ここは、いつも賑やかなとある街。 
しかし、今日はいつもと違っていることがある。

ある小学校の校庭。いつもは子供達が遊び、笑う場である。しかし今日は日曜日。 
平日とはうって変わって静かな場所であるはずなのだが、今日はとてもやかましかった。

校庭の外には野次馬が集まり、一様に写メなどで校庭内のもの珍しい光景を撮ろうとしている。



だが、やがて駆けつけた警察により、安全のため一般人は遠ざけられてしまう。 
かといって、警察もうかつに手は出せない。校庭内の出来事に関しては警察の本分ではないからだ。

今、校庭は森から来たゆっくりによって、拠点として占拠されていた。 
なぜ、ゆっくり如きが森から街中の小学校までたどり着けたか。 
その理由は、正門から見て一番奥にいるゆっくり、大きさ3、4mはあろうドスまりさの存在にあった。 
ドスが先陣を切ることにより、一般人どころか警察でさえうかつには手を出せなかったのだ。 
なぜこのドスが森から来たのか…

「どすは、すべてのゆっくりのかいほうをようっきゅうするよ! 
 はやくこのまちでいちばんえらいやつをつれてこい!」

とのことである。 
野良ゆっくりは、生物としてすらみなされないこの世界。 
それだけならまだしも、通常種ともなれば無生物を含めた全存在の最底辺に追いやられている。 
これに怒ったドスの凶行といったところだ。

「むぅ、参ったなぁ…」

小学校を包囲している警官のうちの一人がそう呟く。 
本来ならこういう事態は警察の仕事なのだが、いかんせん相手はゆっくり。 
しかもゆっくりの中で数少ない、人間に危害を及ぼせるドスまりさがいる。 
正門の外からちらと中を見ると、校庭の中心に多くのゆっくりによる大きな肌色の塊が形成され、 
それぞれが何か喚きながらうぞうぞと気持ち悪く蠢いている。 
そして一番奥では、ひときわ大きな声でドスまりさが喚き散らしているのが見えた。

森から来たものと、街で合流したものを合わせて2、300といったところか。 
森のものはともかく、街のものは普段は人間を徹底的に恐れている。 
だが普段から人間に一矢報いようとするものも一部おり、ドスがやってきたことでそれらは列に加わったようだ。 
ドスの存在があってなお、列に加わらないものが多くを占めるあたり、人間への恐怖がうかがえる。 
ちなみに、ドスはなぜ街のものの多くがドスについてこないのか不思議ではあったようだが、 
理由を考えることまではしなかった。 
ともかく、ここは警察から要請を受けたゆっくりのプロフェッショナルの到着が待たれるばかりだ。

「やぁやぁ、おまたせしました!」

と、ようやくそのプロフェッショナル、加工所の職員が到着した。自転車で。

「あんたねぇ、自転車って…」 
「いやいや、たまたま僕の家が現場から…一番近くにあったというだけで… 
 それより、一般人に…被害は出ていませんか!?…ゲェッホゲッホ!」

なんだか釈然とはしないが、汗だくでぜぇぜぇ息を切らしているところを見ると、 
急いで駆け付けたというのは一目瞭然である。 
なにより一般人の安全を第一に考えるこの職員に免じて、それ以上の追及はしないことにした。

「被害はないですよ。それに学校内にはもう誰もいません。で、あれが例のドスまりさなんですが…」 
「あーあー!ご心配なく!すぐに駆除しますから!」 
「いや、一人じゃ無理でしょ…対ドス用のものとかも持ってないみたいだし。」

プロが駆け付けたのはいいが、なんとたった一人だったのだ。 
しかもその一人も、ムキムキの屈強な男ならともかく、いたって普通の人に見える。 
むしろ柔和な顔つきに眼鏡という組み合わせのせいか、なんだか弱そうだ。 
職員とわかるものは加工所のマークの入った帽子だけで、あとは私服。 
察するに、非番だが呼び出されたのであろうか。 
駆除用に家から持ってきたであろう得物も、手に持った木刀一本だけのようだ。 
加工所って結構ブラックなんだろうか。

「いや~意外と駆除はお金かかるので…経費節約ですよ。」 
「いやいやいや!駆除なんですからもっと大人数でガーッとやってくださいよ!」 
「う~ん…何か勘違いしているようですねぇ。」 
「は?」 
「まぁいいです。終わった後にお話ししましょう。とにかく、心配無用です!」 
「あ!ちょ、ちょっと!」

