ゆっくりという生き物の語彙は、陳腐でいながら不可解だ。 
乏しい知能と記憶力で種族の中に蓄積されていく言語に、最近、また新しいものが加わったようだ。 

日々大量に生まれ、大量に死んでゆくゆっくり共。 
その生死流転のサイクルの中で、哀れなほど脆弱な「文化」らしきものが、それでも確かに形成され、伝えられていく。 
言語のレパートリーもその一つで、おもに人間の模倣をすることで増えていくらしい。



「ゆっくりだっていきてるんだよ!!かけがえのないいのちなんだよ!!」 

ひどく卑屈なこの言い草は、聞くからに人間の受け売りだ。 
主にれいむ種が使用するこの物言いは、 
ゆっくりが人間に虐待される際、あらゆる抵抗が無駄に終わって万策つき果てた状況で、 
最後の切り札として人間の良心を狙う、あまりにも微弱ながら最後の盾であり矛である。 
もちろん、そんな言い分に耳を貸すような人間なら最初から虐待などするはずがなく、 
100%以上の確率で不発に終わり、相手の興をさらにかき立て、より凄惨な虐待を呼び込む結果に終わる。 

私もまた、そうした言い草に興を掻き立てられた人間の一人だ。 


他人には当然秘しているが、私はゆっくり虐待が好きである。 
食品会社の要職についており、それなりの財産を持っているのだが、 
片田舎に格安で買った別荘もそのひとつだ。 
月に2、3回、休日にその別荘に赴くのだが、 
私がそこを訪れるときは、決まって何日も温めてきたゆっくり虐待のプランに胸を膨らませている。 
今回は有休を取り、三日ほどのまとまった休みが取れた。 

別荘は別段、景勝地や快適な施設が側にあるわけでもなく、本当にただの片田舎だ。 
近場でゆっくりを捕獲しやすいこと。 
近くに人家がないこと。 
この二つの条件を満たしていればよかった。 

とはいえ、自然界のゆっくりと都会のゆっくりは結構違う。 
今回は都会で捕獲してきたゆっくりを使う。 
あの台詞を吐いてもらうためには、より人間の影響が濃いゆっくりのほうが都合がいい。 
ゆっくりは単純だ単純だと言うが、それでも結構なパターンがある。 
今回は都会で野良をしていた、善良な家族を選んだ。 
厳選した。善良であればあるほどいい。善良であるほど、その葛藤を楽しめる。 


人里離れた別荘は、私以外には人っ子一人いない。 
おそらく半径2キロぐらいは人の気配はなく、ゆっくりがどれだけ叫ぼうと邪魔が入る心配はない。 

居間のテーブルに、捕獲してきたゆっくりの詰まったクーラーボックスを置く。 
氷は入っていない。その中では、大量のラムネと一緒にゆっくりの家族が入れられており、 
誰かが起きれば側にあるラムネを食べてすぐに眠る、のローテーションを繰り返している。 
中に入っているのは、いわゆる「しんぐるまざー」の成体れいむ。 
そして子ゆっくりが数匹、れいむ種が三匹とありす種が二匹だった。 

善良な個体が欲しかったので、ありす種を育てているれいむを優先的に探した。 
理由は簡単で、レイパーありすに犯されてシングルマザーをやっているれいむなら善良である確率が高いからだ。 
大抵のゆっくりは、レイパーに犯されて生まれた子供を憎む。 
少なくともありす種はすべて殺されるのが普通だが、 
母性の強い、他者を憎みきれない善良なゆっくりなら、 
子供に罪はないというわけで、レイパーに似た子供でも育てるというわけだ。 
捕獲する前に本人にも確認したが、やはりレイパーの子だった。 

ゆっくりを取り出す前に、はやる気持ちを抑え、下準備を整える。 
家中を回ってそれなりに大仰なセッティングを終えると、まず煙草を一服してから、私は笑みを浮かべて腰をあげた。 
さあ、今回のゆっくり達はどんな鳴き声を上げてくれるのだろうか。 


「どぼぢでごんなごどずるのおおおぉぉっ!!?」 

目覚めた直後はにこやかに挨拶をしてくれたれいむは今、甲高い金切り声で私を楽しませてくれている。 

始めの挨拶代わりに、無言で子れいむの一匹を踏み潰してみせた。 
これで子ゆっくりはれいむ種とありす種が二匹ずつ。必ず多いほうから片付けてバランスを取ろうとしてしまう。 
エスポワール号では命取りの発想だが、なるべく多様な反応を長く楽しみたいものだ。 

「「「「「ゆぎゃあああああああ!!?」」」」」 
餡子を撒き散らして潰れた亡骸を前にオーケストラを奏でてくれる一家。 
それでも自分に敵意を向けてはこない。相手を憎むよりも子を失った悲しみのほうが大きいのか、 
都会での野良生活で人間に逆らっても無駄なことをよく理解しているのか。 
どちらにしても好都合だ。 

「やべでえええぇぇ!!おぢびぢゃんをがえじでえええぇぇぇ!!!」 
れいむの声援に励まされながら、取り上げた一匹の子ありすをぐにぐにと揉む。 
「ゆぶぇ………びぇっ!……ぢゅ、ぶ………ぢゅぶれびぇええぇ………!!」 
強い痛みを与えるように強く揉みしだき、ときにはつねり上げる。 
泣き叫ぶ子ありすを見上げながら、れいむ一家は涙と涎を撒き散らしてさらに懇願した。 

「ぢゅぶっ……あゆぎゅっ!!……いぢゃ、びっ!!………がぶぶうぅぅ……………ぶびぇっ!!」 
親れいむの目の前に突き出してやりながらゆっくりゆっくりと力を込め、 
赤ありすの苦悶の表情をたっぷりと観賞させてやった。 
涙ながらに慈悲を乞いながらぺーろぺーろしようと舌を突き出してくるが、 
舌が子ありすに触れそうになるたびにすっと手を引き、追いすがるれいむを引きずりまわしてしばし楽しむ。 
眼球を手さぐりで潰し、上顎と下顎を丹念に砕き、たっぷり十分かけた末に子ありすはついに中枢餡を潰された。 
充分に時間をかけて潰したので、カスタードクリームは撒き散らされず、地面にぼたぼたと漏れ出すばかりだ。 

