「はぁっ…はっ…げほっ、う…げほっ。」

傷だらけのふらんが、飛ぶこともせず夜の森を跳ねていた。 
なぜ、飛ぶことができないか。理由は体中の傷にある。 
先程まで、このふらんは虐待趣味の男により凄惨な虐待を受けていたのだ。 



その男は希少種限定の虐待趣味を持つ男で、様々な希少種を虐待し、潰していた。 
中でもふらんはここ最近の男のお気に入りであった。 
その高い再生力を利用し、潰れる寸前まで虐待し、再生させる。そしてまた虐待する。 
この苦輪を、ここ1か月ふらんは味わっていた。

だが、唐突に転機が訪れる。男の家に、警察の手が入った。 
希少種はその名の通り、極めて希少である。ペットショップでも非常に高価だ。 
このふらんは不幸にも、森の近所に家を構えていたこの男に捕獲されたのだが、他の希少種は違った。 
この男は、希少種虐待の快楽にどっぷりとつかっており、希少種入手のために手段を選ばなかった。 
希少種を飼っている家を突き止め、家人が留守の内に侵入し、多くの希少種をさらっていたのだ。

こうして、男の家に監禁されていた希少種達が警察により解放されていく中、ふらんは警察の目を盗み逃げ出した。 
もはやふらんは度重なる虐待により、自分以外の何も信じられなくなっていた。助けに来た警察でさえも。 
そして、もはや再生力も落ちるほど傷ついた体に鞭打ち自分の故郷の森に帰ってきたのだ。 
しかし、それが限界であった。だんだんと移動速度が落ちてくる。そして…

「うー…」

口惜しそうに一声あげ、ふらんは動かなくなった。 
せっかく帰ってきたのに。あの男から逃げ出してきたのに。こんなところで死にたくない。生きたい。生きたい。 
再生力が弱まってきたこともあり、虐待は常に死の恐怖と隣り合わせであった。 
それにより眩いほどの輝きを放つようになった「生」への希望が、フランの全身を満たしていた。 
しかし、もはや意識を保つことはかなわず、ふらんの意識は闇へと落ちていく…


「うー…ここ…は…?」

しかし、ふらんは死ぬことはなかった。 
体の痛みは消え、体力もまだ戻ってはいないものの、いくらかはましになっていた。 
辺りを見渡す。どうやら洞窟の中のようだ。

「よかったよ!きづいたようだね!」

野太い大きな声が響く。こんな声が出せる存在は一つしかない。

「どすまりさ…」 
「そうだよ!びっくりしたよ!ふらんがあんなにぼろぼろでいるなんてふつうはありえないからね!」

ドスまりさ。捕食種であるふらんの天敵ともいえる存在であった。 
攻撃は厚い皮に阻まれ、その大きな舌は素早く動き、ボディプレスの前には再生力も意味をなさない。 
そして、「ゆっくりしているゆっくりをゆっくりさせる」という信念のもと、 
捕食種であるふらんに積極的に攻撃を仕掛けてくる。 
そんなドスがふらんを助ける理由は、ふらんには一つしか思いつかなかった。 
再生する体を食料にし、安定した食料を確保しようとしているのだろう、と。 
希少種の名に恥じぬ知能を持っているのが災いし、そこまで頭が回ってしまうのだ。

「うー!ちかよるな!」

牙をむき、精一杯の威嚇を見せるふらん。だが、ドスからの反応は実に意外であった。

「なにがあったかはしらないけど…ドスはなにもしないよ!」 
「…!?」

予想に反し、何もしないと宣言するドス。しかし、男の虐待で傷ついたふらんはその言葉を信用できなかった。

「だから…おちついてね?からだにわるいよ!」 
「うー……うー!」 『ガブ!』

心配そうな顔をしながらふらんに近寄るドスに、ふらんは牙を突き立てる。が、それで終わりであった。 
厚い皮に阻まれ、牙は内部の餡子にまで届かない。 
届いたとしても、今のふらんの体力ではドスの餡子を吸い出すことなどできないのだが…

「こらこら、そんなことをしてるとなおりもおそくなるよ。」

僅かながら痛みもあるだろうが、そんな素振りは見せず優しく諭すように微笑みながらふらんに語りかけるドス。 
ふらんをその舌で優しく包み、ゆっくりとフランをひきはがし、地面に置いた。

「くちにあわないかもしれないけど、これがごはんだよ。すこしずつでいいからたべてね。 
 じゃあどすは、そろそろむれのところにいくからね!まだそとにはでちゃだめだよ!」

ふらんの食事を用意すると、ふらんの反応を待たずに洞窟から出ていく。ドスはドスなりに忙しいのだ。

「くそ…なんのつもりなの…」

そう呟きながらドスの用意した食事を見る。 
ふらんが捕食種で、ゆっくりの中身である餡子をはじめとした甘いものが主食なのを気遣ってか、 
そこに出された食事は果物といったゆっくりにとって貴重な甘味ばかりであった。 
毒が入っているかもと一瞬訝しんだが、どうせここから逃げてもこの体では死ぬだけ、と割り切ることにした。

「……おいしい!」

その味に思わず舌鼓をうってしまった。そこまで言ってハッとする。 
本来ふらん種は、食事の際は音を立てず、声も出さない。それは本能であった。 
そうすることでゆっくりが数多くいても、自分の存在に気づかれずに一匹、また一匹と捕食できる。 
通常種がれみりゃよりふらんを恐れ、またれみりゃよりもふらんに狙われた時の方が被害が大きいのはこれが理由だ。 
しかし、昨日まで死と隣り合わせにあったふらんにとって、久々の甘味は本能を忘れてしまうほどの幸せであった。 
少しだけ、顔を赤くしてうつむいた後、あっという間に食事を平らげた。