そう言うと、職員は今はもう閉じられている正門を無理やりよじ登り、中に入ってしまった。

「マジかよ…勘弁してくれよ…」

はっきり言って不安しかない。警官の率直な感想だった。 
このまま職員がドスにやられても後味が悪いので、後を追うことにした。

「あ、来ないで下さいったら!」 
「不安なんで。」 
「駄目ですって!万が一のことがあったら…」 
「いやいや、警察官として…」

しばらく押し問答が続いたが、警官の勢いに押され、職員は仕方なく首を縦に振った。 
職員の指示には絶対に従う、危なくなったら自分を置いてでも必ず逃げる、という条件付きでだが。 
そして二人はひしめく饅頭達の元に向かった。


「ゆゆっ!やっときたね!こののろま!」

ドスが二人に向かって叫ぶ。

「そりゃ来ますよ。要求はなんですか?」 
「どすは、すべてのゆっくりをかいほうさせるため、にんげんときょーてーをむすびにきたよ!」 
「協定、ですか。どんなです?」

職員の問いかけに答えるドス。 
〝協定〟とは農村などで、ドスをはじめとした野良ゆっくりがよく使う手である。 
人間の手伝いをするから食料を分けてくれ、お互いに不可侵にしよう、などだ。 
頭の良い、分をわきまえた個体ならお互いに利になるような、優れた協定を提示してくるが、 
そうでない個体だと明らかに不平等かつ理不尽な条約を提示してくる。 
故に、条約の内容によってそれを提示した個体の知能、道徳レベル等を推し量ることも可能なのだ。

「ひとつ、にんげんはすべてのゆっくりをころさない! 
 ひとつ、にんげんはすべてのゆっくりにまいにちごはんをあげる! 
 ひとつ、にんげんはすべてのゆっくりのどれいになる! 
 ひとつ、にんげんはかいゆっくりをすっきりどれいとしてどすたちにさしだす! 
 これが、どすのかんがえたさいきょーのきょーてーだよ!」 
「……」 
「にんげんはあたまがわるくてりかいできないのかな?」 
「それで、君達は私達に何をしてくれるんです?」 
「ゆ?なにいってるの?どすのきょーてーがあればみんながゆっくりできるでしょ? 
 なんでどすたちがにんげんになにかしてあげないといけないの?」 
「……」

こういう協定を結ばせようとする個体は、総じて頭が悪いか、悪くなくてもゲス確定だ。 
警官は深いため息をついた。

「ちょっと職員さん。こんなこと言ってますけど。」 
「ふ~む。これだと楽に駆除が終わりそうですねぇ。」 
「え、何か言いました?」 
「あぁ、お構いなく。」 
「とにかく!受け入れられるわけないでしょこんなの! 俺は交渉しますよ!」

そういうと、警官はドスに向かって交渉を始める。

「おい!そんなの協定とは言わねえよ!もうちょい何とかならんのか!?」 
「なにいっでるのぉおおおお!?これでもがまんしでるんだよおお! 
 それにいままでさんざんゆっくりをいじめできたくせにいいい!」 
「いや…たしかに野良ゆっくりは命すらないと言われて散々な扱いを受けてはいるが…」 
「それにもりはこわす!たべものはとっていく!なのにみんながたべものをとったらころす! 
 なにもしてなくてもころす!ゆっくりしてないにんげんがなまいきいわなえでねぇええ!」 
「だからって…」 
「はいはーい、ストップです。」

一人と一つの交渉は職員の一声によって打ち切られた。

「職員さん…何か名案でも?」 
「え?いや、ありませんよ?」 
「じゃあなんであいつにあんなことを聞いたんですか!?」 
「いやぁ頭よさそうなら加工所で研究用にしようかと。」 
「は、はぁあ?でもドスが相手ですよ?」 
「そうですねぇ。」 
「…真面目に答えてくださいよ!ドススパークとか食らえば大怪我ですよ!」 
「いたって真面目ですとも。それはそうと、こいつらはだめですね。 
 じゃあ警官さん、後は僕の指示に従って、とりあえずは僕の後をついてきてくださいね。」 
「人の話を…!」 
「お静かに。」 
「な…」

