!」

あにゃるを塞いでいた小石が勢いよく飛び出し、その奥からカスタードのうんうんが大量にひり出される。 
また眼窩に舌を突っ込んで強引に引き起こし、ありすが子ありすに命令した。

「さ、おちびちゃん!!おといれさんしましょうね!!」 
「………ゅ………わがじ、ばじ……だ………」

うんうんの上に放りだされた子ありすは、涙をぼたぼたこぼしながらうんうんを「むーじゃ、むーじゃ……」と咀嚼しはじめた。

「ゆゆっ!!れいむにのおちびちゃんもすごいんだよっ!!さ、おちびちゃん、おといれさんをしようねっ!!」 
「ゆ゛びぃっ………!!」 
「なにしてるのかな!?おといれさんだよ!!おちびちゃんはできるよねええ!!」 
「ばいいいぃぃ!!」

強要された子れいむは、地面に仰向けに横たわり、出来る限りの大口を開いた。 
その上にれいむが尻を突き出した。

「ゆーん、ゆーん………うんうんすっきりーっ!!」 
「ゆごぼおおぉぉ!!」

口の中にうんうんを流しこまれ、子れいむが泣きむせびながらも必死に咀嚼した。 
その様子を満足げに眺め、れいむ達が私のほうに再び向き直る。私はびくりと震えた。

「ねっ!!おちびちゃんすごいでしょっ!!いいこでしょ!!?」 
「おねえさん!!これならおちびちゃんもかってくれるわよねっ!!ね!!」 
「…………あ………………あ……………………」

あまりの光景に、私は震えながらさらに後ずさった。

「ねえ!!かってくれるよね!?かってくれないのっ!?」 
「いまのおちびちゃんならおねえさんのいうことをきくわっ!! 
うんうんをむーしゃむーしゃするのよっ!!おそうじだって!!しずかにしてることだって!!なんだってきけるわっ!!」 
「にんげんさんはそういうゆっくりがすきなんでしょ!? 
なんでもいうことをきくゆっくり!!なにをいわれてもさからわないゆっくり!! 
いくらゆっくりできなくっても、にんげんさんのいうことだけをきくゆっくり!! 
しぬまでにんげんさんだけをゆっくりさせて、じぶんはゆっくりしないゆっくり!! 
そういうゆっくりがすきなんだよねっ!!?だったらおちびちゃんもかってくれるはずだよおぉ!!」 
「ね!!そうよね!!だからありすたち、がんばったわっ!!みたでしょう!? 
もう、おちびちゃんにはゆっくりさせないわ!!ぜったい、にどと、こんりんざいゆっくりさせないわっ!! 
ありすたちもゆっくりしないわ!!いっしょう、おねえさんのいうことだけきいてくらすわ!! 
ねえ!!それでいいんでしょう!?それでおねえさんはゆっくりしてくれるんでしょう!!?」 
「むーじゃ、むーじゃ………ぶじっ、ぶじあわじぇええぇぇ…………」 
「ゆ、っぐじ………ゆっぐじじじゃい……………むーじゃ、むーじゃぁ……」 
「ひぃ…………っ」

私は無意識のうちに駆け出していた。 
れいむ達の横をすり抜けて走る私の背中に、れいむ達は叫び続けていた。

自分の家の中に逃げ込み、玄関に鍵をかける。 
そのままへたり込もうとしたが、すぐに強い嘔吐感がこみ上げ、トイレに駆け込んだ。

便器に向かってゲーゲー吐き、そのまま突っ伏して激しく嗚咽した。 
私はそのまま長い間泣き続けていた。

トイレから出なかったのは、れいむ達の声を再び聞くのが怖かったからだ。 
玄関やガラス戸に近づけば、あのおぞましい家族の声が響いてくるかもしれない。 
それが怖く、私はいつまでもトイレから出られず、がたがたと震え続けていた。


