ゆ生門 ゆ生門あき
注 ゆっくりが漢字を使います ほとんど同じ内容になってしまっています

「ゆ生門」
ある日の夕方のことである。ひとゆの“ゆっくりようむ”がゆ生門の下で雨止みを待っていた。
群れの門の下には、ようむ以外に誰もいない。ただ、朽ちそうな柱に、小さな虫が1匹とまっている。
このゆ生門が群れの正面にある以上は、このようむのほかにもゆっくりが2,3匹いそうなものである。しかし、ようむの他にはだれもいない。
なぜか。ここ1ヶ月ほど、この群れには動物とか嵐とか捕食種とか人間とかいう災害が続いて起こった。そこでこの群れの衰えが普通ではない。群れの長すらもこのことによって精神的にゆっくりできていない。
群れがその始末であるから、ゆ生門の修理を誰も顧みる者はいなかった。
そしてこの荒れ果てたのをよいことにして害虫が住む。浮浪ゆっくりが住む。とうとうしまいには、どうすることもできないゆっくりの死骸を、この門に持ってきて、棄てていくという習慣さえできた。そこで、群れのゆっくり達は気味を悪がって、この門の近くへ立ち入ることがなくなってしまったのである。



その代わりにまたカラスが集まってきた。昼に見るとそのカラスは森の木の上を鳴きながら飛びまわっている。夕方にはこの門にそれらが集まってくるのである。
もちろん。カラスは捨ててある死骸をついばみに来るのである。
しかし今日はもう時間も遅いせいか、1匹も見えない。ただゆっくりにとって害のある雨だけが見える。
ようむは雨を避けるためにゆ生門の屋根の下で、頬にできた小さな餡膨れを気にしながら、雨が降るのを眺めていた。
ようむは雨がやんでも格別どうしようという当てはない。普段なら“ゆっくりゆゆこ”の家へ帰るべきはずである。しかしそのゆゆこからは何日か前に辞めさせられてしまった。

先ほどから降り出した雨はいまだ上がることはない。そこでようむは明日の暮らしをどうするかという、どうにもならないことを考えていた。

雨はゆ生門を包んで、ざあっといった音を立てる。空は夕闇と共に重たく薄暗い雲を持つ。

・・・どうにもならないことをどうにかするためには、手段を選ぶ暇はない。
選ぶのであれば、この群れの中で雨に打たれ溶け死ぬのである。そしてこの門の上にゴミのように捨てられるのである。
選ばないとすれば・・・
ようむは手段を選び死ぬか、選ばないか迷っていた。いや、ようむは手段を選ばないことを肯定しようとしていた。しかしようむには盗賊となる勇気を出せずにいた。

ようむはしばらくの後にとりあえず今日をしのぐことにした。
秋の季節の夜は冷え、風の通らない家で“すーりすり”してほしいほどの寒さである。

どこか、風の心配のない、安心して眠れる場所をようむは探した。すると目に上へ上がるための階段を見つけた。上であるならば幸いゆっくりはできないが死体のみである。ようむは階段にあんよをかけ、脇にかけた枝の刀が抜けないよう気を付けながら上へゆっくりと上がっていた。


何分かした後のことである。門の上へ出るゆっくりが一匹。身を縮めて息を殺しながら二階の中を見ていた。
ようむは、どうせ二階には死骸しかいないと高をくくっていた。しかし、こうして二階を見ていると誰かが火を灯しながら、何かをしている。
この雨の夜の中でさらにゆ生門の上で火を灯しているということはただ者ではない。
ようむはそっと足音を盗んで階段を一番上まで上りつめた。

見ると、やはり噂の通り、いくつかの死骸が無造作に捨ててあった。火の光があろうとも光の範囲が小さいためいくつあるかは分からない。ただし、その中にはお飾りがないゆっくり、お飾りをしているゆっくりが混じっている。そしてかつて生きていたのかを疑われるほどに皮が腐り、ゆかびが生え、土塊のようにゴロゴロと転がっていた。そして、それらは足りないゆのように押し黙っていた。

ようむは余りのゆっくりできなさに思わず餡を吐きそうになった。しかし次の瞬間には周りの様子を忘れていた。ある強い感情がこのようむの感覚を奪ったのである。

ようむはその時、初めて死骸にうずくまるゆっくりを見た。ところどころ変色して、痩せこけた薄い金髪の“ゆっくりまりさ”がいた。そのまりさは火のついた枝を持って、転がっている死骸の一つの顔を覗き込むように眺めていた。赤いリボンが見えることから、“ゆっくりれいむ”の死骸であろう。

ようむは4分の好奇心と6分の恐怖に動かされ、暫時、息をするのすら忘れていた。
まりさは枝を床の隙間に刺し、眺めていたれいむの頭を押さえると、お飾りを破き始めた。お飾りは腐食しているせいか簡単に破けるらしい。

お飾りが小さく破けるのに従って、ようむの心から恐怖が少しずつ消えていった。そして、それと同時にこのまりさに対する激しい憎悪が一分ごとに強さを増していった。このときのようむはこの世のあらゆる悪に対する怒りが激しく強くなったのである。
この時、ようむに手段を選ぶか選ばないかについて聞いたら、迷いなく雨に打たれ死ぬことを選んだであろう。それほどまでにこのようむの悪を憎む心は燃やした木のように燃え上がりだしたのである。