突然雰囲気の変わった職員に気圧され、思わず黙ってしまう。

「…じゃあ後は、僕の後について来てくださいね。」 
「いや、だから何を『ボグッ!』なぁっ!?」 
「ついて来てくださいね。」 
「ゆぅうう!れ、れいむー!」 
「どぼじでごんなごとずるのぉおお!」

職員は警官の言葉を遮るように、木刀を勢いよく地面に振りおろす。 
とばっちりを食らったれいむはあっというまに永遠にゆっくりした。

「…ふぅ。じゃあ行きますよー。」

そう言うと職員はドスに向かって歩き出す。 
無論、その道中にいる野良ゆっくりは職員によって踏みつぶされていった。 
職員はそこに何もないかのように、足元も見ずに迷うことなく歩を進める。 
警官は男の後をついて、たまに仕方なく野良ゆっくりを潰しながら歩を進めた。 
職員はもちろん、警官も野良ゆっくりを潰すことに特に抵抗はないようだ。

「ゆっがぁあああああ!なにをしてるにんげんんんんん!」 
「警官さん。もしこいつが大きく屈んだら、ジャンプしてくる合図なので 
 横にそれてくださいね。大丈夫。ちゃんと指示は出しますから。」 
「え!?もし潰されたらただでは…」 
「屈んでから飛ぶまでは10秒ほど間があるので十分なんです。 
 いったん飛ぶ準備をしたらもう方向転換も何もできませんしね。」 
「はぁ…」

暢気にそんなことを話しながら、順調に歩を進める二人。それに攻撃を加える野良ゆっくり。 
野良ゆっくり達の怒りはもっぱら職員に向いているようで、警官にはあまり関心がないようだ。 
職員に体当たりをするも跳ね返され、果敢に噛みつくものも多くいたが、 
職員が普通に歩く、その動きだけで餡子の歯茎で支えられた砂糖菓子の歯は耐えられないのであろう、 
根元から歯をもっていかれ、例外なくその痛みに悶え苦しんでいる。

「ころす!いくらかんっだいなどすでももうぜったいにゆるさないよぉお!」 
「じゃあ、ぐだぐだ言ってねえで早く来いや。のろまがよぉ。」 
「しょ、職員さん…?」 
「あぁ、どうもこういう奴らにはそれ相応の口調になってしまいますね。お恥ずかしい。」 
「い、いえ…」 
「ゆぅうう!おのぞみどおりころしてあげるよ!みんな!そこをどいてね!」 
「「「ゆわーい!」」」

ドスの言葉に答え、必死で急いではいるのだろうがのろのろと二人から離れる野良ゆっくり達。

「やっちゃえ!どすう!」 
「もうにんげんなんてこわくないよ!」 
「あ、ほらほら、ちょうどあんな感じで屈むんです。」 
「え、あ、あの…」 
「じゃあ、ついて来てください。」

そう言いながら、トコトコとその場を離れる二人。 
同時に、職員は背負っていたリュックからクッキーを取り出した。 
特殊な加工がされているのか、職員の手の中からでも警官の鼻腔を甘い臭いが刺激する。 
それを、さっきまで二人が立っていた場所に何枚か放り投げた。

「ほれ、あまあまだぞ~。饅頭共集まれ~。」 
「ゆうう!あまあま!あまあまぁあ!」 
「まりさのだぜ!ぜんぶまりさのだぜえ!」 
「わかるよー!にんげんはちぇんたちにこうっふくしたんだねー!」 
「ゆふふ、れいむのいだいさがわかったようだね!」 
「何でもいいから集まれ~。」

二人から離れた時とは段違いのスピードでクッキーに群がる野良ゆっくりたち。 
ドスはというと、グググ、と下を向いて屈んでいるためまるで目の前の状況を見ていない。 
そして…飛んだ。

『ドォン!』

轟音と軽い地響きのあとに、キリッとしたどや顔のドスがそこに立っていた。 
見事にクッキーに群がっていた野良ゆっくりたちを潰して。

「ゆふふ…どすにかかればちょろいもんだよ!」 
「ど、どす!なにをしてるのぉおお!?」 
「なまいきなにんげんをせいっさいしたんだよ…ゆゆゆ!?」

二人に気づき、心底驚いた様子のドス。 
ドスにとっては、二人が瞬間移動したようにしか思えていない。

「なんでにんげんがそこにいるんだぁあ!」 
「まぁまぁ、足元見てみろよ。」 
「ゆ…これは…あま…あま…?」 
「むぎゅうう!どす!なんでみんなをつぶしたの!?」 
「ゆぅうう!どすはそんなことしないよ!」 
「とにかくはやくそこをどいてねぇええええ!」

