ゆひゆひ言いながら必死に駆けてきたれいむは、下半身にうんうんをこびりつかせていた。 
庭でバーベキューセットを前に座るわたしに向かって叫んでくる。 



「おにいざんっ!!」 
「やあ、れいむ。すーぱーうんうんたいむはもういいのかい」 
「おぢびぢゃんになにをじでるのおおおぉぉ!!?」 
「ああ、これかい?」 

れいむはぶるぶる震えながら、私が手に持っている子ありすを見ている。 

「なに、ちょっと小腹がすいたんでね。この子をおやつにしようかなと思っていたところさ」 
「みゃ、みゃ………だじゅっ、だじゅげ………どぎゃいばじゃ……にゃい……ぎゃびゃああああぁぁぁっあっ!!!」 

片方の手でライターの火をつけ、子ありすの体を再びあぶる。 
ぷしっ、としーしーを漏らし、目玉と舌を飛び出させて子ありすはまた絶叫した。 
すでに顔以外の全身が、ほんのり茶色く変色している。 
子れいむの方は透明な箱に閉じ込めて見物してもらっている。泣きながらなにか叫んでいるが放っておく。 

「ゆっぐじやべでねっ!!やべでええぇぇぇ!!!なんでええええぇぇ!!?」 
「おいおい、何をそんなに騒いでるんだ?」 

私はわざと大仰な仕草で肩をすくめてみせた。 

「腹が減ったから、殺して食べる。当たり前のことだろう? 
当たり前のことをなんでやめなきゃいけないんだい?」 
「おぢびぢゃんがいだがっでるでじょおおおおお!!?」 
「うん。だから?」 
「がわいぞうでじょおおおおぉぉ!!おぢびぢゃんはぢいざいがらやざじぐじないどいげだいんだよおおぉぉ!!」 
「あの芋虫さんも、おちびちゃんが沢山いるって言ってたなぁ……」 
「ゆっ!!?」 
「あびぎゅうっ!!?」 

再びライターを灯し、子ありすをあぶりながら私は言ってやった。 

「ものすごく痛がってたよなぁ、あの芋虫さん。 
あんよを千切られて、苦しんでいるところを少しずつ少しずつ千切られて食べられて…… 
痛かったろうなあ。苦しかったろうなあ。なあ、れいむ?」 
「だじゅげぢぇええええぇぇ!!あっづううううぅぅぅいいいぃぃぃみゃみゃあああああぁぁぁ!!!」 
「ゆ゛…………ゆ゛………なんで…………?」 

我が子の絶叫にも返事をせず、れいむは冷や汗をだらだら流して私を見ていた。 

「私たち人間にはなんでもお見通しなのさ。芋虫さんは美味しかったかい?」 
「…………!!…………あの、あれは……れいむはしんぐる………まざー、だか……ら……」 
「あの芋虫さんもシングルマザーだと言っていたよなあ?沢山の子供を育てていると言っていたよなあ?」 
「おぢっ………おぢ、びぢゃ…………」 
「ぅづううううぅぅぅぅ!!!ゆぎょおおおおおおおぉぉお!!!があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーっ」 

私たちの間で炎に焼かれながら、限界以上に口を開いてあらんかぎりの絶叫を絞り出す子ありす。 
美しい光景だ。 
子ありすの金髪が燃え上がり、溶けてゆく。 

「なあ、れいむ」 
「ゆあああああおぢびぢゃっ!!おぢびぢゃのがみがあああぁぁぁ!!」 
「私は感動したんだ。お前が、命は尊い、かけがえのないものだと言ったとき。 
お前たちのような無力な生き物にも、真実の尊厳が、魂の輝きというものがあるのだと感嘆した。 
だが、れいむ。私は裏切られた。お前は私を裏切ったんだ」 

バーベキュー用の金属の串を取り出し、とくに意味はないが、炎であぶる。 

「命は尊いと言ったお前が………なぜ殺した? 
あんなにゆっくりしていた芋虫さんを、恐らくはお前よりも弱い体で辛い思いをしながら多くの子供を育てていた芋虫さんを、 
お前はなぜ殺したんだ?」 
「ごめんなさいいいいぃぃぃ!!」 

涙を滂沱と吹き出させてれいむは詫びた。 

金属の串の先端を、子ありすの口の中に突っ込む。 
なるべく皮に近い部分、そして子ありすの顔面の中心を通るように、炎で熱された串がゆっくりと子ありすの体を貫いていった。 
子ありすの絶叫。 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!!!!!」 