そして、どのくらいの時間が流れたであろうか…いつの間にかふらんは眠ってしまっていた。

「…らん…ふらん…!」 
「ん…うー…」 
「ふらん!」 
「うー!?」 
「ふふ…めがさめたね!」

目が覚めたふらんの前にはドスがいた。思わず飛び退くふらん。

「うー!うー!」 
「さっきもいったけど、どすはなにもしないったら!」 
「…しんようできない。」 
「まぁ、しかたないね…さぁ、ばんごはんのじかんだよ!」 
「…なんで?」 
「ゆ?」 
「なんで、わたしをたすける?」 
「…ふらんしゅはたしかにみんなをゆっくりできなくする… 
 でも、ふらんはみもこころもきずついて、たおれてたから。」 
「でも…わたしはいままでれいむやまりさをいっぱいたべたんだぞ?」 
「どすにはわかるよ、ふらんはゆっくりできるふらんだって。 
 だったら、ゆっくりしたゆっくりをゆっくりさせるのがやくめのどすは、ふらんをたすけるよ。」 
「…!?」

驚くべき返答であった。今のふらんにはとても信じられないものであったが、 
傷ついたふらんの心に、その言葉とドスの微笑みが、すぅ、と優しく染み渡ってゆく。 
あぁ、なんだか胸がとっても暖かい…ふらんは理解したくはないが、そう感じてしまっていた。

「でも、わたしはだれもしんようしない…」 
「それでもいいよ。ふらんがなおるならね。ほら、ぺ~ろぺ~ろ。」 
「なっ!?やめろっ!?かおをなめるな!」 
「でも、おかおがよごれちゃうよ?」 
「なにをいって…あれ?わたし…なんで?」

気づかぬ内にふらんは涙を流していた。だがそれは男に虐待されていた時のように 
悲しいからでも、悔しいからでも、痛いからでも、絶望したからでもなかった。 
嬉しかった。ただそれだけだった。 
いつ以来だろうか。嬉し涙を流したのは。母と共にいた子供時代にまで遡らないと、 
ふらんはその記憶を手繰り寄せることはできなかった。 
そして、堰を切ったかのように、ふらんの涙腺は決壊した。

「う、うぅー!!!」 
「よしよし…こわくないよ。どすがいるからね。」 
「お…おがぁざぁん…」 
「ふふふ、ふらんはあまえんぼだね。」

泣き続けるふらんを、ドスはひたすらいたわり続ける。 
そのドスの姿は、まさしく慈母と形容するに相応しいものであった…


ふらんがドスに保護されてから、1週間ほどが過ぎていた。 
保護されてからは、群れの目につかないように基本的に洞窟の奥にいたのだが

「あした、ふらんをむれのいちいんとしてみんなにしょうかいするよ。」

と唐突に告げられたのが昨日のこと。そして今は、ドスの帽子の中。 
ふらんは、胸がどくん、どくんと高鳴るのを感じていた。 
希望と不安がないまぜになった感情を、ひたすら押さえつけ、平静を保とうとする。 
そして、ついにその時はきた。 
集会所に群れのみんなを集めたドスが、ふらんを紹介する。

「それじゃあみんな、あたらしいなかまをしょうかいするよ!」 
「ゆー!どんなゆっくりなのかな?」 
「たのしみなんだぜ!」 
「どすのしょうかいよ!とかいはにきまってるわ!」 
「それじゃあ、でてきてね!」 
「…う、うー。みんな、よろしく。」 
「「「ふ、ふらんだぁああああああ!!!」」」

当然と言えば当然の反応である。ふらんを見た通常種は例外なくこの反応を示すだろう。 
今までふらんが捕食してきたゆっくり達もそうであった。 
また、ドスはふらんに教えていないが、この群れは過去にふらんの襲撃を受けたことがある。 
そのことも相まって、群れのふらんへの恐怖は凄まじいものがあった。 
しかし、ふらんも予想通りとはいえ、さすがに少しショックを受けている。

「どすぅ!たすけてぇええええ!」 
「はやく!ふらんをころしてぇ!とかいはじゃないわあああ!」 
「わからないよー!わからないよー!」 
「すぅ…みんな!!!おちついてね!!!」

ドスの鶴の一声で静まり返る一同。捕食種を目にし混乱した通常種を従えるあたり、 
このドスの力量、カリスマ性がうかがえる。

「このふらんは、とってもゆっくりしたふらんだよ!」 
「で…でも…」 
「むきゅ…ふらんがわたしたちをおそわないなんて、きいたことがないわ。」 
「そうだわ!そんなとかいはなふらん、みたこともきいたこともないわ。」 
「みたこともきいたこともなくても、いまここにいるんだよ。ゆっくりりかいしてね。」 
「…どす。ここはまりさにちょっとまかせてみてほしいのぜ。」 
「まりさ…わかった。みんなのせっとくはまりさにまかせるよ。 
 それじゃあ、しゅうかいはこれでおわりだよ。またあしたへんじをきかせてね。」 
「わかったんだぜ。」

納得のいかない一同の中から、一匹のまりさがみんなの説得を請け負った。 
このまりさ、なかなか切れ者で口の達者さで言えばドスを上回ることもある。 
正式に決められたわけではないが、実質この群れのNo.2として群れでは認識されていた。 
そしてあの混乱の中、このまりさだけ冷静なのをドスは見ていた。 
このまりさに任せておけば大丈夫。ドスはそう信じ、いったん集会をお開きにしたのだ。

そして、ドスの洞窟。

「どす…やっぱり、わたしがここにいちゃいけないのかな…」 
「そんなことないよ!みんなふらんのことをよくしらないからこわがってるんだよ!」 
「だと…いいけど…」 
「それにあのまりさはあたまがいいからね!きっとあしたにはみんななっとくしてるよ!」 
「うん…そう…しんじたいな。」 
「だいじょうぶ!どすのむれのみんなだよ!」 
「そう…だね!うん!わたしはみんなをしんじてみる!」