周りの野良ゆっくり達に急かされ、そこを動くドス。 
ドスが立っていた場所には、無数の餡子と、皮と、お飾りが残されていた。

「こ、これは…?」 
「れいむのまりさがぁああああ!」 
「なんでちぇんをつぶしたのぉおお!?」 
「おぢびぢゃんがぁああ!」 
「「「どすぅううううう!」」」 
「ど、どすはわるくないよ!」 
「はっはっは。いや滑稽ですねぇ。」 
「こ、ここまで単純なんですか…く、くく…」 
「そうですよ。所詮饅頭ですからね。」

盛大なコントを見せられた警官は思わず笑ってしまう。 
ドスは他の野良ゆっくりを鎮めるのに精いっぱいの様子だ。 
と、あの絶望的な状況で何とか鎮静化に成功したようである。

「あれはぜんぶにんげんのせいだったんだよ!どすはみんなをつぶしたりしないよ!」 
「「「ゆっくりりかいしたよ!」」」

なんだか知らないがすべて二人が悪いということで決着したようだ。 
あながち間違いでもないが、深く考えないようにしておこう。

「あー…で、どうするんだよでか饅頭?もっかい同じことするか?あぁん?」 
「こうなったら…どすすぱーくをうつよ!」 
「ちょっ!ドススパークはさすがにやばいですって職員さん!」 
「ゆふふ、いまごろこわがってもおそいよ!」 
「さっさと撃って来いって。ほんっとにとろい饅頭だなぁ!」 
「ゆっがぁあ!だまれぇ!」

慌てふためく警官に対し、挑発すらかます余裕のある職員。

「ゆぅうう!おのぞみどおりころしてあげるよ!みんな!そこをどいてね!」 
「「「ゆわーい!」」」

完全にデジャヴだ。となると、この後の展開も想像がつくというものだ。

「どすすぱーくをうつよ!」

高らかに宣言したドスに対し、職員の方はというと…

「ほれほれたかれたかれ、クソども。」

こちらもデジャブだ。大量のクッキーを取り出し、ドスに真っ直ぐ近づきながら 
直線を描くように後ろにばらまいてゆく。そのあとをついて行く警官。 
こうして二人の後ろには見事クッキーロードの完成だ。 
クッキーロードの建設を終えた二人の終着点は、ドスの真正面。

「あまあまだぁああ!」 
「どいてね!どいてね!ぜんぶれいむのだよ!」 
「むきゅう!けんじゃにこそあまあまはふさわしいのよ!」 
「とかいはなわたしにあまあまをけんじょうしたのねぇええ!」 
「くっちゃ…はふ…これうっみぇええ!しあわしぇええええ!」

当然クッキーロードに群がる野良ゆっくり。一方、ドスは…

「ゆぅぅ…ゆゆゆん!」 『ズン!』 
「これは…何を?」 
「体の向きを調整して、固定してるんですよ。前にしか撃てませんからね。」 
「まったく俺らの後ろの状況に気づいていませんね。」 
「いやはや、ドススパークを撃つとなるとですね、それに全神経を集中しちゃうんですよ。」 
「何とまぁ…」 
「はっきり言ってジャンプされるよりこっちの方が安全です。 
 準備から撃ち終るまでたっぷり時間がありますからね。」 
「むぐむぐ…も~ごも~ご」 
「次は?」 
「口の中の、ドススパークを撃つためのきのこ探しです。ここまでいけば撃ち終るまで他のことはできません。 
 探してから飲み込むまでは目の前のことにすら気づきませんし、チャージが始まれば撃つまで動けませんからね。」

そう言いながらまたトコトコと移動し、ドスの真横に回る二人。 
ここで、ドススパークを撃つ手順の説明と、時間を計算させていただく。

ドススパーク宣言(個体によってはしない):5秒 
狙いを定め、体の向きの調整       :5秒 
体の固定                :10秒      
口内のきのこを探し、咀嚼し飲み込む   :15秒 
ドススパークのチャージ         :10秒 
発射から撃ち終るまで          :2秒 
消し飛ぶ野良ゆっくり          :worthless