子ありすから手を放すと、顔面以外の皮膚が茶色く焼け焦げた子ありすが金串に貫かれてぶら下がる。 
上顎から額を貫く金串にほとんど顔面の皮膚だけでぶら下がっているので、 
顔面が中心でひきつって盛り上がり、とても面白い顔になっている。 

「おぢびぢゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 
「なぜ殺したのかと聞いてるんだが?」 
「おなががっ!!おな、おなががずいでっ………」 
「私もおなかがすいているんだ。この子でおなかをゆっくりさせてもらうよ」 
「あ゛ーーーーーっ!!あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーーーっ!!!!」 

金串に挿したまま、子ありすを辛口のタレに漬ける。 
ごぼごぼと口から空気(呼吸は必要ないはずだが)を吹き出し、全身にしみ込む辛味の苦痛にさらに子ありすが身悶える。 
しばらくそうしてから引き上げ、そのまま子ありすをアルミホイルで包み、焼き網の上に置いて蒸し焼きにする。 
金串に貫かれ、アルミホイルの中で高熱に蹂躙され、子ありすは元気よく歌いつづけていた。 

「お前さえ命を大事にしていれば、私もこの子の命を助けてやったんだがなあ」 
「ごべんだざい!!でいぶがばがでじだ!!でいぶがばぢがっでばじだ!!いのぢはだいぜづでず!! 
いぼぶじざんもだいじなだいじないのぢざんでず!!でいぶがげずでじだ!!ゆっぐじじでばぜんでじだ!! 
おぢびぢゃんだげはっ!!おぢびぢゃん!!でいぶをだべでぐだざい!!おぢびぢゃんだげはだべだいでぐだざいいい!! 
でいぶのっ!!でいぶのだがらぼどだんでず!!おぢびぢゃんがいながっだらいぎでいげばぜん!! 
おぢびぢゃんはわるぐだいんでず!!ぜんぶでいぶのぜいでず!!おぢびぢゃんはいのぢをだいぜづにじばずっ!! 
でいぶはげずだげどおぢびぢゃんはゆっぐじじでるがらっ!!おでがっ!!おでがいでずだずげでぐだざい!! 
いっじょうのおでがいでずがらおぢびぢゃんをだべだいでぐだざいいいいいいいいいいいいいいい!!!」 

私の足元にすがりつきながら鳴き続けるれいむの声を楽しみながら、子ありすの焼き上がりを待つ。 

「そんなに元気に跳ね回って叫べるのも、芋虫さんを苦しめて殺して食べたからなんだよねえ。 
謝るなら私にじゃなくて、芋虫さんにだろう?もうお前のお腹の中だけど、まだ聞いてくれるかもよ」 
「ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛ぅぅぅ!!! 
ごべっ!!ごべなざっ!!いぼぶじざんごべんだざいいいいぃぃ!! 
ゆっぐじぶーじゃぶーじゃじでごべんだざい!!いだいいだいじでごべんだざい!! 
でいぶがわるがっだでず!!だぐざんおぢびぢゃんいるのにっ!!ごろじでごべんだざあいいい!! 
でいぶがっ!!でいぶはげずでずっ!!じぶんがいぎるだべに、いぼぶじざんをごろじだげずでずっ!! 
ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ごべんね!!ごべんで!!ごべんでえええええぇぇぇ!!!」 
「お前もバカだねえ。なんで殺して食べたりなんかしたの? 
いつものようにすればよかったじゃないか。いつものように、生き物じゃない食べ物を食べればよかったのに。 
そうすればこの子だってこんな目に遭わずにすんだのに……なに?ちょっとスリルを楽しんでみたかったわけ?」 
「ゆ゛んあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!ごべんだざっ!!でいぶがうぞっ!!うぞづいでばじっ………」 
「もしも!生き物を食べないってのが嘘だったら、私は怒ってしまうなあ。 
あそこに残っている子まりさも食べてしまわないとなあ」 
「!!!!」 
「あと一日あるじゃないか。子まりさは残しといてやるからさ、あと一日がんばってみなよ。 
今回は子ありす一匹のペナルティで見逃してやるからさ、引き続きお前のいつも通りの生活を見せてくれ。 
れいむは嘘なんかついてないよな?命を大切にするんだよなあ?」 
「……………!!!ゆ゛ぅぅぅぅぅ………!!!」 