ドスの献身的な介護により、すっかり体調は回復したふらん。 
なによりも最大の成果は、ふらんがすっかり心を開いたということだ。 
元からそういう気質があったのか、虐待による心因変化が原因か、それはわからないが 
このふらんの気質を見抜いたドスはさすがという他ない。

次の日…再び集会所

「それじゃあ、みんなのいけんをきかせてね!」 
「じゃあまりさがだいひょうでいわせてもらうぜ! 
 みんな、ふらんをむれにいれてもいい、っていうことできまったんだぜ!」 
「ありがとう!みんな!よかったね、ふらん!」 
「ほんとうにわたしがここにいてもいいの…?」 
「そうだぜ!むれのみんなもいいっていってるんだから、むねをはるんだぜ!」 
「とかいはなふらんなら、このむれにふさわしいわ!」 
「わかるよー!ふらんはゆっくりできるんだねー。」 
「いごおみしりおきを!みょん。」 
「あ、ありがとう。これから…よろしくね!」 
「よし、これでこのはなしはおしまいだよ!それじゃあみんな…ゆっくりしていってね!!!」 
「「「ゆっくりしていってね!!!」」」

群れでの議論が終わったとき、この挨拶をするのが群れの習わしであった。 
当然その中に、ふらんも含まれていた。 
ふらんは、人生初の「群れに属する」という体験に胸の高鳴りを抑えられずにいた。 
こうして、ふらんの群れでの生活が幕を開けた。


群れでのふらんの働きは目覚ましいものがあった。

「ゆー!ふらん!あのくだものをたのむのぜ!」 
「まかせて!」 『ひゅー、ぽとん』 
「さすがふらんだぜ!」

空を飛べるため、普通なら届かないような位置にある食べ物も確保でき、

「むきゅ、これは…どうすればいいのかしら。」 
「これはねこう…すればいいんじゃないかな。」 
「あ、ありがとうふらん。さすがね…」

その知能で、群れに様々な知恵をもたらし、

「うー、あまあまがいっぱいあるんだどぉ~。」 
「「「れ、れみりゃだぁああああ!」」」 
「あまあまにげるなだどぉ~。れみぃがたべて『バシッ』うー…?いたいんだどぉ~?」 
「なにをしてるの…?」 
「ふ…ふらんだどぉ~!?どうしてここにいるんだどぉ!?」 
「うー!うせろ!」 『ガブゥ!』 
「い、いだいんだどぉ!もういやなんだどぉ!」 
「ふん…にどとすがたをみせるな!」

戦いにおいては、れみりゃですら圧倒するほどであった。

「ふふ…ふらんはやっぱりゆっくりできるよ…どすはうれしいよ。」

その姿を見て、ドスの目に涙が光る。 
ドスにとって、ふらんはもう娘のような存在であった。 
ふらんも未だドスを母親のように慕い続けている。 
その絆は、フランがドスの洞窟から出、群れの空き家に住むようになった今も 
途絶えることはなかった。

「それじゃあみんな、きょうはばいばいだよ!ゆっくりしていってね!」 
「「「ゆっくりしていってね!」」」

日もやや傾き始めたころ、群れの一日は終わる。 
ドスは洞窟へと戻ってゆき、群れの一員たちは早々に家に戻ったり、世間話に花を咲かせたりと 
様々に行動していた。一日の仕事を終えた後の解放感は、人間もゆっくりも同じなのであろう。 
しかし、ふらんが群れに来てからはその行動は変わっていた。

「ゆっへっへ。それじゃあきょうも、ゆっくりさせてもらうのぜ。」 
「ふん!あいかわらずきたないおうちね!ぜんぜんとかいじゃないわ…」 
「こんなゆっくりできないふらんがむれにはいるなんて、どすもどうかしてるよ!」 
「うー…でていってよ…」 
「ゆぁあ~ん?きこえないのぜ?」 
「でていってよ、っていってるの…」 
「なまいきいうんじゃないのぜ!だれのおかげでこのむれにいれてもらえたとおもっているのぜ!?」 
「ぴゃぴゃのおんをわしゅれたげしゅはしゃっしゃとしぬのじぇ!」

一日が終わった後は、こうしてふらんの巣に押しかけ、みんなでふらんを虐めるのが日課になっていた。

「ふん!ざこどれいがなまいきに…せいっさいなのぜ!」 『ドムッ』 
「う…ぐ…」 
「どれいのからだはまずいけど、しかたなくれいむがたべてあげるよ!」 『ぶちっ』 
「あうっ!」 
「む~しゃむ~しゃ…し、しあわせぇええええ!」 「ぶちぶちぶちっ」 
「あぐぅうう!」 
「れいむ、そのへんにしとくのぜ。しなれたらあしたからどれいがいなくなるのぜ。」 
「ゆふふ、ゆっくりりかいしたよ!どれいはすぐからだがなおるからべんりだね!」 
「まったく、れいむはとかいはじゃないわね…いい?こうするのよ?」 『ズブッ…』 
「ぐぅ゛…」 
「あらあらがまんづよいのね?きのえだにこんなにぶすぶすされてさけばないなんて。」 『ズズズ…』 
「う、うぅううー…!」 
「ゆぅ~ん?いたければさけんでもいいのぜぇ?どすがすぐにきてくれるのぜ? 
 そうしたら、どうしてこんなことするのぉぉ~ってなきながらまりさたちをおこるのぜ?」 
「!!!」 
「ゆへへ…。どれいはそうしてだまっていればいいのぜ。」 
「ぴゃぴゃちゅっよ~い!」 
「ゆへへ、おちびもしょうらいはおとうさんみたいにつよいゆっくりになるのぜ?」

こうしてふらんの日常は以前と同じようになっていた。 
ただ一つ、男につかまっていた時と違うことがある。ドスの存在だ。 
ドスに心配をかけたくない。ドスに迷惑をかけたくない。明日もドスの笑顔が見たい。 
それだけがふらんの心の支えであり、また、反撃もせず耐え忍ばざるをえない枷となっていた。