これが、私とゆっくりの、最後の顛末だった。 
私が最後に飼ったゆっくりの辿った末路、 
私がゆっくりにしたすべての行為の結果、答えだった。

れいむ達が飼い生活よりも子供を選び、私の元を立ち去った時点で、すでにゆっくりを飼う気はもうなくなっていた。 
しかし今、私はそれを通り越し、いまやゆっくりへの恐怖心でいっぱいだった。

れいむ達の復讐は、恐らく彼女たちの思惑通り、私の精神に深い傷を刻みつけていった。 
私が異常だったのか、れいむ達が異常なのかという問題じゃない。 
とにかく私の行為が招いた結果なのは間違いなかった。 
私に向けられたとてつもない負の感情。 
私がゆっくりに強いた要求、それに応えようとしたゆっくりの姿は、もう私の脳裏を一生離れることはないだろう。 
もはや私にとって、ゆっくりはペットとして飼えるような存在ではなかった。

夜が更けるまで、私は泣き続けた。


――――――――


「うるさいのぜっ!!でていくんだぜぇぇ!!」 
「ゆぶっ……!!」

公園の入り口で騒ぎが起こっている。

遠目に見て、ゆっくりの群れの中心で怒鳴っているのは串まりさだった。 
ゲスでもやってきたのか?それにしても集まっているゆっくりの数が多い。 
ぱちゅりーはその場に近づいていった。

「むきゅ、とおしてちょうだい。むきゅ」 
「ゆゆっ、おさ………」 
「おさ!!くるんじゃないんだぜぇぇ!!」 
「ま、まりさ?」

すごい剣幕で、串まりさがぱちゅりーを制する。 
しかし、ぱちゅりーはすでにその闖入者を視界に捉えていた。 
目を疑ったが、頭部にへばりついているお飾りの欠片で、あのれいむとありすの一家であることがわかった。

「「ゆゆっ!!おさあぁ!!」」

ゴミのような姿で、二匹はぱちゅりーの姿を認めて叫んだ。 
「ひっ」と、思わず恐怖が声になって漏れる。

「おさあぁ!!おちびちゃんしつけたよおぉお!!もうだいじょうぶだよおぉ!!」 
「おちびちゃんとってもいいこになったわぁぁ!!みてえぇ!!」 
「ごべんなじゃい!!ごべんなじゃい!!ごべんなじゃい!!ごべんなじゃい!!」 
「ぼうじわげありばぜんでじだ!!ずびばじぇんでじだ!!ごべんなじゃい!!ゆぐじでぐだじゃい!!」

ずたぼろの二人のおちびちゃんが、がんがんと頭を地面に打ち付けるようにして、誰にともなく謝っていた。 
いったい何を謝っているのか、両親の命令を受けてから狂ったようにただ詫び続けている。

「ねっ!!いいこでしょおお!?ね!!もうめいっわくかけないわあぁ!!」 
「またむれにいれてねっ!!ねぇ!!いいでしょ!!いいでしょおお!!」 
「やかましいのぜえぇ!!」

串まりさがまた、二人を跳ね飛ばす。 
ぜえぜえと息をつきながら、苛立たしげにまりさは串を鳴らした。

「ちっちっちっちっ…………いっかいついっほうされたら、もうとりけしはないのぜ!! 
おまえら、ころされたってもんくはいえないんだぜ!!それがいやなら……」 
「ゆっ!!じゃあころしてねっ!!いいよ!!えいえんにゆっくりさせていいよおぉ!!」 
「おちびちゃんといっしょならかまわないわあぁ!!さあ!!やってちょうだいいぃ!!」

れいむ達の迫力に、ずず……と串まりさが後ずさる。

「ありすたちをころすまえにこたえてちょうだい!! 
ねえ!!ゆっくりできるでしょう!?おちびちゃんっ!!ゆっくりできるでしょう!!」 
「れいむたちちゃんとしつけたよっ!!おといれさんもできるよ!!みんなにもめいわくかけないよっ!! 
みんなのいうことをきくよ!!どれいにしてもいいよぉ!!ねぇ!!ゆっくりできるっていってよおぉ!!」