実に50秒近く発射に時間がかかるのだ。 
威力は絶大だが、こんな状況では同じゆっくり位にしか当たらないだろう。 
ちなみに相手がゆっくりだと、ドスから宣言を受けた時点で「ゆわぁあ」と一様におそろしーしーを漏らし、 
発射までその場に立ちすくんでしまう。 
仮に動けるようになったとしても、できるだけドスから離れようとして真っすぐ逃げるため、 
移動の遅いゆっくりでは射程4、5メートルのドススパークからは逃げられないのだ。

「それでは、撃ち終わるまで待ちますか。」 
「は、はぁ。」

そうして、ドスの真横に陣取る二人。 
ふと職員を見ると、「早く撃てや」などといいながらドスの頬を足で小突いている。 
ドスは、蹴られたことでようやく二人がまた移動したことに気づいたようだ。 
明らかに困惑しているが、チャージが始まっている以上動くことはできない。 
その目線は、忙しく二人とドスの前方を行ったり来たりしている。

「んー!んんー!」

二人に向けられる目は涙目で、必死に何かを訴えていた。「元の場所に戻れ」とでも言いたいのだろうか… 
涙目なのは射線上に野良ゆっくりが群がっていることを理解してしまったからであろう。 
チャージ中のためか、ドスはしゃべることはできず、うめくことしかできないようだ。 
しかし、無情にもドスの口内からあふれる光はどんどん強くなっていく。

『…ズドォン!』

やがて放たれたドススパークは、目の前に群がる野良ゆっくりを消し飛ばした。

「はっはっは。ご苦労ご苦労。」 『ぱちぱちぱち』 
「ゆぎぃいい!なんでまたあたらないんだぁあああ!」

満面の笑みでドスに拍手を送る職員。 
それに対しドスはぐねんぐねんと頭を振り回して理不尽を訴える。 
ドスのシミュレーションでは、二人がおそろしーしーを漏らしながらその場に立ちすくみ、 
ドススパークにより消し飛ぶという完璧な結果が待っているはずだった。 
しかし、思い通りにいかなかったこの結果はドスの理解力の範疇を逸脱しているようだ。

「なんで当たらないんだって…お前…」 
「警官さん、考えたら負けですよ。」 
「ゆぅう!どす!なにかんがえてるのぉおお!」 
「まだみんなをごろじだぁああ!」 
「ゆっきゅりできにゃいいいいいい!」 
「ちがう!ちがうよみんな…そ、そうだよ!あのにんげんたちがぜんぶわるいんだよ!」

再び始まった内輪もめに、ドスはまたも二人が悪いということで決着をつけようとしていた。 
しかし、そうは問屋が卸さない。

「お前ら…ほんとにそう思うか?」 
「「「ゆゆゆ?」」」

職員は野良ゆっくりたちに語りかける。

「よく考えてもみろ。僕はお前らにあまあまをあげただけだ。 
 しかし…それを食べていたお前らをドスは殺した…」 
「だがらどずはそんなごどじないっでいっでるだろぉおおおお!?」 
「こんなこと言ってるが…ドスがいなければお前らはあまあまを食べられたんだ。」 
「ゆぅ…」 
「わたしたちはとかいはなことをしてただけなのに…」 
「な、なんだかわかってきたよー…」

少しずつだが、野良ゆっくりたちの間に不穏な空気が流れ始める。

「そう。つまり、お前らがあまあまを食べているのが許せないドスはお前たちを…殺したんだよ。」 
「む、むぎゅうう!このどげすぅううう!」 
「ゆるせないんだぇええ!」 
「ちがうぅう!みんなだまざれでるだげだよぉおおお!」 
「ちがわないぃいい!どすうう!あまあまをかえせえええ!おちびをかえせええええ!」 
「あぁ…ドスさえいなければ僕はお前らにあまあまをあげられるのになぁ。」 
「「「ゆぉおおお!」」」

不穏な空気はあっという間に豹変し、ドスへの怒号が辺りを包む。 
一瞬でドスへの信頼を憎しみに変えるのは、自らのゆっくりを至上とする、自己中心性の塊である 
ゆっくりにのみ成せる業であろう。