「…」 
「なんなのぜ、そのめはぁ?くやしかったらこうげきしてくるのぜ。」 
「そうしたらおおきなこえでさけんであげるわ…どすぅ、た・す・け・て~ってね」 
「ゆふふ、あのおひとよしのどすは、きっとかなしむよね!」 
「…」 『ギリッ』 
「ふん、そろそろねむくなってきたのぜ。くそどれいいじめはまたあしたにするのぜ。」 
「それじゃあ、どれいがれいむたちのためにあつめたごはんをむ~しゃむ~しゃしていこうね!」 
「や、やめ…それはわたしの…」 
「どすぅ~ふらんがいじめるのぜぇ~」 
「くぅ…」 
「げらげらげら!くちほどにもないのぜ!」 
「はむっはふはふっ!うっめ!めっちゃこれうっめ!」 
「どれいにはもったいないわぁあ!うっめぇ!」 
「どれいがやくにたつといったらこれくらいしかないのぜ!うっめぇ!ぱねぇ!」 
「くっちゃ…はふっ…うっみぇえ!」

あっというまにふらんのあつめた食料を平らげるまりさ達。この出来事はすべてNo.2まりさの策略である。 
ドスに進言し、ふらんを群れの空き家に住まわせ、ドスの目から引き離す。 
そうしてふらんでストレスを解消し、食料も食べられて一石二鳥というわけだ。 
ちなみにこの虐めは、No.2まりさに率いられ、ドス以外の群れ全員が参加していた。 
こうして率先して抵抗できないふらんを虐げることにより、No.2まりさの威光は高まる。 
じつは、ひそかに長の座を狙っており、そのための準備を着々と進めていたのだ。

「ふぅ…おなかいっぱいなんだぜ…」 
「おなかいっぱいになったら…」 
「ええ…そうね…」 
「「「すっきりー!」」」 『もるんっ』 
「ふぅ、といれにしてはきたなすぎるけど、しかたないのぜ。」 
「どれいはちゃんとあしたもごはんをよういしておくんだよ!」 
「にゃんにゃらうんうんたべちぇもいいんだじぇ?ゆぷぷぷ!」

ふらんの食事を平らげ、最後にうんうんをして出ていく。 
ふらんは、うんうんの臭さに顔をしかめながら、じっと耐えていた。 
虐められたといっても、男の虐待ほどではない。この程度の傷は一時間もあれば再生するのだ。 
もっとも、ふらんですっきりしようとしたり、次の日までに再生できないようなけがを負わせようとした場合は 
しっかりとNo.2まりさが止めに入る。できるだけ証拠を残したくないからだ。

「うー…」

傷も癒えたふらんが、うんうんをくわえ、巣の外に出す。 
そして、羽を広げ、夜の森に飛び出していった。食料を再度確保するためだ。 
日中は群れのみんなのために働き、それが終わればいじめを受け、夜に食料を確保し、そして深夜に就寝。 
これが今のふらんの生活サイクル。 
もともと夜行性であるフランに日中の活動は厳しいが、夜に休めれば問題ないであろう。 
が、今ではそんなことは許されない。フランの心身は、日に日に衰弱していった。 
それでも、ドスの前では

「どす!きょうもふらんはげんきだよ!やさしいみんなのいるむれにいれてくれてありがとう!」

と精一杯の強がりを見せるのであったが、ある日ついにその出来事は起きてしまった。 
ふらんが、群れから姿を消したのだ。


その日もドスは、群れのみんなと狩りにいそしんでいた。 
しかし、ふらんがいないことにすぐに気が付いた。誰もふらんの名を口にしなかったためである。 
ふらんは狩りにおいては引っ張りだこであり、あちこちでふらんの名が飛び交うのが日常だったからだ。 
心配になってドスは、ふらんの巣を覗き込むが、中には誰もいない。となれば、たどり着く答えは一つだけだった。

「みんな、ふらんがいなくなっちゃったよ!?だれかふらんをしらない!?」

緊急集会を開き、全員に呼びかけるドス。それに対する反応はとてもわかりやすいものであった。

「ふらんはもうずっとみてないよ!うそじゃないよ!ほんとうだよ!」 
「む、むきゅ!こんなことであつまらないで、はやくかりにもどりましょう!」 
「し、しらないよー!たぶんふらんにもかんがえがあるんだよー!」

全員が全員しどろもどろで、目線をあちこちにやりながらの答えに、ゆっくりなら騙されるかもしれないが、 
ドスにとってはその違和感は一目瞭然。 
、 
「みんな、うそをついてるのがばればれだよ!はやくほんとうのことをいってね!」 
「はぁ~…どす、まりさがせつめいするのぜ。」 
「ゆゅっ!はやくせつめいしてね!」 
「あのふらんはとってもゆっくりしてなかったのぜ…だからまいにちむれのみんなでせいっさいしてたのぜ。 
 おおかたせいっさいされるのがいやになってむれからでていった、ってとことなのぜ。」 
「ど、どぼじでそんなごどずるのぉおおおお!ふらんのどごがゆっぐりじでながっだのぉお!?」 
「んなもんしらないのぜ。まりさがゆっくりしてないといえばゆっくりしてないのぜ。りかいしてほしいのぜ。」

まりさの回答から、ふらんは何も悪いことをしていない、ということは一瞬で理解できた。 
ドスは自責の念に苛まれた。 
どうしてふらんの力になってやれなかった。 
どうして相談してくれなかった。 
思い返せば、ふらんの顔は少しやつれていたが、日中の生活にまだ慣れていないだけだと思っていた。 
それにふらんはとても優しいから、虐められていてもドスのためを思って何も言えなかったのだろう。 
ドスはただ虐めに耐え続けたふらんの強さ、優しさを称えるとともに、己の無力を呪った。 
しかし、すぐにそんな考えは払拭した。 
今目の前にある事実、それは何も悪くないふらんがいなくなってしまったこと。ならば、どうすればいいのか。 
ドスがその解答を導き出すのに、時間はかからなかった。