「あ゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛ぃぃ!!ゆ゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛ぃぃぃ!!!」 
次に、もう一匹の子れいむの皮を少しずつ剥いでゆく。 
外皮と粘着している内部の餡子が勢いにまかせて漏れださないように、 
丁寧に丁寧に、ぺりぺりと皮と餡子を剥離させてゆく。 
皮を剥いだはしから、スポイトで吸い上げた濃い口の塩水を振りかけてやると、 
こんな小さな体からは信じられないような声量で、子れいむは叫び狂った。 

「ぎょごぼおおおおおお!!!!どぎょおおおおおおお゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!ごごお゛お゛お゛お゛ーーーーっっ!!!」 
全ての餡子を剥がしておはぎ状態になった子れいむの前でれいむを押さえつけ、 
何度も何度も塩水を振りかけて子れいむの反応を一緒に楽しむ。 
剥き出しになった眼球をぎょろぎょろと勢いよく回転させ、大きな歯をがしがしと噛みあわせながら心地よい音曲を奏でてくれた。 
塩水を吸いすぎた餡子がぼろりと崩れ落ちるまで、子れいむはやはり十分近く生き続けた。 

そんな子供たちの晴れ姿を観賞しながら、親のれいむは何度も何度も私に質問してきた。 
「どぼじでごんなごどずるのおおおぉぉ!!?」 
三匹目の子ゆっくりを殺したところで、私は満面の笑みをたたえて返答した。 

「そりゃあ、楽しいからに決まってるじゃあないか!」 
「ゆぶう!!ゆぶううーーっ!!ぶひゅううう!!」 

もちろん、これは言語ではない。れいむの激しすぎる息遣いである。 

「だんでっ!?だんでごんだごどがだどじいいどおおお!!? 
がわいいおぢびぢゃんだっだどにっ!!どっでぼゆっぐじじでだどにいいいい!! 
がえじでっ!!でいぶのがわいいおぢびぢゃんがえじでよおおおお!!!」 
「ええ?もう殺しちゃったから返せないな。ごめんなっ☆」 
「ゆ゛ぎいいいいいい!!!ぎがあああああ!!なにがおがじいんだああああああああーーーーーーっ!!!!」 
「あっはっは!子供を殺されて顔を真っ赤にしてるゆっくりほど面白いものはないな! 
歯茎を剥きだしてふーふー言っちゃって、最高に笑えるよ。面白いから残りの子供も潰しちゃおう」 
「やべろおおおおおお!!やべでねええええ!!ぼうおぢびぢゃんごろざないでえええええ!!」 
「ゆ゛う゛ううううぅ!!ぎょわいいいいいぃぃ!!」「どぎゃいばじゃにゃいわあああぁぁ!!みゃみゃぁぁぁ!!」 

必死に母親の背後に逃げ込む、残り二匹の子ゆっくり共。 
人間に勝てるわけがないことを充分に知りながら、怒りと悲しみを表情に浮かべてぷくーをするれいむ。 
おいおい、そうじゃないだろう。さあ、早くあの台詞を言ってくれよ。 
今回用意してある虐待は、あの台詞がなければ始まらないんだからな。 
私はやきもきしながら、露骨な誘導をはじめた。 

「いいじゃないか、そんなゴミクズ。いくら死んだって」 
「おぢびぢゃんはごびぐずじゃだいいいいぃぃぃ!!!」 
「ゆっくりなんてゴミクズじゃないか。役に立たないし、気持ち悪いし、てんで弱いし。 
そのおちびちゃんとやらだって、何の役に立つっていうんだ?大飯喰らいで、することといえばうんうんをひり出すだけ。 
生きてる意味が見つからないよ。私たち人間を楽しませるために死んでくれよ、それでようやく役に立てるってもんだ」 
「どっ………ど……どぼじでぞんだごどいうのおおお!!? 
ゆっぐじだっでいぎでるんだよおおおおおぉぉぉ!!!」 

やった。言わせた。おそろしく簡単だ。 
ゆっくりの語彙はじつに少ないので、ちょっと誘導してやれば容易く思い通りの返答を引き出せる。 
森に生きているゆっくりなら、自分たちのゆっくり具合を説いて生きる価値を主張してきたりもするが、 
普段からさんざん人間に虐げられている都会の野良なら、人間にそんなことをしても無駄だと理解している。 
行きつくところは、どんな底辺にも保障される最低限の価値――命の尊厳しかないというわけだ。 
まったく張り合いがないが、まあそんなことはいい。 

「でいぶだぢだっでいっじょうげんべいいぎでるんだよっ!!おぢびぢゃんだぢだっでぞうだよっ!! 
どぼじでぞんなびどいごどがいえるのっ!!?にんげんざんだけがいぎでるんじゃないんだよ!! 
よわいからって、やくにたたないからって、いのちさんをおもちゃにしていいわけがないでしょ!!? 
みんな、みんな、おなじたいせつないのちさんだよっ!! 
せかいにたったひとつしかない、かけがえのないいのちなんだよおおおぉぉっ!!!!」 

一気に言い切り、れいむは涙を流しつつも、キリッと口を引き締めてこちらを見据えてくる。 
途中まで濁っていた言葉もだんだん明瞭になってきていた。 
言いながら自分に陶酔した結果、ヒロイン気取りで外面を気にしはじめたようだ。 
涙ながらのどや顔を見ているうちに爆笑しそうになり、慌てて口を押さえながら後ろを向く。 
背中を向けながらぷるぷる肩を震わせている私に向かって、れいむはとどめとばかりに言い放った。 

「にんげんさんっ!!ゆっくりはんっせいっしてね!!」 

なんとか爆笑の波をやりすごし、深呼吸してから深刻な表情を作って、私はれいむに向きなおった。 

「れいむ…………そうだ、本当にその通りだ。命は大切だ……そうだったんだよ。 
私は、私は…………人として、人間として、最も大切なことを忘れていた」 
「ゆゆっ!!」 