わかりきっている。このれいむに逃げ場なんかない。 
私の休日も残りあと一日、目一杯楽しませてもらうつもりだ。 

「さて、焼き上がったかな」 

金串を持ちあげ、アルミホイルを破いて子ありすを出す。 
全身がすっかり蒸し上がり、涙も枯れ果ててびくびくと痙攣していた。もちろんまだ生きている。 
ふうふうと息を吹きかけて冷ましてから、底部からかぶりついた。 

「ゆ゛ぎぃっ!!」 

びくんと震える子ありす。 
わかってはいたが、マズい。もともとゆっくりなんて人間にとっては甘すぎて食用に適さないし、 
蒸し焼きにしたカスタード饅頭なんて期待するようなものでもない。 
だが、顔をぐしゃぐしゃにして見つめている母親の顔が極上のスパイスとなっていた。ウマい! 

私はそれから、カスタードが一気に漏れださないように巧みに持ち変えながら、 
小刻みに少しずつ少しずつ、生きたまま子ありすを食べていった。 
蒸し焼きにすることでカスタードクリームがある程度固まっていたおかげで長持ちし、 
皮膚と顔をすべて剥がれて完全なカスタード玉になってからも、 
ふたまわり以上小さくなるまでびくんびくんと震え続けていたのが面白かった。 

動かなくなったのを機に中枢餡ごと飲み下し、れいむに声をかける。 

「丹精込めて育てたおちびちゃん、おいしかったよ!!また御馳走してね!!」 
「ゆ゛んぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」 

怒りと絶望に歪んだ顔をぶるぶると震わせて叫ぶれいむ。 
普通は逆ギレし、自分を棚に上げて「ゆっくりしねぇ!!」と跳びかかるのがゆっくりだが、 
道理のわかる善良な個体を選んだおかげで、自分に何の反論もできず慈悲を乞う権利もなく、 
子れいむを人質に取られた今どんな逆ギレも命取りになることを理解している。 
どうにもならない状況下に置かれ、ただただ叫ぶしかないゆっくりの表情ほどこたえられないものはない。 
ああ、今回の虐待を思いついてよかった!! 

「さて、ペナルティはおしまい。もう戻っていいよ、今度こそいつも通りの生活を見せてくれ」 
「おぎゃーじゃん!!おぎゃーじゃあああん!!!」 

透明な箱の壁に顔を圧しつけて泣き叫ぶ子れいむを見ながら、れいむは歯を食いしばってうつむいた。 

「おっと、でもさっき芋虫さんを食べたからな。あと一日ぐらい食べないでガマンされちゃうかもなあ」 

そう言い、私は用意してあった注射器を持ち出した。 

「ゆ゛………?」 
「ちょっと失礼しますよっと」 
「ゆ゛びぃっ!!?」 

れいむの腹部に注射器を差し、薬品を注ぎ込む。 

「ゆ゛っ………ゆ゛う゛う゛う゛う゛ぅぅぅ!!?」 

即効性の薬品だった。 
ゆっくり用の下剤を注射されたれいむはとたんに脂汗を流して震えだし、 
たちまちのうちに水っぽいぴーぴーうんうん、すなわち下痢便を吹き出す。 

「ゆ゛う゛う゛う゛う゛!!?だべっ!!だべええ!! 
でいぶのあんござんででいがだいでえええぇぇ!!どまっでぇ!!うんうんどまっでよおおおおぉぉ!!!」 

新鮮な餡子を持っていかれる激痛に叫びのたうちながら、れいむは景気よく茶色い下痢便を吐き散らしてくれた。 

たっぷり三割の餡子を便としてひり出し、げっそりと痩せたれいむ。 

「ゆ゛………あ………あ゛………あ………………」 
「おーっと、すっかり痩せちゃったなあ。こりゃあ今すぐ食べないと本当に死んじゃうなあ。 
でも大丈夫だよな!いつも通り、普通に食べればいいんだもんな。さあれいむ、頑張って狩りに出かけようか。 
あ、明日の日没までに帰ってこなかったら、あの子食べちゃうから☆」 

れいむは、私を見上げた。 
その表情をビデオに撮っておかなかったことを、私はあとあとまで後悔したものだ。 


―――――――― 


れいむにはもう何もわからなかった。 

何がいけなかったのか、なんでこうなってしまったのか、どうすればよかったのか。 
そんなことを考える余裕さえなく、ただ意識にあるのは嵐のように吹き荒れる空腹と、可愛いおちびちゃんだけだった。 