「みんな、いまからふらんをさがしにいくよ!みんなもきょうりょくしてね! 
 そしてふらんをみつけたらみんなふらんにあやまってね!わるいのはみんなだよ!」

それに対する答えは、とても残酷なものであった。

「いやなのぜ!」 
「ゆ、ゆゆっ!?」 
「なんでまりさたちがそんなことをしないといけないのぜ。だいたいふらんのくせにむれにはいるなんておかしいのぜ。 
 そこにいることじたいがふらんのつみなのぜ!」 
「「「そうだそうだ!」」」 
「ゆぅ~!みんながわるいんだよ!みんな、かりのときはあんなにふらんにたすけてもらってたよね!?」 
「それは、どれいとしてあたりまえのやくめなのぜ!どすはなにをいってるのぜ!?」 
「ど、どれい…みんな、ふらんをそんなふうに…」

ドスはさらに絶望した。あのふらんをそんな風に見ていたとは… 
もういい、と諦めてひとりでふらんを探しに行こうとしたが、その願いはかなわなかった。

「はんっ…みんな!ゆっくりきくのぜ!」 
「「「ゆゅ!?」」」 
「まりさ、いったいなにを…」 
「どすはあのふらんよりよわいのぜ!そのしょうこにふらんがこわいから、 
 ふらんをさがしにいこうとかいいだしたのぜ!」 
「そ、そんなわけないでしょぉおおお!?ふらんはどすのかわいい…」 
「ざこのどすはだまるのぜ!それにひきかえ、まりさはいっつもあのふらんをせいっさいできてたのぜ!? 
 みんなもまりさのおかげでいっしょにあのふらんをせいっさいして、ごはんをたべてゆっくりできたのぜ!?」 
「「「ゆぉおおおー!」」」 
「どすとまりさ、どっちのほうがゆっくりできるか、もうみんなはわかってるはずなのぜ! 
 ゆっくりできないどすを…みんなでせいっさいするのぜ!」 
「「「せいっさいするよ!」」」

しまった。してやられた、とドスはここにきてまりさの野望を知ることになる。 
戦えばドスの圧勝なのだが、このドスは、良い意味でも悪い意味でも、最もドスらしかった。 
自分に反旗を翻したゆっくりといえども、ほとんどのゆっくりは 
ひと時の感情でまりさに煽動されているだけだ。殺すことはしたくない。 
No.2まりさはドスのその性格を理解しており、そこに付け入る気満々だった。 
戦わずに済ませようとする側と、戦いのみで解決しようとする側、いかに両者に力の差があろうと、 
勝敗は火を見るより明らかであろう。

「さぁ、そのざこをかこむのぜ!」 
「やめてね!やめてね!ゆっくりできないよ!」 
「もうそいつはおさでもなんでもないのぜ!みんなでむ~しゃむ~しゃしてやるのぜ!」 
「「「ゆ…ゆっくりりかいしたよ!」」」 
「ま、まりさ…!もうおこったよ!」 
「ゆぁあん?ざこはなにをいってるのぜ?くやしかったらどすすぱーくでまりさといっしょにみんなをころすなり、 
 ぷちぷちとみんなをつぶしながらまりさのところまでくるといいのぜぇ?そしたらいっきうちしてやってもいいのぜ?」 
「ぐぅう…!まりさあああああ!」 
「はぁ…みんなぺーすがおそいのぜ!なにをこわがってるのぜ! 
 そのざこはなにもしてこないから、なんならおちびちゃんにもたべさせてやるといいのぜ!」 
「い、いだいっ!みんな…やめでね!」 
。 
No.2まりさはドスの舌も届かないようなところにおり、一切の攻撃はできない。 
攻撃しようにも、ドスの足元360度いたるところにゆっくりがおり、動けば潰してしまう。 
このドスは、本当に慈母と形容するに相応しいだろう。 
自分を殺そうとしているゆっくりたちを殺したくないために、無抵抗で必死でみんなを説得しようとしているのだから。 
やがて、ドスの皮は破られ、少しずつ中の餡子がむき出しになっていく。

「うっめぇ!これめっちゃうっめ!」 『ブチブチ』 
「む~しゃむ~しゃしあわせぇえええ!」 『ガツガツ』 
「ゆひぃいいい!いだいよぉおお!」 
「げらげらげら!ざこがまりさにさからうからこうなるのぜ!これからはまりさがおさなのぜ!」 
「みんなっ!どすをたべないでね!だめだよ!どすしんじゃうよ!」 
「うるさいわね!いなかもののざこはだまりなさい!」 『もっちゃもっちゃ』 
「あみゃあみゃがしゃべるにゃあ~!」 『モグモグ』 
「たべもののくせにうるさいみょん!すこししずかにしてるみょん!」 『ゾブッ!』 
「ぞ…ぞんなぁ…ゆぐっ!」

周りから、少しずつドスの餡子を食べるゆっくり達。 
お腹がいっぱいになったら、後ろと交代し、少し離れたところに多めにうんうんやしーしーをしに行く。 
そして多量の排泄によって減ったお腹を、またドスを食べることでいっぱいにする。 
これにより、ドスは少しずつ、少しずつ、今まで愛した群れのみんなに食べられるという地獄を味わい続けた。 
やがて、最期の時は訪れた。

「ゆ…ひ…みんな…やめて…ね…」 
「みんな!そのへんにしとくのぜ!」 
「まり…さ…はやく…ふらんを…さがして…」 
「とどめはつぎのおさであるまりさがきめるのぜ!」 
「ぎゃんばれぇ~ぴゃぴゃあ!」 
「そ…そんな…!」