自分の手の平をじっと見つめ、自分がした行為におののいて苦悩に身を震わせる演技をする私。 
れいむは目を輝かせて満面の笑みを浮かべたが、すぐにキリリと怒りの表情に切り替えて言った。 

「ゆっ!!そうだよっ!!にんげんさんがしたことは、とってもひどいことなんだよっ!!」 
「自分が楽しむために弱い者を虐め、殺してしまうなんて…… 
私はいくつものかけがえのない命を奪ってしまった。とても償いきれない、重すぎる罪を背負ってしまった」 
「ゆゆっ!!にんげんさんっ!!はんっせいっすればゆるしてあげるよっ!!」 
「しかし、私は君たちの可愛い子供を殺してしまった……」 
「ゆぅ………にんげんさんをせめたって、おちびちゃんたちはかえってこないよっ!! 
えいえんにゆっくりしたおちびちゃんたちにあやまってね!!それからうめてあげてねっ!!」 
「私は………私は………」 

私は散乱する死骸の前に膝を下ろし、震える両手をゆっくりと地面に近づけ、土下座の姿勢に移っていった。 

「いや待てよッ!!?」 
「「「ゆびぃっ!!?」」」 

ガバッと起き上がり、ぎらりと光る視線をれいむ一家に射かける。 
私に対して慈しむような視線を向けてきていたれいむは飛び上がって驚き、しーしーを漏らした。 

「おぉ~~っと、いかんいかん、あやうく感動して改心してしまうところだったぞォ~~~……そうれ!」 
「「おしょらをとんぢぇるみちゃいっ!?」」 
「ゆゆぅっ!?おぢびぢゃああん!!?」 
「れいむ!この私に対して偉そうに訓戒を垂れてくれたようだがなァ……しかしお前はどうなんだ?」 

二匹の子ゆっくりを取り上げ、戦隊モノの特撮番組に出てくる悪役のような調子で私はれいむを挑発する。 
我ながら悪ノリが過ぎるが、楽しいからしょうがない。 
ゆっくり相手なら好きなだけ童心に帰れる、それが私がゆっくり虐待を愛好する大きな要因のひとつだ。 

「命は大切だ。どんな生き物だろうと、たとえそれがゆっくりのような無力で無能で不潔で有害なゴミクズだとしても。 
確かにそれは認めてもいいかもしれん。だが、れいむ!お前自身はどうだ!?命を大切にしているか?」 
「ゆ、ゆゆっ!?おぢびぢゃんっ……」 
「質問に答えろ!」 

子ゆっくり共を握りこむ手に力を咥える。 
たちまち子れいむと子ありすは膨れ上がり、「ぢゅぶれりゅうぅぅ」の呻きを漏らし始めた。 

「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛おぢびぢゃんんん!!」 
「お前は命を大切にしているのか!?」 
「ゆ゛っ!!じでるよっ!!でいぶはいのぢざんをだいぜつにじでるよっ!!」 
「本当にそうか?お前たちもまた、これまで多くの命を奪ってきたんじゃないのか?」 
「おぢびぢゃんばなじでぇぇ!!ゆっぐじざぜでええぇぇ!!!」 

会話にならないので、子ゆっくり二匹を小さな透明なケースに放り込む。 
子ゆっくり二匹が動き回るには充分なスペースがあるが、蓋をしてしまうとれいむにはもはや手出しができない。 

「れいむ。そんなに言うなら、お前の生活ぶりを見せてもらおう。 
お前が本当に命を大切にして生きているのか確認させてもらう。 
三日間やる。その間お前が本当に命を大切にしていると確認できたなら、子供たちを返してやろう。 
そしてゆっくりできるあまあまとおうちも与えてやる」 
「ゆぅっ!!ほんとっ!?」 
「ああ。ただし……お前がほんの少しでも、生き物を殺したり、虐げているのを見たなら、 
この子ゆっくり達はゆっくりできなくする。むごたらしい方法で苦しめて殺す」 
「ゆ゛ううううぅぅ!!ぎょわいいいいいぃぃ!!」「ゆっぐぢでぎにゃいいいぃぃ!!」 
「おぢびぢゃあああん!!」 
「なあに、れいむ、お前の普段通りの生活を見せてくれるだけでいいんだ。 
命を慈しみ、他の生き物を大切にするお前の生活をな。それでおちびちゃんは助かり、あまあまとおうちも手に入る。 
簡単でオイシイ話じゃないか」 
「ゆっ………ほんとう?にんげんさん、やくっそくっ!だよっ!!」 
「ああ、約束だ。絶対に守ろう。誓うよ」 
「ゆ!ゆっくりりかいしたよっ!!れいむのゆっくりしたせいっかつっをゆっくりみていってね!! 
そのあいだ、おちびちゃんたちにごはんさんもあげてねっ!!」 
「ああ、約束する」 
「ゆーっ!!おちびちゃんたち、ゆっくりがまんしてね!! 
すこしだけだよ!!そのあと、たくさんのあまあまさんとゆっくりしたおうちがもらえるからね!!」 
「ゆっ!!あみゃあみゃしゃん!!」「ときゃいはぢゃわあぁぁ!!」 

まんまと乗ってくれた。私はこらえきれずに笑みを漏らす。 
さあ、これから三日間、このれいむの生活をじっくりと楽しませてもらおうじゃないか。 
命を慈しみ、生き物を愛するれいむの、慈愛に満ちた生活とやらを。 


―――――――― 


「ゆわあぁぁぁ……」 

森に放されたれいむは、感極まった声をあげた。 

眼前に広がる世界は、れいむが都会で夢見ていた理想郷だった。 
人の姿に怯えながら、必死に生ゴミをあさる野良生活。 
どこへ行っても人間に見咎められ、アスファルトに塗り固められた路上では満足に餌を集めることもできない。 
おいしいお花さんをむーしゃむーしゃしたいと思っても、それは必ず柵に遮られた人間さんの庭に生えているのだった。 