叫び続けるれいむ達に、ぱちゅりーが歩み寄ろうとしたが、串まりさが串でそれを強く遮った。

「やめるんだぜ!!おさはさっさとかえるんだぜ!!」 
「むきゅ、でも………」 
「あいつらはこわれたゆっくりなのぜ!!あんなやつらのはなしなんかきくんじゃないんだぜ!!」 
「ねえ!!なんで!?なんでみんなゆっくりしてくれないの!? 
しつけたよっ!!いうこときくよっ!!めいっわくかけないよっ!!まだなにがたりないのおぉ!!?」

眉をひそめる群れのゆっくり達に、れいむ達は叫び続ける。

「かいゆっくりはゆっくりできなかったよっ!! 
のらゆっくりもゆっくりできなかったよっ!! 
おちびちゃんをしつけて!!ゆっくりをがまんさせて!!そのさきになにがあるのっ!? 
がまん!!がまん!!がまんして!!それでいったいどんなゆっくりがまってるのぉぉ!!? 
おちびちゃんしつけたよっ!!いまならなんでもがまんできるよっ!! 
かぞくをつくるのもがまんできるよっ!!こえをだすのもがまんできるよっ!!にんげんさんのどれいになれるよっ!! 
あまあまもがまんできるよっ!!ゆっくりできないかりもがまんできるよっ!!むれのおきてさんもぜったいやぶらないよっ!! 
ぜんぶがまんできるよ!!でも!!がまんして、がまんして!!それで!!どんなごほうびがあるのおぉぉ!!? 
いっしょう、がまんしつづけて、しぬだけじゃないのおぉぉ!!?」 
「うるさいのぜええぇ!!!」

串まりさがついに爆発し、本気の体当たりをれいむ達に喰らわせた。

「「ゆげべぇっ!!」」 
「こんなところでしなれてもめいわくなんだぜ!!よそへいってかってにしぬんだぜ!!」 
「ゆっくりしてるのっ!?みんな、ほんとうにゆっくりしてるのおぉ!!?」

れいむの狂乱は止まらない。泣きながらわめき続ける。

「ああ、ゆっくりしてるのぜ!!おまえたちなんかよりずっとゆっくりしてるんだぜ!!」 
「おちびちゃんをそだてても、すぐににんげんさんにつぶされるかもしれない!! 
いっせいくじょがこわくて、にんげんさんたちにびくびくしながらこそこそかくれていきるだけ!! 
みんなはほんとうにゆっくりできるのおぉ!!? 
れいむたちはこそだてにしっぱいしたよっ!!ばかで、むのうな、げすだったよっ!! 
でも、じゃあどうすればよかったのっ!!?ふつうに、ちゃんとしつけてそだてればよかったの!!? 
みんなは、こそだてのとくいなみんなは、ほんとにほんとにゆっくりできてるのおおぉ!!?」 
「やっ………かましいんだぜええええぇぇぇ!!!」

せいっさい用の太い枝で、串まりさがれいむ達をしたたかに殴りつける。 
何度も何度も殴りつけながら、強引にれいむ一家を公園の外に放り出した。

「「ゆっ……げべぇっ!!」」 
「おちびもそだてられないむのうが、たゆんのゆんせいにけちをつけるなんておこがましいんだぜ!! 
にどとこのこうえんにちかづくんじゃないのぜ!!むなくそわるいんだぜぇ!!」

その後、何か口を開こうとするたびに串まりさにしたたかに殴られ、 
ようやくのことでれいむ達は公園から立ち去っていった。

ゆぜぇ、ゆぜぇ、と体を上下させながら、串まりさが群れのもとに戻ってくる。 
群れの全員が、いたたまれない表情で一部始終を見届けていた。 
ちっ、と苛立たしげに串を鳴らし、串まりさが怒鳴る。