この期に及んでもまだふらんのことを気遣うドス。絶対に群れのみんながフランを探すことなどありえないのだが、 
それでも群れを信じようとしたのはただ愚かなだけか、はたまたドスの宿命か。 
ドスは体の下半分を食べつくされており、ゆっくりの口が届く範囲全ては皮がなく、餡子がむき出しになっていた。 
そんなドスの体に、穴を掘る要領で侵入してゆくまりさ。

「ゆ~ゆゆ~ん♪おさになるのは~♪ゆっくりできるのぜ~♪」 
「ゆがっ!ゆがぎゃぁあ!い、いだいよぉおお!やめでねえええええ!」 
「ゆゆ~ん♪まりさはさいっきょう~♪…ゆゆ!あったのぜ!」

鼻歌を歌いながらドスを掘り進めるまりさの目の前に、それは現れた。 
ドスの中枢餡である。

「それじゃあ、えいえんにゆっくりしていってね!」 『ガブリ!』 
「ゆっぎゃ…もっど…ゆっぐり…しだかっだ…」 
「し、し、し、しあわせぇええええええ!」

ドスの中枢餡ともなれば、人間でも滅多に食べられない極上の甘味だ。 
そのえもいわれぬ至高の美味に、まりさはドスの体内で幸せを叫んだ。 
そして、死んでしまったドスの体内からまりさが顔を出した時、群れは大歓声に包まれた。 
ゆっくりできない先代長を倒した英雄の帰還。そしてゆっくりできる新長の誕生にである。


「うー…これからどうしようかな…」

一方ふらんは、当てもなくふよふよと飛び回っていた。 
久々にゆっくり狩りでもしようかとは思ったが、ドスのことを思うと、どうしても通常種を食べようとは思えなかった。 
それに、最近は草や虫の食事にも慣れ、べつに甘味でなくとも問題なく食べられるようになっていた。

「もういいや。わたしはしずかにいきていこう…」

そう決めたふらんの耳に、ゆっくりの声が飛び込んでくる。何事か、と耳を傾けると…

「ちょっとまずいんだぜ。となりむらのおさがやられるなんて…」 
「ゆう…こわいよぉ。」 
「おとなりのれいむがたまたまみたっていってたよー。。」 
「あのおさはすこしやさしすぎたから。とかいはなおさだったけど…」 
「むきゅ。なんにせよとなりむらはぜんいんげすになってしまったとみていいわ。」 
「となると…このむらをおそうかもしれないみょん。」

よくあるゆっくり達の井戸端会議だったが、問題なのはその内容だった。 
隣村の長…?いや、まさか…信じたくはないが…

「ちょっと。」

思わず姿を現すふらん。反応は当然…

「「「ふ、ふらんだぁああああ!!!」」」

逃げ惑うゆっくり達。しかしふらんは冷静に、一番知能が高く、そして一番遅いぱちゅりーに狙いを定めた。

「むぎゅうう!じにだくないいいい!」 
「ぱぱぱ、ぱちゅりーをはなすみょん!」 
「た、たたかいもじさないんだぜ!」 
「だめぇえええ!みんなにげでえええええ!」 
「…ふぅ。おまえたちがさっきのはなしについておしえてほしいだけ。ころさないよ…」

久々の反応に、少しだけ胸がちくりとしたふらん。だが、これが当たり前なのだと自分に言い聞かせた。 
そして、冷静にぱちゅりーを問いただす。

「さっきのとなりむらのおさのはなし…きかせて。」 
「む、むぎゅ?ほんとうにたすけてくれるの?」 
「はやくいえ。」 
「は、はぃいいいい!」

そこでふらんはぱちゅりーをはじめとする一同に、話を聞き出した。 
隣村で反乱がおこった事。その反乱で、長だったドスが死んだこと。首謀者はまりさということ。 
そのドスは、一切抵抗せずに、少しずつ食べられていって死んだこと… 
少しずつだが、ふらんの中で不安が大きくなる。いや、心のどこかでは確信していたが信じたくなかった。

「…それで、そのむらはどっちの…ほうがく?」 
「むきゅう…あっちです…」

ぱちゅりーが示した方向。それはまさしく自分が昨日抜け出した群れのある方角だった。 
その方角に、ドスのいる群れは一つしかない、ということも聞いた。

「うー…そん…な…」 『ぽとり』 
「むきゃっ。い、いたい…」 
「もういい、はやくいって…」

ふらんは絶望した。 
どうしてひと時の感情に任せて群れを出てしまった。 
どうしてドスに相談しなかった。 
思い返せば、脳裏によぎるドスの笑顔。もう見ることはかなわないその笑顔。 
ドスならきっと、相談すればフランを信じ、力になってくれただろう。それなのに勝手に自分を追い込んで… 
ふらんは、群れの攻撃に一切抵抗しなかったというドスの強さ、優しさを称えるとともに、己の愚かさに泣いた。 
しかし、すぐにそんな考えは払拭した。 
今目の前にある事実、あの忌々しいまりさによって、ドスが殺されてしまったこと。ならば、どうすればいいのか。 
ふらんがその解答を導き出すのに、時間はかからなかった。

「うー…『ぷす』いたっ…」 
「ゆ、ゆへへへ。なにをよそみしてるのぜ?」 
「ぱちゅりーをころそうとしたげすはせいっさいみょん!」 
「むきゅー!やっちゃいなさい!みょん!まりさ!」

思索に沈み、動かなくなったふらんに攻撃を仕掛けるゆっくり達。 
ふらんは思う。あぁ、なぜ、私はこんなのに嫌われただけで少しだけでも悲しくなったのか… 
ふらんは気づく。自分と通常種は相いれないものなんだと… 
そして、思い出す。自分は何なのか…そう…

捕食種だ。


「ゆへへへ…とどめといくのぜ!」 
「かくごする…みょ…?」 
「……」 『ジロリ』 
「ゆ…!?ゆひゃぁああああ…」

その場にいたものは全員、ふらんの目を見てすくんでしまった。 
次の瞬間。ふらん以外その場に動く者はいなくなっていた。 
「怒り」では表現しきれない炎を煌々と湛えるその目は、もはやゆっくりと呼べるのかどうか…