ほとんど見えない視界を頼りに、森を彷徨する。 
道端の雑草を口にしようとした途端に、『ゆっくりしていってね』の声が聞こえた。 

「………ゆ゛っ…ぐじじ、で……いっで、ね」 

本能で返す挨拶はひび割れている。 
れいむはすぐに「食糧」を探すことをやめた。 
生きていない食べ物を探し回る時間はなかった。 

「………………」 

木々に囲まれた空間で、れいむは動かなくなった。 
目の前にあるそれをじっと見る。 
それは小石だった。 

れいむは舌を伸ばし、それをつついた。 

「……ゆっぐじ、じで……いっでね」 

挨拶は返ってこなかった。 
それを喜ぶ余裕もなく、れいむはそれを舌で掴みあげ、口に入れた。 
今まで口にした中で一番硬質の、拒絶に満ちた味と感触が口内に広がる。 

「……むー、じゃ……む………ゅげぇぇぇ」 

異物感に堪え切れず、力なく小石を吐きだす。 
一旦吐きだしたそれをじっと見つめながら、れいむは一筋の涙を流すと、再びそれを口に含み、 
今度は一気に飲み下した。 

「んっぐっ…………ゆっげええぇぇぇ!!」 

本能は強烈だった。 
ゆっくりの餡子はほぼなんでも消化し、餡子に変換してしまう、他に類を見ない消化機能を有しているが、 
それでも限界はある。 
食糧として認識できないものを体内に感知すると、すぐに嘔吐なり排便なりで吐きだそうとする強い本能がある。 

とにかくなんでもいいから腹に入れて空腹をしのごうとしたれいむだったが、 
悲しいかな、ゆっくりの体はそういう面で融通が利かなかったようだ。 


土くれを掘り返して食った。 
それも嘔吐した。 

枯れ枝を噛み砕いて飲み込もうとし、口内がずたずたになった。 
喉を痛めながら呑みこんだ枝も吐いてしまった。 


そして今、れいむはそれを凝視していた。 

ぼろぼろと涙をこぼし、再び反芻する。 
どうしてこんなことになってしまったのか。 
こんなことになる前に打つ手はなかったのか。 

「……ゆっぐじ、いだだぎばじゅ………」 

泣きながら、れいむはついにそれに口をつけた。 

自らのうんうんの味は想像以上にひどいものだった。 
空腹という調味料さえ、その悪臭を遮ってはくれなかった。 

何度も飲み込み、何度もえずき、肉体を叱咤しながら、れいむはそれを必死に呑みくだして体内に入れた。 
口内に頑固に残るうんうんを水で洗い流すこともできず、その悪臭はずっとれいむを苛んだ。 

もはや1グラムの餡子も無駄にできなかった。 
古くなって排泄される餡子――吐瀉物と大小便を、排泄したはしから再び体に取り込んだ。 
ゆっくりできないげろげろとうんうんを無理矢理飲み込まされた体は反乱を起こし、 
なおさら頻繁に苦痛を伴う排便が行われ、れいむの体力を確実に消耗させていった。 

それだけやっても、体内の餡子は一切増えない。 
排出した餡子を再び取り込むことで餡子の総量はそう変動しなくなったが、 
古くなって質の悪くなった餡子の割合は時を追うごとに増加し、れいむの身体機能を奪ってゆく。 
一刻の猶予もならなかった。新しい餡子を補給しなければならない。 


食欲と母性がれいむを突き動かしており、それ以外の理性はすべて沈黙した。 
ぶるぶると震える自分のもみあげを、れいむは見つめた。 
それをそういう意識で見るのは生まれて初めてのことだった。 
そんな時がまさか来ようとは想像してみたことさえなかった。 

ぎゅっと目をつぶり、ついにれいむは自分のもみあげにかぶりついた。 
激痛が意識を染め、視界に星がちらつく。 
ゆっくりにとっての髪は、人間にとってのそれとは全く異なり、一度抜ければ二度と生えてこない。 
そしてもみあげ部分に限ったことだが、任意に動かせる。 
ゆっくりのもみあげは、むしろ人間にとっての手足に対応すると考えていい。 
つまり、もみあげを千切るということは、肉を裂き骨を砕いて腕をむしり取るのと同じことなのだ。 

「ゆ゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!ぎぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁ!!!!」 