しかし今目の前には、見渡す限りの緑、緑、緑。 
草さんは山ほどあるし、おいしそうなお花さんも沢山生えている。 
草むらの中を探せば、あの虫さんもむーしゃむーしゃできるだろう。 
都会では、ほんのわずかな草むらで採れる虫さんを狙って、数多くのゆっくりがしのぎを削り合う。 
だがここでは、れいむの独占状態。好きなだけ虫さんを探して、好きなだけむーしゃむーしゃできる。 

「ゆうううぅぅ~~~ん!!」 

口の中に広がる芋虫さんの味を想像し、れいむは早くも涎を垂らしてぷるぷる震えた。 
背後からお兄さんの声が聞こえてきた。 

「ここで自由に暮らしてくれ。時々は戻ってきて、お前の生活ぶりを報告するんだ。子供たちも心配だろ?」 
「ゆっ!そうだよ!!ときどきもどってきて、みにくるからねっ!!おちびちゃんはゆっくりしんぱいしないでね!!」 
「「ゆっくちぃ~~~!!」」 
「離れていても、私はちゃんと見ているからな。いつも通りの生活をするんだぞ、いいな」 
「ゆーっ!ゆっくりりかいしてるよ!! 
れいむのゆっくりしたせいっかつっをみて、ゆっくりはんっせいっしてね!!ぷんぷん!!」 
「はいはい、じゃあな」 

お兄さんと愛しい子供たちに見送られながら、れいむは森に跳ねていった。 
いつもどおりの生活をすればいいとは思いつつも、この森を独占して狩りができると思うと心は湧きたった。 


「ゆんっ!!ゆんっ!!すごいよおぉ、ごはんさんいっぱいだよおぉ~~~!! 
ゆっくりめうつりしちゃうよっ!!ゆんっ!!ゆぅ~んっ!!」 

涎を垂らし、森の中を跳ね回るれいむ。 
どこを見てもごちそうばかりだった。草むらに群生するお花さん、そこかしこに散見される虫さん。 
すぐにもかぶりつきたい気持ちを抑えて、眼前に広げられたメニューをなるべく多くチェックする。 
これだけあるのだから、どうせなら一番最初のひとくちは厳選したかった。 

「ゆ、ゆわわわわぁぁぁぁ……………」 

ふと目に入った草叢の葉っぱの上にいたそれに、れいむの目は釘付けになった。 
ぷりぷりまるまると太った、緑色の大きな芋虫。 
街ではこんなに大きな虫は見たこともなかった。 
虫自体が少ないうえに、目を血走らせた競合相手がすぐにさらっていってしまう。 
そんなごちそうが、今は誰にも邪魔されず、れいむに食べられるのを待っているのだ。 

「ゆぅぅ~~んっ!!ゆっくりしたいもむしさんだよおぉ~~!! 
いもむしさんっ!!ゆっくりれいむにむーしゃむーしゃされてねっ!!」 

そう言い、れいむはぽんぽんと跳ねて草叢のすぐ側に立つと高らかに宣言した。 

「かわいいれいむのすーぱーむーしゃむーしゃたいむ、はじまるよっ!!」 
『ゆゆっ!!?やめてねっ!!いもむしをたべないでねっ!!!』 
「ゆぅっ!?」 

突然聞こえてきた声に、れいむは驚いて伸ばしていた舌を引っ込めてしまった。 
どこから発せられた声なのか、きょろきょろと辺りを見回すが、ゆっくりの姿も人間さんの姿も一切見当たらない。 

「ゆぅ?へんなおこえがきこえたけど、きのせいだったよ!!」 
『きのせいじゃないよ!!ゆっくりいもむしのはなしをきいてねっ!!』 
「ゆゆーっ!!いもむしさんなのっ!?」 

驚いたことに、どうやら喋っているのは目の前の芋虫らしかった。 

『そうだよっ!!いもむしはいもむしだよ!!ゆっくりしていってね!!』 
「ゆゆーんっ!!れいむはれいむだよ!!ゆっくりしていってねっ!!」 

挨拶をしてくれた。つまり、この芋虫はゆっくりできる芋虫だ。 
芋虫さんがこんなにゆっくりできるなんて知らなかった。 
新しいお友達の登場にれいむは心浮き立ち、ぽんぽんと飛び跳ねた。 

「いもむしさんはゆっくりできるね!!いっしょにゆっくりしようね!!」 
『ゆゆっ、いもむしはかりのとちゅうなんだよ』 
「ゆーん、じゃましてごめんねっ!!れいむもかりのとちゅうなんだよ!!」 

そう言い、れいむはふと我に返った。 
そうだ、狩りをしていたのだ。そして自分は今、とっても大きくておいしそうな芋虫さんを………ゆゆっ? 

「ゆーん……いもむしさん、とってもおいしそうだよぉ……」 

再び目を血走らせて涎を垂らすも、芋虫は声をはりあげて拒絶した。 

『ゆーっ!!たべないでねっ!!いもむしをたべないでねっ!!まだえいえんにゆっくりしたくないよ!!』 
「ゆっ……ご、ごめんね!だいじょうぶだよっ!!れいむはいもむしさんをたべたりしないよっ!!」 
『ゆんっ、ゆっくりありがとうねっ!いもむしはごはんさんをさがしにいってくるよ!ゆっくりしていってね!!』 
「ゆっくりしていってねっ!!」 

気持ちのいい挨拶を交わし、れいむは涎を拭きながらも葉の上を這いずっていく芋虫を見送った。 

空腹をかかえたまま、再び跳ねだす。 
新しいお友達ができた。あんなに小さくて可愛い芋虫さんとお友達になれて嬉しかった。 
初めて見つけた、ゆっくりしていってねと返してくれるゆっくり以外の生き物。 
れいむはいよいよ楽しくなり、この森さんが自分を歓迎してくれているような気分になってきていた。 