「ゆへへへ…さぁみんな、あたらしいおさのたんじょうをいわうのぜ!」 
「「「ゆわぁーい!」」」

一方こちらでは、新長の誕生を祝い、宴が開かれていた。 
ドスの餡子を食料にし、誰もが例外なく、意地汚く餡子をむさぼる。 
これほど醜い宴は、ゆっくりの世界でしか開かれないだろう。

「ゆぷぷ!こんなざこがおさをしていたらゆっくりできなくなるとこだったよ!」 
「まったくよ!ただあまっちょろいだけでぜんぜんとかいはなおさじゃなかったわ!」 
「ゆへへ!そのとおりなのぜ!これからはこのまりさがおさになるんだから、ゆっくりできてあたりまえなのぜ!」 
「これからどうするの?おさ?」 
「まだきめてないのぜ。でもまりさたちはどすよりもつよいんだから、 
 ほかのむらにいってたべものやおうちをありったけけんじょうさせるのもいいのぜ!」 
「むきゅう!ぱちゅたちがまけるはずないものね!むきゃきゃ!」

今までの恩も忘れ、言いたい放題のゆっくりたち。 
こんな饅頭達に、恩など期待するほうがどうかしているのだが…

「そういえば、ふらんをさがさないといけないのぜ。」 
「ゆぅ?なんで?」 
「なかなかつかえるどれいだからだぜ。それにどすはもういないから、いじめたいほうだいなのぜ! 
 つれもどしたらまたどれいとして、こきつかったり、いためつけるのぜ!」 
「んほぉおお!ありすはあのふらんとすっきりしたいわぁああ!」 
「ゆへへ…それもいいのぜ!」 
「どりぇいにはおにあいなんだじぇ!」

そんなことを言っている群れのまえに、お目当てのものは現れた。

「…どす…こんなことって…」 
「ゆぅ?…あれは…」 
「おさ!どれいがかえってきたんだよー!」

そう、ふらんだ。

「ゆぁあ?ようやくどれいのおかえりなのぜ?」 
「おまえたち…どうしてこんなことを…?」 
「おまえ?だれにくちをきいているのぜぇ?」 
「そのざこは、とかいはじゃないからみんなでせいっさいしただけよ!」 
「むきゃきゃ、いまごろあのよでぱちゅたちにないてあやまっているころね!」 
「まったく、ずうたいだけでかくてあんまりおいしくなかったよ!れいむおこるよ!」 
「あみゃあみゃうっみぇ!まじぱにぇっ!」 
「そうか…わかった。」 
「んほぉ!どれいはさっさとあたらしいおさにたべものをけんじょうするのよ! 
 そしたらすっきりーしてやるからまむまむをこっちにむけなさぁい!」 
「…しねっ!」 『ボシュン』 
「あ、ありすぅううううう!」

一瞬で物言わぬ饅頭と化すありす。

「む、むきゅう!どれいがなにをちょうしにのって…!みんな!せいっさいするわよ!」 
「ゆ、ゆへへ!いいのぜ!?いうのぜ!どすにいうのぜ!たすけてーって…」 
「ふふふ、ふふ…そのどすは、おまえたちがころしたんじゃなかったの…?」 
「ゆ?ゆ?ゆ?…ゆ、ゆわぁああああああ!」

どうしてここまで思い上ることができるのか。ゆっくり達の精神構造は誠に不可思議である。 
さらに、自分達で殺したドスを抑止力に使おうという頭の悪さ。 
ふらんは、こんな愚か者どもに殺されたドスを心から偲んだ。

「あは、あはははは!おまえたちぜんいん…みなごろしだよ!」

狂ったように笑うふらんのその言葉を皮切りに、殺戮が始まった。

「おまえは、ここで、みていてね…」 『ズブブブッ』 
「ゆ、ゆっひいぃいいん!いだいんだぇえええ!」

木の枝に長まりさを突き刺す。まるでモズのはやにえのようだ。 
生きたまま、自分が長となった群れの壊滅を見せるためである。 
しかし、英雄がいとも簡単にやられた群れは、戦意を失っていた。 
これでは面白くないし、なにより逃げる者も出てくる。皆殺しを決めたふらんにとってそれは絶対に嫌だった。

「あぁでも、あのつよいどすをやっつけちゃったみんなに、わたしなんかかてるわけないよね。」

満面の笑みで言っても、説得力など皆無だが、ゆっくりをだますには十分だ。

「ゆ?そ、そうだよ!れいむたちはどすにもかてるくらいつよいんだよ!」 
「そうよ!ぱちゅのさくせんがあれば、しゅんさつできるにきまってる!」 
「よくかんがえれば、みょんたちがまけるりゆうはどこにもみあたらないみょん!」

この通りだ。後は簡単。適当に群れの上空を飛び回って、愚か者どもが集まるのを待つだけだ。

「そろそろだね。あは、あはは、みんな、おまたせぇ。」 
「みょみょお!ひきょうもの!おりて『ボン』…!」

一瞬でみょんの体の半分以上を食いちぎり、息の根を止める。 
だが、食べはしない。ただ殺して、捨てるだけだ。 
こんなゲスどもの餡子を取り込むつもりは、最初からふらんにはなかった。

「みょ、みょんがやられ『ボシュ』」 
「ゆぁあああん!こわ『バグン』」 
「ど、どこにいったの!?このいなかも『ブチィ』」

この群れは、決して敵に回してはいけない相手の、決して手を出してはいけない大切なものを壊したのだ。 
食べることではなく、殺すことにのみ重きを置いたふらんの動きは、所詮通常種では反応できない。 
捕食種が捕食することを捨て、持てる全てを相手を殺すことに捧げた結果である。 
圧倒的な暴力の風の前に、群れはただ無情にその命を吹き飛ばされていった。