「しねぇえええ!どすううう!」 
「ちぇんはおこったよー!」 
「ゆっくりできないどすはしね!」

その場にいるすべてのゆっくりがドスに対し攻撃を仕掛ける。 
しばらくはおろおろと説得を試みるドスであったが…

「ゆがぁああ!ゆっくりしてないおまえらはみんなしねぇええええ!」

1分ほど説得したところでついに我慢の限界に達したようで、応戦を始めた。 
ゆっくりが何匹集まろうとよほどのことがない限りドスには勝てない。

「さぁさ、駆除の始まりです。」 
「さっき言ってた楽に終わるってのは…」 
「まぁ、馬鹿に集まるのなんて総じて馬鹿ですよ。ちょっと言いくるめればこの通りです。」 
「それで俺達は何をするんですか?」 
「見学…ですねぇ。」

野良ゆっくりとドスの戦いの場とはうって変わって、こちらは暢気なものだ。 
ゆっくり達から2、30メートルほど距離を置いた場所でのほほんとしていた。

「どれくらいで終わりますか?」 
「あのドスは頭も悪いようで…時間はかかるでしょうね。」 
「頭がいいと早いんですか?」 
「そうですよ。ドスの攻撃を見てください。」

職員に促され警官はドスを見る。 
その攻撃方法は、噛みつきからのむ~しゃむ~しゃ。たっぷり時間をかけてジャンプ。 
長い溜めからの体当たり。そしてドススパーク。この四つ以外の攻撃は見られなかった。

「なんていうかこう…転がったりとか、舌で殴ったりとかしないんですかね…」 
「頭がそれなりにあればそれが攻撃になる、と理解できるんですがねぇ。」 
「はぁ。」 
「ほら、普通のゆっくりは素手?で攻撃するときは噛みつきか、上から押しつぶすか、体当たりしかしないでしょう。 
 あれは馬鹿なんで、ドスになっても攻撃方法がそれら以外はドススパークしか思いつかないんですねぇ。」 
「あぁ~なるほど。」 
「体が大きくなって餡子が大幅に増えた分、攻撃も大振りになるみたいですし。」 
「それであんなにちんたらと…」 
「そんなわけでまぁ、待ちましょうか。」

職員はそういうと、その場に胡坐をかいて座り込んだ。 
警官もつられて座り込む。

(そういえば、父さん、母さん…姉さんたちも、元気にしてるかなぁ。)

警官はふと家族のことを思い出していた。 
ゆっくり達の喧騒が遠くに聞こえ、青空を見上げる。雲一つない快晴だ。

(今日も街は平和だ…)

平和とはかけ離れている目の前の光景を見ながらなぜか警官はそう思った。 
無理もないだろう。ゆっくりたちは大真面目だろうが、人間から見れば喜劇のようなものだ。 
ドスが飛び上がるたびに落下地点にいる野良ゆっくりはドスが自身を潰すまで立ちすくみ、 
ドススパーク宣言をしようものなら、発射されるまで射線上にいる野良ゆっくりたちはやはり立ちすくむ。 
それは戦いとも呼べず、あまりにも現実離れしていた。 
それでもドスから逃げようとしないのは、あまあまの魔力か。

(ふふ…RPGの戦闘ってあんな感じなのかなぁ。)

その光景はまさにターン制であった。頭の悪い個体が寄り集まれば戦いも最早ゲームのようなものである。

「…さん!警官さん!」 
「はっ!」 
「ボーっとしてちゃだめですよ。ほら、終わったみたいです。」

そうこうしている内に喜劇の幕は下りたようだ。 
やはりというか、勝利者はドスの様で、ドスのみが息を切らしながらその場に立っていた。

「ゆふー…ゆふー…ゆっくりできないげすどもはしんだね…!」 
「いやーお疲れさん!」 
「こ、このくそにんげん!よくもぉおおおお!ころしてやるぅううう!」

職員に嵌められたのを理解しているのかしていないのか。おそらくしていないだろうが 
とりあえず怒りをあらわにするドス。 
学習もしないようで、またも二人を潰そうとジャンプする姿勢を見せる。