れいむは叫び、泣きわめき、それでも何度も何度ももみあげに噛みついた。 
少しずつ少しずつ食い千切っては咀嚼し、飲み下す。 
味を考えている余裕はなかった。ただ、ほんの少しずつでも空腹が満たされていくのがわかり、 
この世のものとは思えぬ苦痛を代償に、れいむはわずかなゆっくりを手に入れていた。 


口が届く範囲の髪を食べ尽くしてしまうと、後頭部や頭頂部の髪を食べるべく、 
木の幹に自分の体をごしごしと擦りつけ、髪をそぎ落としにかかった。 
木の皮に皮膚が擦られてところどころに餡子が滲んだが、 
それ以上に粗い木肌に擦られて髪がそげ落ちていく激痛はれいむをのたうち回らせた。 
それでも空腹は容赦してくれず、次の食糧をひっきりなしに求めた。 


まだか。 
まだか。 
まだ日は落ちないか。 
約束の日没まで堪え切らなければならない。生き抜かなければならない。 


道端に突き出している枝に片目を突き刺してえぐり出し、それにむしゃぶりついた。 
もはや痛みとすら呼べないほどの激痛と引き換えに得られるのは、一時間も持たない、ほんのひとときの気休めだけだ。 


まだ何かないか。何かないか。 
上唇に噛みつき、食いちぎった。 
歯で挟める範囲の皮膚は、すぐにあらかた食ってしまった。 
自らの体を食い千切るたびに、激痛に流れ出す自分の涙すら、れいむは必死にぺーろぺーろと舐め取った。 


唇をすべて食い、口の周りの歯茎が剥き出しになり、ぽたぽたと餡子がしたたる。 
これ以上皮は食べられなかった。体内の餡子が多く漏れだしてしまう。 


歯を砕いた。 
道端の石に突進して、剥き出しになった歯を叩きつけた。 
歯を砕く痛みはそれまでの苦痛をしのぐものだった。 
一度体当たりするだけで、れいむは苦痛に叫びのたうち回った。 
それでも、二本の歯にようやく罅が入っただけだ。 
泣きながら、叫びながら、れいむは体当たりを繰り返した。 


髪を食い尽くし片目をえぐり出し唇を飲み下し歯まで砕き呑みこんだた今、 
食べられるものはもう、一つしか残されていなかった。 

お飾りのリボンをはずし、れいむはぼろぼろと涙をこぼした。 
どれだけ泣いても涙が枯れないのが自分でも不思議だった。 

すべて食べ尽くすわけにはいかない。 
お飾りをなくせば、愛しい我が子が自分を判別できなくなる。 
それでも、もう他に食べられるものはない。 

ようやく少しうす暗くなってきた空を見上げながら、 
食糧を求めて暴れ回る腹をなだめ、かすむ視界を回復させるために、れいむはリボンにかぶりついた。 
歯のなくなった口で、少しずつ溶かしていくようにリボンを食いちぎってゆく。 
子供が判別するために、少しだけ、ほんの少しだけ………… 

「ゆ゛う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーーーーーっ!!!」 

命よりも大事なお飾りを、ただその日の食事のために自らの手で削り取ってゆく絶望感。 
れいむは一際長い叫びをあげた。 


―――――――― 


「さすがに引くわー」 

夕暮れの中、庭に現れたそれを見て私は苦笑した。 

全身擦り傷だらけ、片目は抉りだされて空洞となり、唇を失って歯茎が露出し、 
でこぼこになった頭部にはほとんど髪がない剥げ饅頭。 
その口には、真ん中の結び目の固まりだけが残ったリボンが咥えられている。 

引いてはいたが、この結果に満足してもいた。 
今までさまざまな虐待を実行してきたが、 
生きるために自らの体を喰えるだけ喰らうまで追い詰められたのは今回が初めてだ。 
ゆっくりの意思の強さも馬鹿にはできない。もちろん、あらかじめそういう個体を選んだ上でのことだったが。 

改めて思う。 
正しく生きようとする姿の、なんと滑稽なことか。 

「………あ゛………あ…………あ゛……………あ゛ぁ……………」 

消耗しきったれいむは、もはや言葉を喋る気力もないらしかった。 

縁側に座る私は、れいむが足元に這い寄ってくるまで待ってやった。 
ようやくたどり着いて私の顔を見上げてきたところで、私は子れいむを掴みあげて言った。 

「やあ、れいむ。間にあったようでうれしいよ。よかったな!」 
「ゆ゛………おぢ、び………ぢゃ………だじゅ………」 
「これからこの子を殺すところだったんだ。特等席でゆっくり見ていってくれ!」 