そう、森のすべてが、実際にれいむを歓迎していた。 


『ゆっくりしていってねっ!!』 
「ゆゆっ!!のいちごさん!!ゆっくりしていってねっ!!」 

道端に群生していた野苺が挨拶を返してくれた。 

『れいむのおりぼんさんはとってもゆっくりしてるね!!』 
「ゆぅぅ~んっ!!てれちゃうよぉ!!みみずさん、ゆっくりありがとうねっ!!」 

道で出会ったミミズが飾りを褒めてくれた。 

『ゆんっ、ゆんっ!ゆっくりあそぼうね!!ゆっくりかけっこだよっ!!』 
「ゆーっ、まけないよっ!!ゆっくり!!ゆっくり!!」 

草原で出会ったバッタさんと、相手が見えなくなってしまうまでかけっこに興じた。 

『ゆっくりみてみてね!!れいむはきょうもゆっくりしてるよっ!!』 
「ゆぅぅ~~……ほれぼれしちゃうよぉぉ~~……!!」 

通りがかった池で自分の姿を映してもらい、自分の姿に見惚れた。 


森で出会うすべてが、れいむに『ゆっくりしていってね!!』と挨拶してくれた。 
そのたびにれいむは挨拶を返し、とても楽しいひとときを過ごした。 
森は命に満ち、誰もがれいむに笑いかけ、れいむをゆっくりさせてくれた。 
世界はなんと素晴らしく、なんとゆっくりしているのだろう。 
たくさんのお友達に囲まれて、れいむは今、これまでにないほど満たされていた。 
「ゆんっ!ゆんっ!」足取りも軽く、一歩一歩を鼻歌とともに踏み出してしまうれいむだった。 


―――――――― 


「むーちゃ、む-ちゃ……」 
「しょれにゃりー………」 

子れいむと子ありすは無味乾燥なご飯を咀嚼していた。 
これだけ沢山の食事にありつけるのは久しぶりのことだったが、 
お兄さんに与えられたそれはまったく味がせず、食感もぱさぱさしており、ゆっくりできなかった。 

子ゆっくり達は知らないが、それは躾用のゆっくりフードである。 
飼いゆっくりの舌が肥えないように、味付けを排除した格安のフードだった。 

「ゆぅ……」 

ご飯はまだ残っていたが、子ゆっくり達は食事を止めて外を見やった。 
透明な箱はテーブルの上に置かれ、廊下のガラス戸から外を見ることができた。 
母親の消えていった森を見やりながら、子ゆっくり達は母親の帰りを一日千秋の思いで待ち焦がれていた。 

お兄さんはご飯をくれたきり、どこかへ行ってしまった。 
子れいむと子ありすは力なくすーりすーりを交わしながら、無聊と寂しさと心細さを必死にこらえていた。 


―――――――― 


「ゆ゛ふう………ゆ゛ふう………」 

母親のれいむは、涙を浮かべて森の小道を這いずっていた。 

すでに日は落ちかけている。 
昼過ぎには湧きたっていたれいむの精神は、今はぼろぼろに摩耗していた。 

「ゆ゛ひい………ゆ゛ひい………おなか………おなかが、ぺーこぺーこだよ………」 

ぐぐう、と大きな音を立ててれいむの腹が鳴る。 

「ゆ゛うぅ………ぽんぽんさん、ゆっくりしてね…………」 

この森に放された昼過ぎから、ずっと何も食べていなかった。 

森で出会うすべてのものが、れいむに挨拶をかけ、れいむと談笑した。 
初めのころは嬉しく、楽しかった。 
しかり、れいむは狩りをしていたのだ。 
食事にありつくために見つけたものに舌を伸ばすと、食べようとしたそれが、必ず言葉を発するのだ。 
それではもはや食べることもできない。 
花もキノコも虫も草もすべてが意志を持っていた。 

今では、食べられそうなものを見つけるたびに、れいむは懇願する。 
「おねがいだからあいさつしないでね!!ゆっくりしないでね!!ゆっくりれいむにむーしゃむーしゃされてね!!」 
そう頼み、しばらく待って反応がないのを見てから、ようやく舌を伸ばす。 
それでも、舌がいまにも触れるというその時に、それが『ゆっくりしていってね!!』と叫ぶのだ。 

「ゆ゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 
『ゆっ!!れいむ、どうしたの?ゆっくりしていってね!!いっしょにゆっくりしようね!!』 
「ゆ゛っぐじなんがでぎだいいいいいいい!!!」 

今またキノコに挨拶をされ、れいむは涙目で地団太を踏んだ。 

「でいぶはおなががずいでるんだよっ!!ゆっぐじでぎだいんだよおおぉ!!むーじゃむーじゃじだいいいぃぃ!!!」 
『ゆゆっ!?ゆっくりしていってね!!ゆっくりしてね!!』 
「おなががずいでるっでいっでるでじょおおおぉぉ!!? 
ゆううう!!きのこさんっ!!れいむにむーしゃむーしゃされてね!!れいむおなかぺーこぺーこだよっ!!」 
『ゆううぅ!?やめてね!!やめてね!!むーしゃむーしゃしないでねっ!!ゆっくりできないよ!!』 
「れいむだってゆっくりできないよぉぉ!!もうずっとたべてないんだよおぉ!! 
このままだとれいむしんじゃうよっ!!どうしたらいいのおおぉぉ!?」 
『そんなことしらないよ!!ほかのものをたべてねっ!!きのこはまだえいえんにゆっくりしたくないよっ!!』 
「きのこさんはたべられるのがおしごとでしょおおぉ!?」 
『ゆーっ!?かってにきめないでねっ!!むーしゃむーしゃされるなんていやだよ!!れいむだっていやでしょ!?』 
「ゆぐっ……!!でも、でも……れいむはゆっくりだよっ!!きのこさんはたべられるためにはえてるんだよ!! 
きのこさんはうごけないでしょ!?なんにもできないでしょ!?たべられるためにいきてるんでしょおおぉ!!」 
『どぼじでぞんなごどいうのおおおぉぉ!? 
きのこだっていきてるんだよっ!!きのこはうごけないよ!!やくにたたないよ!! 
でも、でも、いっしょうけんめいいきてる、かけがえのないいのちなんだよおおぉ!!』 
「ゆっぐうううううぅぅぅぅっ……………!!!」 