「ゆぅうう…まりさの…むれが…」

どのくらい時間が経っただろうか。辺りはすっかり暗くなり、この場で生きているのは3匹だけとなった。 
枝に刺さったまりさと、ふらんと…

「ゆやぁあああああん!ぴゃぴゃあ!たすけちぇえええ!」 
「お、おちびー!」

長まりさの子の赤まりさだ。今はふらんの口にくわえられ、ぐねぐねとみじめったらしく動いている。

「や、やめるのぜ!おちびをはなすのぜ!このげす!」 
「おまえは…どすがやめてっていって、やめたの…?あはは、ははははは。」 
「あんなざこのいうことなんかきくわけないのぜ!おちびとくらべるんじゃないのぜっ!」 
「あはははは!そういうとおもったよぉ?だから…わたしもやめないっ!」 
「ゆんやぁああああ!いぢゃいいいい!」

暗い中でも長まりさが赤まりさの最期を見れるように、目いっぱい近づくふらん。 
そして、口を、長い長い時間をかけて、少しずつ閉じてゆく。

「お、おちびぃ!」 
「ぴゃぴゃあ!しにちゃくにゃいよぉおおお!」 
「や、やめでくだざいいいい!あやまりまずがらぁ!ふらんざまのどれいになりまずがらぁ!」 
「へぇ~どれいかぁ~…」 
「ぞ、ぞうでずううう!だからおちびだけはぁあああ!」 
「ゆ…ちゅぶ…れ…りゅ…」

少しだけ考え込むふらん。そして、満面の笑みで言い放った。

「だーめ♪あっははは!」 『ブリュリュッ』

ふらんは思いっきり口を閉じ、最期の言葉も言えず赤まりさは潰れた。

「ゆぁあああああああああ!」 
「ちょっとはどすのきもちがわかったかな?わたしのきもちがわかったかな?」 
「よぐもおぢびをだべだなぁああ!ごろず!ごろじでやるううううう!」 
「うー?たべる?なにをいってるの?」 『ぺっ。べちゃっ』 
「ゆ、ゆぁあ?」

長まりさの顔に生暖かく、甘い臭いを放つ何かがついた。 
考えたくもなかったが、この状況でふらんの口から出てくる甘味と言えば、一つしかなかった。

「そんなごみみたいにまずいの、たべるわけないでしょ?おもいあがらないでよ。」 
「ゆ…おぢび…ぞんな…」 
「さぁて…あとはおまえだけだよ。」 
「ゆ…ゆひぃいい…おねがい、だずげでぇええ!」

完全にまりさの心は折れた。

「ごみそうじってのも、なかなかたのしかったよ!ふふふ…」 
「いやじゃああああ!なんでごんなごどになるのぉおおお!?」 
「うー!」 『ブチっ!』 
「いじゃいいいいい!」 
「うっうー!」 『ブチブチブチ!』

他とは違い、長まりさだけは実に時間をかけて少しずつ体を毟られていった。 
もちろん、食べることなどしない。 
まりさの刺さっている木の根元には、まりさの体だったものがゴミ捨て場のように積もっていた。

「ゆ、ゆひ…」 
「そろそろあきちゃった。さよならしようか。」 
「い、いやじゃあぁ…ごべんなざぃ…たすけちぇええ…」 
「いまごろあやまっても、もうおそいんだよ…」

ふらんの目が、妖しく輝く。その目は、狂気を孕みながらも一点の曇りもなく澄み渡っていた。


「おまえもわたしも、もうこんてぃにゅーできないのさ!」 『ガフッ!』


とどめの一撃は、的確に中枢餡を半分ほど抉りとる。苦しみの中で逝かせるためだ。

「ゆ、ゆ、ゆ、ゆ、ゆ、ゆ、ゆ…もっぢょ…ゆっぎゅり…しだ…」

ふらんの思惑通り、苦痛の中で長まりさは息絶えた。

「……おわったよ。どす。みててくれた…?」

事をなし終えたふらんは、ドスの亡骸に目をやる。 
体の下半分は食べられてしまい、何より苦痛と絶望で満たされたその目が異形さを際立たせていた。

「これで、よかったのかな…」

そういいながら、そっとドスのまぶたを閉じてやる。 
ふらんの顔は、かつてドスと洞窟で暮らしていた時のように、穏やかなものであった。

「よくないよね…あんなのでも、どすにとってはたいせつなみんなだったんだから…」

ぽろり、ぽろり、と涙があふれる。 
この涙は、なんだろうか。ふらんは考える。 
男に虐待されていた時も、母やドスと過ごしていた時も、こんな涙を流したことはなかった。 
ついにふらんはその答えを、その記憶を、手繰り寄せることはできなかった。

「どす…わたしには、わからないよ。」

とめどなく流れる涙をぺ~ろぺ~ろしてくれるドスは、もういない。 
ふらんはうつむいて、ただただ泣き続けた。 
やがて、涙も出なくなった頃。ふらんは顔をあげた。

「どす…わたし、もういくね。」

準備運動のように羽をパタパタとさせた後、地面から少しだけ飛ぶ。 
そして、ドスの亡骸の周りをくるりと1周した後、ふらんは天高く舞い上がる。 
ふらんのその様子は、まるでドスに「ドスのおかげで私はこんなに元気になれたよ」と見せているかのようだった。

「おやすみ…どす。」

そしてふらんは夜の森に舞う。泣き腫らし、さらに紅さを増した目を輝かせながら。 
ふと…空を見上げる。空には大きな満月が浮かんでいた。優しい月の光は、全ての者に平等に降り注ぐ。 
ふらんはその満月の中に、ドスの顔をたしかに見た。その顔は、娘の門出を祝うかのように、笑っていた。

夜の森に、紅い紅い宝石が二つ。

それは、月光を受け、さらに妖しく輝きを増す。

宝石が放つ光は、どこへ向かうのか…



【おわり】