一つだけ残った右目がいっぱいに開かれた。 
真っ赤に血走ったその目の瞳は瞳孔が開き、点のように小さくなっている。 
初めて会ったときのゆっくりした笑顔は見る影もない。 
れいむは叫びだした。 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!ゆ゛あ゛があ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーーーーっ!!!」 
「あれ、どうしたんだい?私は約束通り事を進めようとしているだけだよ。 
なあ、れいむ。私はこう言ったんだよ、「普段通りの生活を見せてくれ」ってね。 
それなのに君は見せてくれなかった。そこまでして、普段何を食べているのか隠したかったのかい?」 
「ごろっ!!ごろじゃながっだっ!!なにぼごろざながっだあああああ!!!」 
「ああ、命を大切にしているのはわかったよ。で、何を食べてるんだ? 
この二つの問いは同じことだぞ、れいむ。 
すべての生き物は、殺さなければ生きられない。そういうふうにできているんだ。 
人間も、獣も、微生物に至るまで、他の生物を消費し取り込んで生きている。 
お前たちゆっくりが、なにも殺さずに生きているとすれば、それは完全な理想郷に生きているということだ。 
なあ、私は本気で思っていたんだ、ゆっくりがそんな生き物だとしたら、私たちはゆっくりに学ばなければならないと。 
さあ、お前は、何を食べて生きているんだ?」 
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 
「目を抉り、髪を飲み下し、歯を砕き、お飾りをむしり―― 
まさか、普段からそんな食生活でしたなんて本気で主張するつもりじゃないよな。 
それだったら、お前もおちびちゃんもとっくに死んでいるはずだもんな」 
「がん……ばっだっ!!がんばっだどに!!でいぶ!!でいぶごろざだいでがんばっだどにいいいいいい!!!」 
「ああ、頑張ってたな。だから?」 

私は用意してあった二つの水槽を指し示した。 

「君たちのために、とっておきのラストステージを用意しておいたよ、れいむ」 
「ゆ゛っ…………?」 

二つの水槽の中には、それぞれ土が一杯に詰まっていた。 

「まずは、あんよをもらうよ」 

変わり果てた母親の姿を見てぶるぶる震えている子れいむを掴みあげ、 
バーベキュー用の鉄板に載せて焼く。 

「ゅあ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 
「おぢびぢゃああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 

子れいむのあんよがこんがり焼き上がったところで、母親も同じように処置する。 

「おぢびぢゃん!!おぢびぢゃん!!おぢびぢゃん!!おぢびぢゃ!!おぢびぢゃおぢびぢゃっおぢびぢゃああああああ!!!」 

れいむはなんとも面白い悲鳴を上げるようになっていた。 
さすがに私にもわかった、このれいむはもう全てをあきらめている。 
ただ、最後におちびちゃんと会えたこのひと時を、死ぬまでに目一杯味わっておこうというつもりらしい。 
ひたすら我が子を見つめ、我が子を呼び、我が子のこと以外を意識から追い出そうとしているようだった。 

私とて鬼ではない。最後の救いまでは取り上げるつもりはなかった。 

「さあ、おちびちゃん、れいむ。これから君たちのおくちを塞いじゃうよ」 

絶望の表情で私を見上げる子れいむ。この子も、小さいなりに実に深みのある表情を見せるようになった。 

「お話ができるのもこれで最後だ。お母さんに、最後に何か言うことはあるかな?」 
「…………………!!!」 

ぼろぼろと涙としーしーをこぼし、もみあげをわさわさと震わせながらじっと私を見たあと、 
次に変わり果てた母親を見やり、子れいむはぎゅっと目をつぶった。 

やがて目を開き、涙をいっぱいにたたえた満面の笑みで叫んだ。 

「おきゃーしゃん………ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!!」 
「おぢびぢゃん!!おぢびぢゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん!!!!」 


今回の虐待は素晴らしい結果に終わった。 
帰りの車内で、私はにやにや笑いを止められずにいた。 

来週にでも、またここに戻ってこよう。 
その時に、録画モードにしてあるビデオの中身をゆっくりと楽しませてもらおう。 


「命の大切さ」などと、人間にも手に余る矛盾に満ちた命題を身の程知らずにもふりかざすようになったゆっくり。 
それを口にすることはどういうことか、その身の丈でも理解できるように突きつけてやった。 
気分爽快。 
本当に命を大切にする生活を強いた結果、実に滑稽な末路をたどることとなった。 