なんの反論もできず、れいむはただ涙を流して舌を伸ばしていたが、 
やがてキノコに背を向けて走り出した。 


『のまないでねっ!!のまないでね!!ゆっくりできないよっ!!』 
「どぼじでぞんなごどいうのおおおおぉぉぉ!?ごーくごーくさせてよおおおぉぉっ!!!」 

水までもが反逆した。 
池に口を近づけてごーくごーくしようとしたら、拒絶の言葉が飛んできたのだ。 

『みずだっていきてるんだよっ!!ごーくごーくされたらすごくいたいよ!!ゆっくりできないよっ!!』 
「ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!のどさんがかーらかーらだよおおおぉぉ!!」 
『ほかのものをのんでねっ!!みずはいたいいたいだからいやだよ!! 
れいむだっていたいいたいはゆっくりできないでしょ!?』 

『ほかのものをたべてね』『ほかのものをのんでね』、誰もが口を揃えてそう言った。 
ほかのもの、そんなものがどこにあるのか。 
どこを探しても、なにを見つけても、他をあたれと言ってくる。 
れいむは結局何も口に入れることができず、途方に暮れた末、ついにお兄さんの家に戻るしかなかった。 


「ふーん」 

報告を受けたお兄さんは、特に感慨もない風で顎をなでていた。 

「もりさんはみんないきてたよ!!みんなたべられたくないっていってたよ!!」 
「そりゃそうだろうな。お前だって食べられたくないだろ?」 
「ゆぅ………みんないきてたなんてしらなかったよ………」 
「え?ちょっと待て、れいむ。おかしいじゃないか」 
「ゆっ?」 

お兄さんの言葉に、れいむは顔を上げる。 

「みんな生きてるなんて当たり前だろ?誰だって知ってるぞそんなこと。 
え、れいむは知らなかったのか今まで?マジで? 
と、いうことはだ、れいむ……お前は、まさか、まさかとは思うが……… 
今まで、一生懸命生きている他の生き物たちをむさぼり喰っていたのか!?」 
「ゆがーんっ!!!」 
「必死に生きている生き物たちを、かけがえのない命を、その体を…… 
噛み切り、すり潰し、少しずつ体を食いちぎって殺したのか!?そんな残酷なことをしていたのか!!?」 
「ゆ゛、そ、それは…………」 
「まさかそんな残酷なことはありえない、ありえないとは思うが、仮定の話としてだ…… 
もしも、もしもれいむがそんな事をしていたとしたら、そんなれいむに同情はできないな。 
私も、れいむの可愛いおちびちゃんたちを殺して食べてしまおう。 
おちびちゃんたちは痛いだろう、苦しいだろう………でも、しょうがないよな、私が生きていくためなんだから。 
れいむだってやってきたことなんだからな!!」 
「ゆ゛あ゛っ………ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!! 
やべでね!!やべでねええぇぇ!!やべでえええええおでがいいいいいい!!!」 
「おいおい、なにを慌てているんだ。まさか本当に、そんなひどいことをやっていたわけじゃないんだろ?」 
「ゆ゛っ………!!」 

れいむはぶるぶる震えていた。 
嘘をつくのはゆっくりできない。ゆっくりできないとわかっていたが、それでも、可愛いおちびちゃんたちのためだった。 

「してないよっ!!れいむはころしてないよ!!そんなひどいことしてないよおおぉぉ!!」 
「うん?そうだろ。当たり前じゃないか。私だってそんなことは信じてないさ。何をそんなにムキになってるんだ?」 

涼しい顔で、お兄さんは腕を組む。 
れいむは全身から冷や汗をだらだら流しながら、テーブルの上に乗っている愛しい我が子を見やった。 

「おきゃーしゃん、ゆっくちちちぇー!!」「みゃみゃー!!」 

自分を気遣って叫んでいる子供たちを見て、れいむは決心を新たにした。 
おちびちゃんたちのためなら、どんなことも耐えよう。嘘だってつこう。 

「おちびちゃんたち、ごはんさんはむーしゃむーしゃしてるっ!?」 
「ゆーっ!!むーちゃむーちゃちてりゅよ!!」「みゃみゃがいにゃいとちあわちぇーできにゃいわっ!!」 
「ゆゆぅ、おちびちゃんたち、がんばってね!!すこしのがまんだよ!! 
おにいさん、れいむにもごはんさんちょうだいねっ!!」 
「おいおい、言ってることがおかしいぞ、れいむ? 
私はこう言ったんだ。れいむの、普段通りの生活を見せてくれとな。 
もちろん、食べ物を探すのも生活のうちだ、っていうかそれがほとんどだ。 
そこをだ、私に食べ物を与えられて生きるんじゃあ、もう普段通りの生活とは言えないだろ?」 
「ゆっ……ゆぐっ……」 
「私はお前がどれだけ生き物を大切にした生活をしているか、それが見たいんだ。 
聞いたときはびっくりしたよ。一切生き物を殺さずに生きているってことだからな。 
誰も殺さずにどうやって食事をしているのか、私はそれが知りたいんだよ。はやくご飯を食べてみせてくれよ」 
「………!!………………!!!」 

八方塞がりだった。 
それからしばらく押し問答を試みたが、お兄さんは食べ物を分けてはくれず、 
結局すごすごとその場を離れるしかなかった。 

「どんなご飯を食べるのか、楽しみにしてるからな!」 

お兄さんの能天気な声が、無性に腹立たしかった。 


―――――――― 


自室にこもり、私は笑い転げていた。 
カマをかけてやったときの、れいむの衝撃を受けた表情。 
自分がしたことを認識しながら、子供のために嘘をつくことを選んだ表情。 
思ったとおり、命の大切さを説いたれいむは、それゆえに絶対的な矛盾に突き当たり、身動きがとれなくなった。 


私の目の前にあるテレビは、れいむの視界を映し出している。 
ひどく低い視界で見上げる世界はなかなか新鮮だ。 

れいむのリボンには、超小型のカメラを仕込んである。 
そのカメラが映し出す映像は、リアルタイムでこのテレビに映りこむというわけだ。 
そしてリボンにはもう一つ、マイクがつけられている。 

私がこの家で、変声機を通してマイクに声を吹きこむ。 
ゆっくりに親しみやすいような語り口で、甲高い声に変換された私の言葉は、 
遠隔通信でれいむの耳元に届く。 

変声機や通信機、小型ビデオカメラなど、いちいちネットで探して取りよせたものだ。 
趣味には金を惜しまないのが私の信条である。 
ゆっくりの声真似をして声を吹き込んでいる自分の姿を想像するとなかなかきついものがあるが、楽しみのために妥協はできない。 

かくして、れいむが何かを食べようとするたびに、私が邪魔をしているというわけだ。 
フレンドリーに挨拶をし、人格を主張し、命の尊さを説いて捕食を拒否する。 
善良なれいむは、まんまと罪悪感に苛まれて食事ができなくなった。 

命を大切にしながら、いかに捕食して生きるか? 