「いや、それはもういい。」 『ボグゥ!』 
「ゆ?…ゆひぃいい!どすのほっぺがぁああああ。」

ようやく職員の持参した木刀に本格的に出番が回ってきた様だ。 
横薙ぎに木刀を振ると、それはドスの右頬を吹き飛ばす。 
分厚い饅頭皮ごと、中身の餡子が飛び散る。

「い、いぢゃいいいいいいいい!どぼじでぇえええ!?」

痛みに悶えるドスはゴロンゴロンと転がり痛みを紛らわせようとしている。 
こうなっては先程よりもよっぽど危険である。

「うわ!転がってるんですけど!」 
「こうなると危ないんですよ~。ドスとはいえやはり痛みには弱いので、 
 中途半端に攻撃すると痛みに悶えて転がりまわるんですよね。」

バスガイドのように穏やかな説明口調で警官に語りかける職員は、いかにも余裕といった感じだ。 
こんな状況でも冷静沈着。職員がプロであることを実感する警官であった。

「ちょっと危ないので離れててくださいね。」 
「ど、どうするつもりなんです?」 
「こういう時はですね、こうするんですよ。」

そういうと迷いなく転がるドスへと進み、

「そら、そろそろストップだ。」 『ヒュヒュン!』 
「ゆ、ゆぎぃいいん!どすのあんよが!あんよがぁあ!」

転がるドスの底部を、的確に×字に切り裂く。 
あんよに訪れた新たな痛みに、ドスは動きを止め叫ぶ。

「よっこい…しょういちっと!」 『べりべり!べりべりべり!』 
「gびdfぅあsぅいへうfさ!?」

そして×字の中心に手をかけると、ドスの皮を四方に引きはがす。 
その様はまるで、花の蕾が開花するようであり、中から飛び出す大量の餡子はさながら花吹雪といったところか。

「はい、これで動きは止まりました。」 
「ダイナミックですね…」 
「いやぁ褒めないでくださいよ。」 

くるりと振り向き警官に語りかける職員は、全身餡子まみれだ。 
それは全身にどす黒い返り血を浴びたように見えなくもなかった。 
そんな状況で笑顔で話す職員に、警官は少しだけ引いた。 
職員は再び前を向くと、動くことのかなわなくなったドスに語りかける。

「どぼじでごんなごどずるのぉおおお!?なんにもわるいごどじでないのにいいい!」 
「いやいや、してるしてる。」 
「じでなぃいいい!」 
「森は壊すし、食べ物はとるし、なのに他の虫とかが食べ物をとったら殺すし… 
 ていうか何もしてなくても殺すよな。そんなゆっくりごときが生意気言うんじゃねえよ。」 
「うるざいいいい!もりはこわしてないし、むしだってたべるためにころすんだぁああ!」 
「お前らが森に存在して、動いて行こうとするだけで森は壊れていくんだよ。 
 それに生きてすらないやつが生き物殺すなって。 食べるって…生き物の特権だぞ?無生物が何言ってんだ。」 
「ゆっがぁあああ!ゆっくりだっていきてるんだぞぉおお!?」 
「そうか?僕にはお饅頭の中身の餡子とお前らの中身の餡子の見分けはつかないぞ?」 
「ゆんやぁああ!ゆっくりできないいいいいい!」 
「あっはっは。何度やってもこういうやり取りは楽しいなぁ。」 
「ゆ、ゆひぃ…ゆひぃいい…」

職員は戯れにドスと会話を試みたが、やがて飽きてしまったようだ。

「それじゃあ止めを刺してきますので、もうしばらくおつきあいください。」

そういうと職員は、放心状態でだらしなく開けられたドスの口の中に入っていこうとする。 
口の中に侵入してくる異物に、流石にドスも気づいたようだ。

「ゆぅ…?ゆゆっ!ゆひひひひひ!しににきたんだね!」 
「職員さん、危ない!」 
「しねええええ!」 『ガブゥ!』

警官の叫びもむなしく、ドスの歯は職員に襲いかかった。 
ドスの歯は職員の胴体を両断…できるはずもなく。

「あぁ…?うっせぇなぁ。」

ドスの噛みつきなどお構いなしに、職員は力をこめて、無理やり体をドスの口内にねじ込む。 
それにより、ドスの歯は内側へと根こそぎ持って行かれる。 
ドスと言えどもその咬筋力が人間に及ぼす影響は、せいぜい強めに締め付けられているかな、位である。