「命が大切」などと寝ぼけたことを言えるのは、自分の手で殺す必要がなく、殺される心配もほとんどない、 
地上最強の生き物だけなのだ。 
都合の悪い事実には耳をふさいで聖者を気取り、眠たいお伽噺を子供たちに吹き込めるのは、 
人間が地上最強の地位にあり、あらゆる生殺与奪をその手に握って、 
その欺瞞に異を唱えることができる存在、天敵が存在しないから浮かれていられる、ただそれだけのことなのだ。 

残念ながら、ゆっくりには人間がいる。 
欺瞞もごまかしも許さず、矛盾なき解答を迫れる上位の存在がいる。 
人間にはいない。 
そう、ただそれだけのことなのだ。 

それを見誤ったゆっくり。 
問題の本質もわからずに右往左往するその滑稽さは、今も昔も、わたしの興を掻き立て続けてくれる。 

私は速くも、次の虐待プランを練り始めていた。 


―――――――― 


「…………!!…………………!!」 
「………!!…………!!…………………………!!!」 

れいむ親子は、ガラスの壁を隔てて見つめ合っていた。 

向かい合うように設置された二つの水槽、それぞれに親と子が入れられている。 
お互いの様子がじっくりと観察できるように、壁面に触れんばかりの位置に置かれた。 

二匹ともほぼ同じ状態だった。 
あんよは黒く焼き焦がされ、口はハンダごてで溶接され、目は瞼を切除されて閉じられず、 
一切の身動きがとれないまま泣きながら黙って見つめ合うしかなかった。 

カリ…… 

足元の感触に、二匹はびくんと身を震わせる。 

水槽に詰められた土は、蟻の巣だった。 
この土の下に、何百匹もの蟻が蠢いている。 

『命を大切にする君たちに用意してあげた、これが最後の晴れ舞台さ。 
君たちたった二つの命が、沢山の、沢山の命の糧になれるんだ。 
自分たちのみじめな餡子が、輝ける無数の命の糧になる、その様子をじっくりと楽しめるように配慮しておいた。 
嬉しいかい?嬉しいだろう?笑えよ。どうして笑わないんだ? 
――ゆっくりしていってね!!』 

足元の焦げ付いた黒い皮を、蟻たちが探っている。 
ひび割れたあんよの隙間から、やがて蟻たちは侵入してくる。 
普段なら歯牙にもかけず踏み潰し喰らっていた蟻たちを、 
口をふさがれ身動きのとれない今はどうすることもできない。 


違和感が痒みになり、痒みは痛みになり、痛みは激痛になり、激痛は狂乱となる。 
根気よくかじってこじ開けた隙間から蟻たちは体内に侵入し、 
少しずつ、少しずつ、れいむ達の餡子を削り取っていった。 

「!!! !! !!!! !!!!!!」 

体の小さい子れいむのほうが、必然的に惨状の進行は早かった。 
涙を溢し、眼球をぐるぐると回し、全身から脂汗をたらし、激痛にぐーねぐーねと狂い悶えた。 
蟻は内部から食い荒らしているため、外見上はとくに変化はなかったが、 
それでも我が子の苦痛を思い、れいむは涙を流して凝視した。 

自らの体が激痛に苛まれ始めたころには、子れいむは死に瀕していた。 
体の表面を無数の蟻が這いまわり、体内にはその数十倍の蟻が蠢く。 
目の隙間から、しーしー穴やあにゃるから、蟻がひっきりなしに出入りしていた。 
蟻たちに押し上げられ、眼球が不規則な動きを見せる。 
左目がこぼれ落ち、開いた眼窩からぞわりと無数の蟻が蠢き出た。 

それでも、子れいむの死にはまだまだ時間がある。 
体内のほとんどの餡子を失うか、中枢餡が完全に破壊されるか。 
どちらかの条件を満たすには、小さな蟻たちの進行はあまりにも緩慢だった。 


もうなにも考えられなかった。 
二匹のれいむ親子は、互いに見つめ合いながら踊り続けた。 
いつまでもいつまでも、その身を苛む嫌悪感と激痛に踊り続けた。 

その脳裏に、やはり蟻たちの命を思う思考はなかった。 


【おわり】