人間なら、上手に自分をごまかし、納得させる。 
社会の中で命の大切さを説きながら、一方で殺して捕食する営みをいかに正当化するか? 
宗教、たとえばキリスト教では、神が人間に世界を治めさせたとして、人間に隷属する存在として他種の生物を規定した。 
牛も豚も羊も、もともと人間が食べるために作られた生き物だというわけだ。 
宗教心の弱い現代日本では、もっと効率的な方法がとられている。「考えない」というやり方だ。 
誰かが疑問を呈したら、常軌を逸した偽善者扱いして排除すればいい。 

ゆっくりも、ほぼ同じだろう。 
しかしこの場合は、上位の存在たるこの私が見張っている。理論なきごまかしは許さない。 
人間なら「弱肉強食なんだから強い人間が捕食するのは当然だ」と開き直る手もある(それも矛盾の解決にはならないが)。 
今のれいむがその結論を取ったなら、より強い私がれいむの子供たちをいじめ殺す。 

人間と違い、れいむに逃げ場はない。 
理性を持ってしまった生物の命題を、ゆっくりがいかに解くか楽しみだ。 
もちろん解けるわけがないのだが、その苦悩をたっぷりと楽しませてもらおう。 

正しく生きようとする姿の、なんと滑稽なことか。 


―――――――― 


翌日の朝、れいむは早くも極限の状況下にあった。 

ゆっくりという生物は、頻繁に食事を取らなければならない。 
古くなって機能を失った餡子を排泄する、つまりうんうんをして、日常的に餡子が減っていく。 
古い餡子を捨て、食事をした分をそのまま餡子に変換する。 
人間の消化機能と違い、ゆっくりのそれは非常にシンプルなメカニズムになっている。 
食事がそのまま内臓になり筋肉になり、その内臓や筋肉を排出していることになる。 

人間のように、肉体を動かすエネルギーを食事から摂取するのではなく、 
肉体を直接排出し補充する機関であるがゆえに、食事の重要度は人間とは比較にならない。 
一切食事をせず水分もとらない生活を続けた場合、赤ゆっくりなら六時間で餓死する。 
成体ゆっくりでも、死ぬまでにせいぜい五日しかもたない。 
肉体の機能が鈍って動けなくなるまでにはもっとずっと早く、ほとんどの場合三日はかからない。 

森の木のうろを探し、なんとか寝床を確保したはいいものの、 
空腹のためにほとんど寝付けなかった。 
おまけに、自分がうろに潜り込んでいるその木が、頻繁に声をかけてくるのだ。 

『れいむ、あんしんしてゆっくりしていってね!!』 
「ゆがああああああ!!うるざいいいいいいいぃぃぃ!!!」 

善意で声をかけているらしかったが、うとうとしかけたところにそんな大声が響くのでは眠れない。 
ひと晩中感情を高ぶらせてふうふう唸り、れいむは余計な体力を消費して餡子の老朽化をさらに早めた。 

丸一日食事をとれず、現在れいむは誇張抜きで生命の危機にさらされている。 
すでに跳ねる体力はなく、ずーりずーりと這い回って食事を探す。 

「ゆぶぅ………ゆべぇ…………おで、がい………ぶーじゃ、ぶーじゃ…ざぜでぇぇぇ…………」 

普段なら見向きもしないにがにがの雑草にさえ、れいむは涙ながらに懇願してまわった。 
それでも返ってくるのはやはり同じ反応だった。 

『むーしゃむーしゃしないでね!!ゆっくりできないよ!!』 
『ゆっくりほかのものをたべてね!!』 
『いっしょうけんめいいきてるんだよ!!かけがえのないいのちなんだよ!!』 
「ゆぎがああああああああ!!!」 

れいむは泣き叫んだが、 
見ず知らずのゆっくりの一時の空腹を満たすために命を差しだしてくれるような生き物は一人もいなかった。 


今また、まるまると太った芋虫さんを見つけ、れいむは必死に懇願していた。 

「おでがい!!おでがいだよっ!!だべざぜでね!!むーじゃむーじゃざれでねっ!! 
でいぶおながべーごべーごなんだよっ!!だべないどじんじゃうよっ!!ゆっぐじりがいじでねええぇぇ!!!」 
『いやだよっ!!たべられたらしんじゃうよ!!いもむしはもっともっとゆっくりしたいよっ!!』 
「ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!! 
でいっ、でいぶは!!でいぶにはがわいいおぢびぢゃんがいるんだよおぉ!! 
でいぶがじんだらおぢびぢゃんだぢもじんじゃうんだよぉ!!いぼぶじざんにはがわいぞうだげど、じがだがないんだよっ!!」 
『いもむしにもおちびちゃんがいるよっ!!これからごはんさんをさがしておうちにもってかえらないと、 
おなかをすかせたかわいいおちびちゃんたちがゆっくりできなくなっちゃうんだよ!!ゆっくりりかいしてね!!』 
「う゛う゛う゛う゛う゛!!!う゛う゛う゛う゛う゛う゛ぅぅぅぅ!!」 

泣きながら地団太を踏み、痛む頭をフル回転させてれいむはなんとか理屈を絞り出した。 

「ゆ、そ、そうだよっ!!でいぶはしんぐるまざーなんだよっ!! 
れいぱーにむりやりすっきりされて、ひとりでおちびちゃんをそだててるんだよっ!! 
たいへんなんだよぉ!!かわいそうなんだよおおぉ!!」 