「なんなんだぜそのめはぁぁ!!みんな、あんなくずどものいうことをまにうけてるのぜぇぇ!!? 
おちびをあまやかしてこそだてにしっぱいして、ぎゃくたいにんげんにつかまるへまをやらかしたむのうが、 
たゆんのいきかたにけちをつけてじぶんをなぐさめてるだけなのぜ!! 
まりさがほしょうするのぜ!!みんなはとってもゆっくりしたむれなのぜ、みんなゆっくりできてるのぜぇ!!」 
「………ゆぅ………」 
「……ゆ、ゆん…………」

煮え切らない群れの態度に苛立ち、串まりさは一際大きな声で怒鳴った。

「いいからさっさとちるのぜぇ!!まだきょうのぶんのおそうじさんはおわってないのぜ!! 
のるまさんをくりあできないゆっくりはせいっさいするのぜ、きょうのまりさはきげんがわるいのぜぇぇ!!!」

恫喝され、群れの仲間たちはそそくさと持ち場へ戻ってゆく。 
ただ一匹、長のぱちゅりーだけがその場に残って串まりさを見つめていた。

「………なにやってるんだぜ。もどって、すけじゅーるさんのちょうせいでもするのぜ」 
「…………わたしたちは、どうしたらゆっくりできるんでしょうね………」 
「ちぃ!!」

ぱちゅりーの頬を、串まりさがもみあげで音高く打った。

「むぎゅっ!!」 
「そんなのしるかぜぇぇ!!だったらあのれいむみたいに、おちびをあまやかしてみたらいいのぜぇ!!」 
「そ、そんなこと……」 
「むれのおさが!!そんなことかんがえて、むれのみんなをゆっくりさせられるのぜぇ!!? 
そうだぜ!!ゆっくりなんて、いきてて、たくっさんっのゆっくりできないことだらけなのぜ!! 
ゆっくりできることなんて、ほんのひとつまみなのぜ!! 
でも、あきらめてなげやりになったら、そのひとつまみさえにげていくんだぜぇぇ!!」 
「……………」 
「ちっちっちっ………そんなにかんっぺきな、ゆっくりできないことなんかなにもないゆっくりぷれいすがほしけりゃ、 
かってについきゅうするんだぜ。ただし、そんなやつにむれのおさはまかせられないのぜ。 
おさは、まりさがやるのぜ。ぱちゅりーみたいにはできないけど、しかたないんだぜ」 
「むきゅ…………いえ……いいえ、ごめんなさい。もう、いわないわ。 
だからまりさ、そんなにおこらないで」 
「べつにおこっちゃないのぜ。………じゃ、いくんだぜ」 
「ええ……………」

串まりさとぱちゅりーは並んで歩き出した。 
最後に、ぱちゅりーはもう一度後ろを振り返った。 
れいむ達の姿は、もう見えなかった。


――――――――


「「ゆっくりしていってねっ!!」」 
「「ごべんなじゃい………ごべんなじゃい………」」 
「…………………………」

青年は呆れたように一家を見下ろしていた。

あの電柱の下で、自分が虐待したゆっくり一家が自分を見上げていた。 
かつて溺愛され、虐待を通して憎悪されるようになったあの子供たちは、 
ずたぼろになって壊れたオモチャのように頭を上下させ、何をだか知らないが詫び続けている。

青年が呆れているのは、あれほど虐待した自分をまるで慕うかのように、れいむとありすが見つめていることだった。

「…………なんだよ?」 
「ゆっ!!おにいさんっ!!れいむたちをぎゃくったいっするのっ!?」 
「ゆ!!ゆっくりぎゃくったいしていってねっ!!」 
「なんだそりゃ……………」 
「おにいさんはれいむたちをぎゃくったいっするとゆっくりできるんでしょう!?」 
「だれもありすとおちびちゃんたちでゆっくりしてくれないのっ!! 
おねえさんも!!むれのみんなも!!ありすたちでゆっくりしてくれないの!! 
ありす、がんばってしつけたのに!!おちびちゃんがんばったのに!! 
ねえ!!おにいさんなら、ありすたちでゆっくりしてくれるんでしょう!?」 
「れいむ、だれかをゆっくりさせたいんだよっ!!ねぇ!!ねえぇ!!」