ようむには、なぜまりさがお飾りを破るのか分からなかった。よって、このことはそれを善か悪かは知らなかった。
しかし、ようむにとってこの雨の夜にゆ生門の上でお飾りを破くということだけが、それだけで許すべからざる悪であった。ようむは先ほど盗賊になろうとしていたことはすでに忘れていたのである。

ようむは、いきなり刀に手をかけ、速足でまりさに近づいていった。
まりさはこれに驚き、投げた石が岩にぶつかりはじかれたように飛び上がり、逃げようとした。

「おのれ、どこへ行くみょん」

ようむは死骸につまずきながら慌てて逃げようとする行く手をふさぎ、こう罵った。しかしまりさは、それでもようむを押しのけて逃げようとする。
ようむは逃がすまいとしてそれを押し返す。ふたゆは暫く、死骸の中で無言のままつかみ合っていた。
しかしすぐにようむはまりさの髪をつかみ、無理矢理そこへねじ伏せた。抜け毛のような、細い髪である。

「何をしていたみょん。言え。言わぬとこれだみょん」

ようむはまりさを突き放すといきなり刀を抜き、枝の先をまりさの目の前に突きつけた。
しかし、まりさは黙っている。あんよをがたがたと震わせ、目は飛び出るのではないかというくらい見開き、足りないゆのように黙っている。
これを見ると、ようむはこのまりさの生死はすべて自分の意志に支配されていることに気が付く。そしてこれは、今まで燃やしていた憎悪をいつの間にか冷ましてしまった。ただある物事がうまくいったときの達成感があるだけである。
ようむは声を少し和らげ、こう言った。

「ようむは群れの長の使いではないみょん。今、この門の下を通っただけの旅をしているようむだみょん。だからまりさを長に通報してどうしようというようなことはないみょん。ただ、この門の上で何をしていたのか。これをようむに話してほしいんだみょん。」

するとまりさは見開いていた目をより大きくし、じっとようむの顔を見た。獲物の前の、れみりゃかふらんのような鋭い目で見たのである。なにかを食べるようにぼそぼそと細い声で、このようなことが聞こえてきた。

「このお飾りを破いてな・・・このお飾りを破いてな・・・お帽子を直そうとしていたんだぜ・・・。」

ようむは、まりさの答えが案外、平凡であることに失望した。そしてそれとともにすぐ前の憎悪が侮蔑する心と一緒に、湧いてきた。
するとその様子がまりさにも伝わったのであろう。まりさはまた、細い声で口ごもりながらこう言った。

「なるほどだぜ・・・。死骸のお飾りを破くというのは、確かに悪いことかもしれないんだぜ・・・。だけどここにいるゆっくりどもは、みなこうされてもいいようなゆっくりなのぜ・・・。まりさが今、お飾りを破いたれいむはな、・・・そこらでとれる適当なキノコを”ドススパ―クのキノコ”と言って売っていたんだぜ・・・。
まりさは、このれいむがしたことが悪いこととは思ってないのぜ・・・。そうしなければ、飢え死にをしてしまうんだぜ・・・。だから仕方なくやっていたんだぜ。
だから今もまた、まりさがやったことも悪いとは思ってないんだぜ・・・・。これもやはりやらなければ、まりさは飢え死にをしてしまうのぜ。仕方なくやったことなのぜ・・・。
その仕方ないことを知っていたこのれいむは、きっとまりさのことを許してくれるんだぜ・・・・。」
まりさは、だいたいこのようなことを言った。


ようむは、刀を脇に収めて、その刀の柄を押さえながら、冷然としてこの話を聞いていた。頬にできた餡膨れを気にしながら。
しかし、この話を聞いているうちに、ある勇気が生まれてきた。先ほど門の下で、ようむに無かった勇気である。そして、まりさを捕まえたときとの勇気とは、まったく逆の方向に向かう勇気である。
このときのようむにとって、雨に打たれて死ぬことはもはや意識の外に飛ばされた。

「きっと、そうだみょん。」

ようむは嘲るような声で念を押した。そして一歩前にでると、不意に餡膨れを気にしていた手を離し、まりさの帽子荒く掴みながら、噛みつくように言った。

「では、ようむがおまえの帽子を奪っても恨むなみょん。ようむもそうしなければ、飢え死にをしてしまうんだみょん。」

ようむは、素早くまりさの帽子を奪い取った。それから、掴みかかってくるまりさを手荒く死骸の上に蹴とばした。階段までは、すぐである。ようむは奪い取った黒い帽子を抱え、またたくまに階段の底へ駆け下りた。

しばらく、倒れていたまりさが、死骸の中から、その帽子を無くした体を起こしたのは、それから間もなくのことである。
まりさは、つぶやくように、「ゆっ・・・」とうめくような声を立て、床に刺した火のついた枝の明かりを頼りにしながら、階段まで這って行った。
そしてそこから、門の下を覗き込んだ。外は、雨の音はしないが、ただ黒洞々たる夜があるばかりである。

ようむの行方は、誰も知らない。


終わり


あとがき
テスト前にして、時間がなく投稿ができませんでした。これは、私が初投稿をする前に書きたいと思っていた作品です。
元ネタの「羅生門」とほぼ・・・と言うよりはまったく同じ話になってしまいました。
ちなみに「餡膨れ」とは、ゆっくりのニキビです。
また、テストも片が付いたので、これからまた時間があるときに書いていきます。
読んでくださり、ありがとうございました。