自分は可哀想なしんぐるまざーなのだから、お前は私に優しくしなければいけない。 
そんなことを主張して人間を奴隷扱いしたり、他のゆっくりに暴行を働いて食糧を奪うゲスゆっくりがいる。 
れいむは常々そんなゲスを軽蔑し、ああはなるまいと考えていた。 

それだけに、自分がそんな言葉を発したのが信じられない思いだった。 
それでも、ひどい頭痛を伴う空腹がれいむの理性をねじ伏せた。 
涎を撒き散らしながられいむはまくし立てる。 

「そうだよっ!!でいぶはしんぐるばざーなんだよっ!!やざじぐじなぎゃいげだいんだよおおぉ!!」 
『ゆーっ!!いもむしだってしんぐるまざーだよっ!! 
ゆっくりしただんなさんがとりさんにたべられちゃったから、ひとりでこそだてしなきゃいけないんだよ!! 
かわいそうなんだよ!!やさしくしなきゃいけないんだよ!!』 
「ゆ゛っ………う゛…………うるざいうるざいうるざいいいぃぃ!! 
でいぶはじんぐるばざーなんだあああああぁぁぁぁ!!!おぢびぢゃんのだべにいぎなぎゃいげだいんだよおおおぉ!! 
おぢびぢゃん!!おぢびぢゃん!!おぢびぢゃん!!おぢびぢゃんのだめなんだああぁぁ!!!」 

おちびちゃん。 
その言葉を、れいむは必死に繰り返した。 
そうだ、自分のためではない。可愛いおちびちゃんのため。おちびちゃんのためなら何だってできる。 
ゆっくりできないゆっくりになっても、どんなゲスになっても、おちびちゃんのためなら耐えよう。 
おちびちゃんのために、自分はゲスになろう。 

おちびちゃんのために。 
それが、れいむの選んだ免罪符だった。 
すべての責任を我が子に押しつけ、れいむは空腹を癒す道をとった。 

『ゆっくりやめてねっ!!むーしゃむーしゃしないでねっ!!』 
「でいぶはじんぐるばざーだんだあああああああぁぁぁあ!!!」 

叫びながら、れいむはついに芋虫にかぶりついた。 
途端に、芋虫の絶叫が森に響く。 

『ゆっぎゃああああああああああああああぁぁぁあ!!!!』 

それを聞き、れいむは一瞬体を硬直させたが、 
歯を食いこませた芋虫の体から染み出す体液の味が、れいむを狂わせた。 
葉の上から地面に引き下ろし、れいむは芋虫の下半身を噛みちぎった。 

「むーじゃっ!!むーじゃっ!!むーじゃあああぁぁ!! 
……………しっ、し、し、し、しししししししあわせええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!」 

それは、れいむのゆん生の中でも最高の美味だった。 
水さえ飲めずに乾ききっていた全身に、芋虫の味が暴力的なまでの濃厚さで染み透ってゆく。 

『あ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! 
いだい!!いだい!!いだいいだいいだいいだいいだいいだいいいいぃぃぃぃ!!!』 

一方で、芋虫はぐねぐねと身悶えしながら絶叫していた。 
噛みちぎられた断面から体液を漏らして転げ回る。 

『あんよざんがっ!!あんよざん!!あんよざんゆっぐじがえじでええぇぇ!! 
これじゃもうかりがでぎないよおおぉぉ!!おぢびぢゃんがじんじゃうよおおおぉぉお!!』 

芋虫の悲鳴を、れいむはしっかり認識していた。 
普段のれいむなら、その苦痛にあてられて涙を流しただろう。 
しかしれいむは今、あえてそれを無視した。 
この芋虫は言葉なんか喋っていない、自分に何度もそう言い聞かせながら涎の溜まった口を再び開く。 

『ゆ゛ああああああやべでええぇぇ!!むーじゃむーじゃじないでええぇぇ!!』 

叫ぶ芋虫の体を、一寸刻みにちぎってゆき、少しずつ少しずつ大切に味わってゆく。 

『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛いだいだいだいだいだああああああぁぁ!!! 
ごぶっ!!ゆぼっ!!ゆぶっゆっぐじでぎだっ!!いぢゃあああぁぁ!!』 

芋虫の絶叫を必死に意識の外に追いやりながら、れいむは涙を流して新鮮な体液を味わった。 
その涙は、あまりの美味しさへの感動からだった。 

「むーしゃむーしゃむーしゃむーしゃ…………しあわせえええええええええ!!!」 


『おい、戻ってこい』 
「ゆゆっ!?」 

食後のすーぱーうんうんたいむの最中に、声が聞こえてきた。 
体を起して周囲を見渡しても誰もいない。 

「ゆーん?なにかおこえがきこえたけど、きのせいだったみたいだねっ! 
すーぱーうんうんたいむ、さいっかいっ!だよっ!!」 
『気のせいじゃない。私はお兄さんだ、すぐに私の家に戻ってこい』 
「ゆゆぅ!?おにいさんっ!?へんだよっ!!どこにもいないよっ!!」 
『人間は遠く離れていても声を届かせることができるんだよ。いいから戻ってこい』 
「ゆーっ!!おにいさんはすごいねっ!! 
でも、いまはれいむのすーぱーうんうんたいむのさいっちゅうっだよ!!じゃましないでね!!」 
『みゃみゃあああああぁぁぁああ!!だじゅげぢぇええええぇぇ!!』 
「ゆ゛っ!?」 

耳に響いてきたその叫び声が誰のものなのか、れいむにもすぐにわかった。 

「おぢびぢゃんっ!!?おぢびぢゃんなのぉ!?」 
『ゆっぎゃああああぁぁぁ!!みゃみゃああああああもどっぢぇっ!!もどっでぎぢぇええゆぎょおおおぉ!!』 
『そうか、悪かったな。ゆっくりすーぱーうんうんたいむを満喫してくれ』 
「まって!!まってねっ!!そのおこえはなに!?」 
『うん?お前の子供のありすと楽しく遊んでいたところさ。お前も誘おうと思って呼んだんだが、お邪魔だったみたいだな』 
「ゆ゛うううううぅぅ!!?おぢびぢゃんにでをだずなああああぁぁ!!!」 

血相を変え、れいむはがばと起き上がって駆け出した。