「やれやれ…………」

お兄さんの家で、れいむとありす、子れいむと子ありすはそれぞれ器具にくくりつけられていた。 
れいむとありすは楽しげに歌を歌い、子供のほうはぶつぶつと何か呟いているだけだ。 
ぼりぼりと頭を掻きながら、お兄さんはれいむ達に言う。

「わかってんのか?死ぬんだぞ、お前ら。これから」 
「ゆっ!!ゆっくりりかいしたよっ!!」 
「ありすたちはいきてるかちなんかないわっ!!ゆっくりころしてちょうだい!!」

ふーむ、と顎に手を当て、お兄さんばにやりと笑う。

「よくわからんケースだが、ま、こういうのもちょっと面白いかもな。 
じゃ、説明するぞー。れいむとありす、お前たちを固定してるのは万力ね。 
まだ締めてないけど、これでおつむとあんよをそれぞれギュッと締めて、棒を通して固定して。 
そのまま下の万力を回転させて、少しずつ少しずつねじっていくんだよ。 
すぐに絞ればゆっくりなんてすぐ千切れるけど、ゆっくりやればまあ、三十分はかけられる。 
苦しいぞ~」 
「「ゆっくりりかいしたよっ!!」」 
「ありすたちをぎゃくったいっしてゆっくりしていってねっ!!」 
「子供たちのほうは、シンプルにミキサーだ。 
ある程度動きやすい蟻地獄状の容器にしてあって逃げられないし、 
ミキサーの回転は最初はゆっくり、徐々に速くなっていくから必死に逃げ回るゆっくりの姿が堪能できる。 
たっぷり時間をかけるようにしてあるから、存分にお互いの死に様を堪能してくれ。 
いいかい、わかった?」 
「「ゆっくりりかいしたよっ!!」」 
「はーい、スタートー」

お兄さんは装置のスイッチを入れた。

「「ゆ゛ぎぃっ!!!」」

れいむとありすの底部と頭部を挟む万力が、それぞれ強く締め付け、身体がひしゃげる。 
同時に、底部の万力がゆっくりゆっくりと回転しはじめた。 
動きはじめたばかりの今、ほとんど動きは見られなかったが、それでも確かに動いている。

「「ゆ゛ぁっ!!びゃいいぃっ!!?」」

子ゆっくり達のミキサーも作動し始めた。 
蟻地獄のような形状になっている容器の中心部に、丁度子ゆっくりより少し幅が狭い程度の刃がゆっくりと回転する。 
底部を引っ掻かれ、恐慌をきたした子ゆっくりがそれぞれもるんもるんと蠢いて這い上ろうともがき始めた。


「ゆふ………ゆふふ…………おちびちゃん………ゆっくり………」 
「いっしょ……いっしょよ…………ゆふ、ゆふふふ……………」 
「ああ、〝壊れたふり〟はもういいよ。お前ら、ずっと泣いてるし」