「ったく…」 『ずるずる』 
「ゆびゃああああ!なんでええええ!?」

ドスの最後にして最大の攻撃はあっけなく敗れ、職員はめんどくさそうに口内へと姿を消した。 
そして数秒後…

「ゆ゛っ!」 『ビクン』 
「うわきもっ!じゃなくてなんだ!?」 
「ゆ゛、ゆ゛、ゆ゛、ゆ゛、ゆ゛、ゆ゛、ゆ゛、ゆ゛…」 
「やぁ~終わりましたよ。」 
「もっぢょ…ゆっぐり…」

痙攣するドスの口内から職員が出てきた。

「体の中心にある中枢餡を一突きすれば、ご覧の有様です。」 
「終わった…んですか?」 
「えぇ。ご苦労様でした。」 
「は、はぁ。ご苦労様です。」(いや、俺何もしてないんだけどな…)

ドスを見ると、いつのまにか動かなくなっていた。 
これで、駆除?はようやく終わったというわけだ。

「いやはや、楽しいですねえ!」 
「あ、はは…ところで職員さん…」 
「なんでしょうか。」 
「もし今日のドスが頭のいいやつだったら…どうなってたんです?」 
「聞きたいですか?」

警官の質問に、待ってましたと言わんばかりの職員。

「あれは去年ですか…山のドスの駆除依頼を受けまして…」 
「あ、あの?」 
「いやぁ、聡明な顔つきをしてました…一目で善い個体だとわかりましたよ… 
 出してきた協定の内容もゆっくりにしてはよく出来たもので…」 
「職員さん?」 
「ですが受けたのは〝確実に駆除する〟という依頼でしてね…協定に興味があるふりをして近づいて目を…」 
「すみません…やっぱりいいです…」 
「おおっと、失礼しました。まぁ、先手必勝あるのみですね。」 
「はぁ、まぁ、こうしてみるとドスって弱いんですね…」 
「いやいや、慣れているだけです。一般の方がドスにけがをさせられたこともありますし、 
 こういう場合は絶対に私たちをお呼び下さい。今回も特別中の特別ですよ?」

そんなことを話しながら、学校を出る二人。 
正門脇には、加工所の制服を着た人間が数人立っていた。

「日曜日なのに悪いですね。それじゃあ清掃科のみなさん。全部駆除しましたので後はお願いします。」 
「お疲れ様です。さすがの手際ですね。」 
「ははは。それじゃあ警官さんも、お疲れ様でした。」

そういうと職員は颯爽と去って行った。自転車で。 
警官が声をかける間もなく行ってしまったため、仕方なく清掃科の一人に声をかける。

「あの~。」 
「何でしょうか?」 
「なんで大人数で駆除しないんですか?いつもは大人数じゃないですか。」 
「いつもはこんな風に固まったりはしてないので、一人でやると逃げられたりするんですよ。 
 今回の様なケースは稀ですが、熟練者だと一人で対応できるんですよ。ラッキーです。」 
「熟練者…?」 
「あの人は、所長なんですよ。」 
「……え、えええええ!?」 
「所長らしくしてほしいんですが…未だに最前線で駆除活動をしたがる人でして…」 
「……」

警官は、開いた口がふさがらなかった。と、その時。

「おい。」

後ろから唐突に声をかけられた。聞き覚えのある声だ。恐る恐る振り返る…

「よぅ…お疲れさん…」 
「せ、先輩…」 
「持ち場を離れたかと思えば駆除に勝手について行って…帰って来たら来たで職員さんの邪魔をするか…」 
「い、いや、これはですね…」 
「やかましいあほんだら!帰ったらたっぷり絞ってやるからな!」

何事も、でしゃばりすぎないことが肝心だと警官は痛感するのであった…






ここは、警官の持ち場である派出所。学校の包囲も解かれ、帰ってきたのだ。

「さて…何から話そうか。」 
「か、勘弁してください…反省してます…」 
「あ、お疲れ様で~す。この男、体中ドロドロなうえに木刀を持ってたんで連れてきたんですけど…」 
「何度も言っているように、私は駆除の依頼を受けましてですね…」 
「あれ?あなたは…」 
「あ、またお会いしましたね…あはははは…助けてください…」 
「……はぁ。」

所長も所長で、これからは少しおとなしくしようかな、なんて思ったのであった…


【おわり】