頭部と底部を締め付けられながら、まだまだれいむ達には余裕がある。 
両手を上げて、お兄さんはれいむ達をたしなめる。

「ヤケクソになってんだろ? 
開き直って、子供をそんなふうにしてよ、それで誰もゆっくりしないのはわかってんだろ。 
結局他人のせいにして、皮肉で責めたいだけじゃないか。「お前らが言ってるのはこういうことなんだぞ」って、誇張してさ」 
「………ゆぐっ…………ゆっ…………」 
「おに、おにい………さん………」 
「何?」 
「あり、ありすたち………どうすれば……………よかったのかしら………」 
「みんなにさんざん言われてきたんだろ。フツーに育てて、フツーにゆっくりすればよかったんじゃないの」 
「ゆふ……………ゆふ、ゆふふ……………」 
「壊れたフリはもういいって。 
めんどくさいからさっさとまとめるけど、お前らが馬鹿だったの。それだけの話なの。 
可哀想なのはあの子たちなんじゃないの? 
今見たけどさ、まあお前らが虐待した結果だけど、少しはましになってたみたいだぞ。ゆっくりとしてまともな反応に近かった。 
まともに育ててれば、まともに育ってたぞあれ、確実に」 
「……………れいむ、たちの………せい、だね………」 
「あーうん、だなー。まあもう手遅れっぽいから処分してあげてんだけど。 
馬鹿親のせいで性格悪くなってみんなに嫌われて、その馬鹿親に虐待されて、あげくに今こうして殺されるんだから。 
こりゃ生まれてこないほうがよかったね確実に。お前らの元に生まれたばっかりにねえ。 
誰か止めるやつはいなかったのかい?」 
「ゆ゛…………いだ、よ………………」 
「ああ、そうそう、元飼い主がいたな。言うとおりにしてあきらめりゃよかったのに。馬鹿だねえ、お前たち」

万力の角度がどんどん強くなっていく。 
れいむとありすの体はぎりぎりと締めあげられ、くっきりと螺旋を描きはじめていた。

「ゆぢっ!!ぢぃ!!だじゅっ!!いぢゃああ!!」 
「じにっ!!じにだぎゅにゃいっ!!おでが!!だじゅげぢぇえええ!!」

ミキサーの中で子ゆっくり達が叫んでいる。 
もるんもるんと振る底部は少しずつがりがりと削られ、回転する刃に接触する度に赤黒い餡子を撒き散らしていた。

「れ………れい、む…………たち………ゆっ、くり………した、かった……よ………」 
「みんなそうですよ」 
「かいゆっ、くり……も…………ゆっく、できな、かった………………おぢび、ちゃ……つくれな……… 
のらも……ゆっくり……でぎっ……な…………」 
「根が贅沢なんじゃない?人生哲学みたいに喋り出しちゃってるけど」

れいむ達の体は、いまや180度を超えて回転している。 
片方だけ残った目玉は飛び出し、中枢餡ごと締め付けられる激痛に視界が赤く染まる。

「ゆっ、ぐじ………じだ、がっ…………… 
ゆっぐ、りが………いっぱい………………すきな、だけ………ゆっくり、する、のは………どう、したら………」 
「こっちが聞きたいよ。 
お前らが恐れてる人間だって、そんな好きなだけゆっくりしてないよ。 
そんなことを本気で望んでる時点で、お前たちこの世界に向いてなかったんじゃない? 
無能は無能らしく、苦しんで死ね、それだけさ。なっ」

ぽん、と青年がれいむの頭を叩く。

おちびちゃん達は、身体の半分近くを削られ、刃の上でびくんびくんと痙攣していた。 
うつろな目玉が空中を泳ぎ、飛び出したれいむ達の目と合う。

(…………おち、び……………ちゃ…………)

もう声は出なかった。 
激痛のみがれいむ達の世界を占めた。

限界を超えた苦痛が、じっくりじっくりと時間をかけてれいむ達を苛む。 
口から餡子を漏らそうにも、ねじられて螺旋状に圧迫された皮膚が口をふさいで即死を許さない。 
意識が朦朧とするほどの激痛に達してから、れいむ達が絶命するまで、たっぷり二十分はかかった。




〈 ゆっ おちびちゃん あんまりとおくへいっちゃだめだよ


  ゆっ ゆっ ゆっくちー


  ときゃいは ときゃいは


  もう おちびちゃんったら やんちゃなんだから


  おちついてねおちびちゃん ほら すーりすーり


  ゆゆっ おきゃあしゃん しゅーり しゅーり


  ゆー みゃみゃ だいしゅきー


  あらあら おちびちゃん ゆっくりうれしいわ


  おかあさんたちも おちびちゃんのことが だいすきだよ 


  ゆっくちー 〉


【おわり】